第33話「ったく、暑くてイライラしてるんだからウザ絡みすんな。んで、何かあったのか?」
夏休みも真っただ中。
蜃気楼のように、アスファルトから陽炎が揺らめく暑い中、優斗は彩音、遥と共に学校へと足を運んでいた。今日は登校日なので。
「別に登校日くらいサボっても良くないか?」
「ダメだよ優斗君。ちゃんと学校には行かないと。めっするよ」
授業がないんだからサボっても良いじゃんと口にしようとした優斗だが、彩音の頑なな態度に、諦めの混じったため息を吐く。
わざわざ暑い中学校へ行って、大して興味もない校長の話を長々と聞かされて帰るだけ。何一つ生産的ではない。
それなら家でダラダラしていた方がよっぽど建設的である。
しかし、生真面目が服を着たような彩音にとって、おさぼりは厳禁。
優斗のお世話を頼まれているのだから、ちゃんと学校には通わせるという強い意志がある。
もしここで優斗がごねれば、彩音は優斗の手を引き無理にでも学校へ行こうとするだろう。
そんな姿をクラスメイトに見られれば、確実に冷やかしの対象になる。
冷やかしから、彩音の事を調べる者が現れれば、彩音が優斗よりも年下の事がバレるかもしれない。
そんな事になれば、更に冷やかされるのは目に見えている。年下の女の子を「姉呼び」していると。
なので、無駄な抵抗をする事なく、学校へと向かっていく。
「なぁ田中、登校日なんて何のためにあるんだろうな」
教室で田中を見つけ、優斗がうんざり顔で話しかける。
「そりゃあ、夏休みという長期休暇。その間に何かあった生徒がいないか確認するためだろ。それと俺の名前は田中じゃない」
「はぁ、マジレスしか出来ないとか、ユーモアのない男だ」
やれやれとわざわざ口に出し大きなため息を吐く優斗に、田中が軽くイラっとする。
面白みのない内容と言われれば、その通りではあるが、前振りなしで聞かれればマジレスする以外に反応を示しようがない。
「ったく、暑くてイライラしてるんだからウザ絡みすんな。んで、何かあったのか?」
普段は、夏休みや冬休みの登校日は優斗はサボって学校に来ることがない。
なのにわざわざ来て下らない事を口走る時点で、何かあったのだろうと。
「それが今朝さ……」
愚痴交じりで、朝から彩音に起こされ無理やり登校させられたことを田中に話す優斗。
こんな日は家でだらだらするべきだろと力説をしながら。
「田中、お前もそう思うだろ?」
登校日不要論を語る優斗に対し、田中が大きく頷く。
(俺も年下のママに朝から起こされて、いやいや言いながら無理やり登校日に登校したい! ママァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!)
「確かに(年下のママが起こしに来てくれない)登校日なんて不要だな!」
概ね理解を示す田中だが、話していて気づく。
自分には年下のママがいないのに、優斗には年下の姉がいる。
年下の姉が存在するのだから、いつか自分にも年下のママが出来るかもしれない。だが、それはそれとして羨まし過ぎてムカツクな、と。
年下の姉が居るという優斗の葛藤を存分に聞かされ、田中は少しだけ眉をピクつかせた。