第1話 最弱鑑定士リオ
はじめまして。このたび初めて小説を投稿させていただきます。
まだまだ未熟な点も多く、文章や設定に至らないところがあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
拙い作品ではありますが、登場人物たちの成長や物語の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「……またダメだった……」
ギルドホールの片隅で、リオは小さくため息をついた。
〈鑑定士〉――それは、物や人の本質を見抜く職業。
骨董品、宝石、魔法のアイテム、古代の遺物。
あらゆる品の真贋や価値、隠された効果を暴き出す“眼”の役割を担い、商人や冒険者から重宝されている。
特に冒険者パーティでは、魔物の特徴の特定や罠の察知、宝箱の鑑定、呪われたアイテムの識別など、命を救う知恵袋のような役割だ。
時には、魔法的な感知能力で致命的な罠を未然に防ぐことすらある。
だが――
十二歳のリオには、何も“見えなかった”。
いや、たまに頭に浮かぶ奇妙な“妄想”のようなひらめきだけが、彼の数少ない手がかりだった。
ここは、エルフェリア王国の王都。
すぐ外れには巨大な〈ダンジョン〉が口を開け、冒険者たちの夢と危険が渦巻いている。
リオもまた、この地で自分の“居場所”を求めていた。
冒険者ギルドには、「ギルドランク」という制度がある。
新人はすべて〈Gランク〉から始まり、依頼をこなして実績を上げることで昇格していく。
※Fランク以上にならなければ、ダンジョン探索の許可が下りない――
命を守るため、それが王都ギルドの絶対的なルールなのだ。
(みんな……どうやって鑑定スキルを使ってるんだろう……)
(やっぱり、僕だけが“役立たず”なんだ……)
リオの胸の内には、自信よりも“劣等感”が居座っていた。
家には、病気で寝たきりの妹――ミナがいる。
両親は数年前に他界し、今はリオが“家族すべて”を背負っている。
ミナの病――それは〈蒼痕症〉。
肌に青く滲む痣と、繰り返す発熱や倦怠感、時に呼吸困難すら引き起こす難病である。
治療法はあるが、薬は高価で、症状の進行も早い。
(僕が、もっと稼げたら……
Fランクに昇格して、ダンジョンに潜れたら……)
リオはギルドの掲示板を見上げたが、その瞳には覇気がなかった。
拳を握っては緩め、また握る。
(……せめて“鑑定スキル”を、人並みに使えれば……)
そう思ったその時。
「リオさん、お疲れさまです。落ち込まないでくださいね?」
柔らかな声が、カウンター越しにかけられる。
視線を向けると、栗色の長い髪と翠色の瞳を持つ――ギルド受付嬢のエミリアが、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「エミリアさん……」
その笑顔には、不思議と胸の重さをほどくような力があった。
「……ありがとうございます……」
礼を述べる声は、どこか沈んでいる。
リオはそっと視線を落とし、心の中にミナの顔を思い浮かべた。
ベッドの上で咳き込みながらも、自分を励ましてくれたあの笑顔。
小さな、か弱い手――
その温もりを、何度も握りしめるように思い返してきた。
(僕が、しっかりしないと……ミナは……)
エミリアは、何も言わず、ただ心配そうな瞳でリオを見守っていた。
──すると、急にギルド内がざわめき立った。
「ギルド長が倒れた!?」
「毒……!? これは魔物由来の反応だ!」
受付嬢や職員が慌ただしく動き、冒険者たちも一斉に席を立つ。
怒号と混乱の渦が広がっていく。
その騒ぎの中、リオは――なぜか胸の奥に“ひっかかる”感覚を覚えた。
(毒……?)
食堂の中央では、「鉄壁の胃袋」と呼ばれる大食漢のギルド長バルドが、豪快にひっくり返っている。
普段なら笑い話になる光景だが、今回は誰も声を上げられなかった。
「犯人は誰だ!?」
「こんなことがギルドで……!」
押し寄せる人波に押され、リオは小さく身をすぼめる。
そして気づけば、倒れたバルドのすぐ前に押し出されていた。
体勢を崩した拍子に、リオの手がバルドの服の袖に触れる。
――その瞬間。
“妄想”とも思える映像が、脳裏をよぎった。
彼の“最弱スキル”と呼ばれた鑑定が、ついに動き出す――。