第19話 新しい冒険のはじまり
第二章スタートです。
毎週金曜で更新してます。
未熟な点も多く、文章や設定に至らないところがあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
エミリアがミナとルーナの登録手続きを終えたちょうどそのとき、奥の扉が勢いよく開いた。
ごつい肩幅の男が悠々と現れ、低く響く声が部屋に満ちる。
「お、リオ。ちょうどいいところに来たな」
ギルド長のバルドが分厚い手でリオの肩をバンと叩き、にやりと笑った。
「正式に――Eランク昇格だ。おめでとう!」
「……ありがとうございます、バルドさん!」
胸の奥が熱くなる。
やっとここまで来たんだ。
「お兄ちゃん、おめでとう!」
「キュルルル!!」
ミナの澄んだ声とルーナの高い鳴き声が重なる。
二人の笑顔が隣で輝いていて、嬉しいはずなのに、照れくささが一気に込み上げた。
「それと……ミナとルーナはギルドの規定でGランクからだ。いきなりダンジョンには行けん。まずはクエストで経験を積むことだな」
「はいっ!」
ミナが元気いっぱいに声を弾ませる。
ルーナも「キュルルッ!」と短く鳴いた。
エミリアが柔らかく笑いながら書類を手に取る。
「初めは薬草採取がいいと思うわ。森も穏やかだし、三人で息を合わせる練習になるはずよ」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
森へ続く小道を、リオは肩にカゴを下げて歩く。
葉擦れの音と土の匂いが、胸いっぱいに広がった。
「お兄ちゃん……クエストの薬草って、どんなところに生えてるの?」
初めてのクエストで、緊張を隠せないミナがそっと問いかけてくる。
その不安を和らげるように、リオは笑ってみせた。
「たぶん……あの辺に……そんな気がする」
なんとなく予知スキルのかすかな手応えを感じながら、木々の奥へ進む。
しばらく歩くと、ミナがふっと立ち止まった。
瞳を伏せ、小さく息を吸い込む。
「……ヒールと――スピードブースト」
やわらかな光がふんわりとリオを包んだ。
疲れが溶けるように消え、足が軽くなる。
「……ミナ、それ……回復と身体強化の魔法だよね?」
「うん。お兄ちゃんがちょっと疲れてる気がして……」
はにかむように微笑んで、すごい魔法をさらりとかけてしまう。
(……本当にすごいな。僕が使えない魔法も、ミナは自然に使えるんだ……)
嬉しいような、少し置いていかれるような、複雑な気持ちが胸をかすめた。
そのとき、ミナは草むらにしゃがみ込み、そっと葉に指を伸ばす。
「《鑑定》!」
手をかざして低く呟くと、淡い光が薬草を包み、すぐにすっと消えた。
「これが、薬草だと思う……」
「――ミナ、《鑑定》ができるの⁈」
「うん……でも、草木や道具だけみたい。人とかモンスターには使えないけど……」
「それでも充分すごいよ。僕なんて、どれが薬草か全然分からないし」
「えっ……? じゃあ、私だけが分かるんだね……!」
小さな笑顔が、木漏れ日に照らされてきらめいた。
(……僕にはできないことを、こんなに簡単に……)
嬉しいのに、心の奥がほんの少しだけチクリと痛んだ。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
ふと気づくと、ルーナの姿が見えない。
リオは慌てて辺りを見回す。
「ルーナ? どこ行った……」
風がざわりと枝を揺らす。
次の瞬間、頭上の枝から白銀の羽がひらりと舞い降りた。
ルーナが翼を広げ、音もなく着地する。
その足元には、小鳥とウサギがいくつも転がっていた。
「……それ、全部ルーナがやったの……?」
「キュルルルッ!」
胸を張って尾羽をぴんと立てるルーナ。
だがそのとき、リオの視界がわずかにざわついた。
(……何か来る!)
未来鑑定スキルが警告を告げた瞬間、草木が荒々しく揺れた。
巨大なイノシシが唸りを上げて飛び出す。
「危ない――!」
「キュルル!!」
ルーナが翼を広げ、鋭い声をあげると、空気が一気に震えた。
無数の風の刃が放たれ、イノシシの巨体をあっという間に切り裂いた。
「……もしかして……風魔法で仕留めたの……?」
「キュルルル!!」
得意げに羽を小さく震わせるルーナを見て、リオは言葉を失った。
(……ルーナも僕には使えない魔法を、いとも簡単に……)
さっきよりもはっきりと、胸がひりついた。
自分の出番がまた一つ減った気がする。
「……僕が二人を守らなきゃって思ってたのに……逆に守られてばかりだな……」
思わずため息を吐く。
落ち込むリオの隣で、無邪気に笑うミナと、くるりと小さく飛び回るルーナ。
その眩しさに、胸が少しだけ熱くなる。
(……でも、それでもいいか。二人と一緒にいると、不思議と前を向ける気がするから)
そう思ったとき、森を抜ける風が、優しくリオの頬を撫でていった。




