第20.5話 バルドとエミリア視線
今週は、2話の配信です。
未熟な点も多く、文章や設定に至らないところがあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
リオたちが笑顔でギルドを後にしたあと、室内はすっかり静かになっていた。
窓から差し込む夕陽が、木の床に長い影を落としている。
「……やっぱり、血なんだろうな」
バルドが低く呟いた。
大きな手でカウンターをゆっくりと撫でるその動きは、どこか懐かしんでいるようだった。
エミリアは書類を束ねる手を止め、そっと彼を見上げる。
「……ミナちゃんの魔法も、リオくんの剣も。普通じゃありません」
「……ああ。ライナスとサリアの子だ。そういうことなんだろう……」
その名を口にした瞬間、声にわずかな痛みが滲んだ。
エミリアは目を伏せる。
「行方が分からないままの、お父さん……ライナスさん。
それに……王都で人々を守って亡くなられたサリアさん……」
「もう十年以上前だ。深層ダンジョンでライナスが消えたのは……。
あいつは潜る前に言ったんだ。
――もし戻れなかったら、あの子たちを頼む、とな」
バルドは拳を握りしめた。
瞳には、かつて戦場で背中を預け合った仲間の面影が宿っている。
「ミナちゃんが三歳の頃、“魔力暴走症”を発症した時……本当に駄目かと思いました」
「……あれは、サリアと同じだ。
強すぎる魔力を抱えた者の宿命なのだろうが――」
バルドは、ゆっくりと息を吐く。
「まさか“ドラゴンの魔力”と繋がって、あの暴走が収まるとは思わなかった……。
本当に……よくぞ、生き延びてくれたものだ」
エミリアはそっと視線を落とし、やわらかく微笑んだ。
「それでも乗り越えられたのは、支えがあったから……。
リオくんも診てくれていたけど――バルドさんも、裏で相当気にしてくれてましたよね?」
エミリアが、そっと視線を上げて微笑む。
「リオくんが家にいない時、バルドさんがミナちゃんを見に行ってましたよね。」
バルドは、腕を組んだまま視線を逸らし、短く鼻を鳴らした。
「……フン。俺は別に、大したことはしていない。
――エミリア。そういうお前だって、同じだろうが。」
「だって……あの子たちは、放っておけませんから」
エミリアは肩をすくめ、困ったように、でもどこか誇らしげに微笑む。
「リオはライナスによく似ている。
剣の構えも、戦う時の目も……そして――」
そこで、バルドは静かに言葉を重ねた。
「“視えて”いるスキルも、だ」
エミリアの瞳がかすかに揺れる。
「リオくんは……まだ自覚していませんね。
自分に眠る“運命を読む力”を」
「……ああ。気づかなくていい。まだ早い。
――それに、父と同じなら、いつかはあのスキルも覚えるだろうしな……」
夕焼けが窓越しに差し込み、影が揺れた。
三つの小さな影は、もう街道の向こうへと消えている。
「ミナちゃんも……サリアさんに似ています。
人をあたたかく包む魔法の気配。
あれは……優しさそのものです」
「だが、その優しさは脆い。抱えすぎれば折れてしまう。
だからこそ――リオが必要なんだ」
エミリアは静かに頷いた。
「互いに支え合える二人……本当に、あの人たちの子どもなんですね」
「……ああ。英雄の血は、時に重い。
だが――あの子たちは背負っていけるさ」
バルドはカウンター奥の古びた短剣を手に取った。
刃は錆びていたが、柄には幾度も握られた跡が残っている。
「ライナスが残したのは、剣や技だけじゃない。
“選ぶ強さ”だ」
「サリアさんが残したのも、魔法だけではない。
人を守る心……そのやさしさです」
二人はしばし黙り込む。
まだその時、リオもミナも知らない。
自分たちの血に宿された願いも、祈りも、選ぶべき未来も。
だが――いつか必ず。
すべてを知り、選ぶ時が来る。
その未来を思いながら、バルドはそっと目を閉じた。
「英雄の子らは……英雄になるかもしれん。
だが、それは――あの子たち自身が選ぶんだ」
夕陽は静かに沈んでいった。




