第24話 沈黙を破る影〔決意編・前編〕
【金曜更新】
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「パパ、“魂転写術”って悪い魔法なの?」
幼いリズが問いかけると――父・セオドリックは、淡く笑って答えた。
「悪いかどうかを決めるのは魔法じゃない。“使う人間”だよ。
命の終わりを否定せず、“別の形で繋ぐ”ための術――それが“魂転写術”さ」
「でも……みんな、それを怖がってるよ?」
「怖がる者ほど、その力の本質を知らないんだ。
けれど……正しい力が恐れられる時代なら、その力を守れる人間が必要になる。
リズ。君がいつか、その意味に辿り着いたなら――その時はきっと……」
♢♦︎♢♦︎♢
(パパ……あたし、“その時”に辿り着いた――ママを、必ず助けてみせる)
地下通路は、異様な静けさに包まれていた。
リズが目を閉じて集中すると、先の部屋から魔力の“うねり”が押し寄せてくる。
「……この先に五人見張りがいる」
リオが深く頷き、ルーナに合図を送る。
「キュルルッ」
ルーナが首を傾け、小さく鳴いた瞬間――
無音の風刃が走り、見張りたちは次々と昏倒した。
それと同時に、リオたちは一気に突入する。
♢♦︎♢♦︎♢
地下礼拝堂の空気は重く、瘴気のような黒い汚れが壁に貼り付くように広がっていた。
中央の石椅子には、魔力封印の鎖で拘束された女性――
リズの母、ミレイアが座らされている。
その両脇には黒衣の幹部たち。
そして、祭壇の上から見下ろすのは――教祖クローネ。
「ふん……来たか、我が神に逆らいし愚か者ども――私の前で、その命を惜しむな」
男は獰猛な笑みを浮かべ、ミレイアの肩にゆっくりと手を置いた。
「リズ……来ては、ダメ……っ!」
ミレイアが振り絞った声を上げる。
その直後、クローネの手に握られた銀のナイフが、冷たく喉元へ押し当てられた。
「娘よ。母親を救いたければ……この場で“裏切り”の代償を払ってもらおう」
ゆらり、と闇が胎動を始める。
彼――異端教《深紅の使徒》の教祖クローネは、帝国と通じ王都の中枢に暗い根を張る黒幕。
リズは静かにその視線を受け止め、相手の真意を見極めようとする。
クローネは獲物を弄ぶような笑みで、低く吐き捨てた。
「……ミレイアの娘か。だが、噂ほどの器ではないな。
母は伝説級の暗殺者、父セオドリックは影剣と“魂転写術”で神話に迫った男。
それにしては、お前は実に――凡庸だ」
「……」
沈黙で返すリズ。
その沈黙を「弱さ」と読み違え、クローネはさらに口角を吊り上げる。
「お前の父は“魂を記録し、継承する術”を完成させた。
だが――お前たちエルフェリア王国は、それを兵器として利用しようとした。
そして抵抗したセオドリックを……殺したのさ」
「父さんは……事故で亡くなったはず……?」
リズの声はかすかに震えていた。
クローネは愉悦を隠さず、ゆっくりと肩をすくめる。
「リズさんのお父さんを殺すなんて……王国が、そんなことするはずがないわ!」
ミナが思わず声を張り上げる。
だがクローネは、その叫びを嘲るように冷たく嗤った。
「なぜ、神の御許にあるこの私が嘘など付かねばならぬ?
――セオドリックは、“ある王国貴族”によって事故に偽装され、消された。
真実を闇に葬るためにな」
リズの拳が、ギリ、と音を立てるほど強く握られた。
クローネはその震えを愉しむように、言葉を続ける。
「だが我々は違う。“魂の記録”こそ、人が至高へ至る唯一の道。
お前の父の研究も記憶も……すべてが必要なのだよ」
暗い礼拝堂に、彼の声だけが冷たく響く。
クローネは懐から古びた魔導書を取り出し、リズの目の前でゆっくりと掲げた。
「これがその成果――禁断の魔導書。
その最深部に記されているのが、君の父が完成させた術……
《魂転写術》だ。
だが、この封印を解くには“鍵”が必要だった。
そのために、我々はお前の母を捕らえたのだ」
そう言って、クローネはミレイアへと視線を向ける。
「セオドリックは“鍵”を妻の中に仕込んでいた。
ただし、それを解くためには条件がある。
それが――《信頼していた者を裏切る》こと、だ」
「……それって……ギルド長を……?」
「ああ。お前にギルド長・バルドの暗殺を命じたのは、そのためだ。
ミレイアの元パーティーメンバー――信頼していた仲間を裏切らせれば、“影の封印”が解け始める。
仮に失敗しても、お前が捕まって死ねば、『娘を守れなかった』という事実が裏切りとして成立する」
「えっ⁈ バルドさんとミレイアさんが……元パーティーメンバー⁈」
リオが驚愕の声を上げた。
クローネは嗤い、肩をすくめる。
「しかし、愚かな母親だ。
“鍵”として生まれた者が、自分の価値を知らずにいるとはな」
「母さんは――無能なんかじゃない!!」
リズは唇を強く噛み、まっすぐ母を見つめる。
その視線に応えるように、ミレイアは静かに微笑み、口を開いた。
「クローネ……あなた、ひとつ大きな勘違いをしているわ。
“鍵”は私じゃない――《本当の鍵》は、リズよ」
「……何だと?」
「セオドリックは、リズの中に新たな継承者を残したの。
《ブック・オブ・ソウルズ》を継ぐにふさわしい、願いと記憶を宿す魂をね。
発動条件も違う。“信頼を裏切る”のではなく――“死者の願いを叶えること”」
その瞬間、魔導書がふわりと浮かび上がる。
礼拝堂に、淡い光と影の奔流が広がった。
「――そこにいるんでしょ、父さん……お願い!」
リズの叫びに応じるように、
ミレイアの背後の影が膨らみ、漆黒の中から銀の騎士が現れる。
《魂転写術》
――死者の記憶と願いが、影を媒介に現世へ顕現する現象。
「セ、セオドリック……!? 馬鹿な……!」
クローネが叫ぶより早く、銀の影騎士が動いた。
振り上げたクローネの手首を、音もなく打ち砕く。
「母さんを護る――それが、父さんの願い!!」
リズの声と同時に、影の騎士が高速の連撃を叩き込む。
右手を失ったクローネはよろめき、教団員の背後へ逃げようとするが――
「キュルルル!!」
ルーナの風刃が教団員たちを切り裂き、逃げ道を断つ。
クローネは礼拝堂の地下出口へ必死に走る。
だが、その先に少年が立ちはだかる。
「ここまでです、クローネさん」
リオだった。
その瞳は金色に輝き、未来鑑定の光が宿っている。
「――あなたの未来は、ここで終わりです」
「黙れ、ガキが……!」
クローネは毒刃を投げるが、リオは軽く身をひねって避け、
返しの蹴りでクローネを壁まで吹き飛ばす。
「リズさんの家族は……誰にも奪わせません!」
「父さん――お願い!」
リズが指先を構えた瞬間、影の騎士が疾走した。
漆黒の刃が光を裂き、クローネの背を深く貫く。
「……ぐっ……!」
教祖クローネは崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
――《深紅の使徒》、壊滅。
礼拝堂には静寂が戻る。
リズは母へ駆け寄り、拘束具を外す。
ミレイアはそのまま娘を強く抱きしめた。
「……ごめんね、リズ……今まで、何も言えなくて……」
「母さん、大丈夫。父さんの影が全部教えてくれた。
私を覚醒させるために、ずっと守ってくれてたんだよね……ありがとう」
涙が頬を静かに伝う。
(……父さんの魔術は、“死者を操る力”じゃない。
“想いを繋ぐ力”……それが、本当の《魂転写術》)
死者の願いと記憶、魂を未来へ受け継ぐ者――
《魂転写術士》リズ・エルステッド、覚醒。




