第32話「最近、夏休みの宿題でボクたちが彩音ちゃんに教えてばかりだったから、フラストレーションが溜まったんじゃないかな?」
タイトルちょくちょく変えたりします
朝から優斗は朝から思考がフリーズしていた。
「えっ、何やってるの?」
部屋のクーラーも直り、快適な朝を迎え、朝食を取るために居間に向かた優斗。
居間のドアが閉まっているから、朝早くから彩音が来て、居間でクーラーをつけて朝食を作ってくれている。いつもの光景。
だが、そのいつもの光景は、少し違っていた。
「はい、遥ちゃん。アーン」
「アーン」
いつも食事をとるテーブルで、彩音の膝の上に乗った遥が、物凄く嫌そうな顔でアーンをしながら、朝食を食べさせられていたのだ。
「あっ、優斗君おはよう」
「あ、あぁ。おはよう彩姉……と遥」
一体どうしてこんなことになっているのかは分からないが、まぁ彩音がお姉ちゃんをしたくて暴走しているのだろうという事は分かる。
だが、ここでツッコミを入れれば藪蛇になりかねない。彩音の膝の上で「文句あんのか?」と言いたげな顔でメンチ切ってくる遥を出来るだけ見ない振りして、対面の椅子に座る。
出来るだけ見ないようにしながら、俯いた姿勢で朝食を取る優斗。遥の姿を見たら笑ってしまいそうなので。
「優斗君、どうかしたの?」
そんな優斗を心配するように、彩音が声をかける。
どうかしてるのはお前の方だと口に出したい優斗と遥だが、もちろんそんな事は口に出来ない。
「な、なんでもないよ」
なので、何でもないと言って堪えるしかない。
どこか納得いかないが、「ふーん」と軽く首を傾げると、彩音は朝食を再開する。
「ふふっ、遥ちゃんったら、お口にソースついてますよ」
しょうがないですねぇと言って、遥の口を拭う彩音。
それを「お前のせいじゃい」と遥が恨めしそうな目をしている。
「ゴフッ」
思わず優斗が吹き出してしまったのは、仕方がないと言えよう。
大丈夫か心配そうに聞いてくる彩音に、ちょっと味噌汁が変なところに入っただけと言い訳をして、それでも笑いがこらえきれずにプルプルと震える。
朝から面白い物を見れたと、満足気だった優斗だが、とある事に気づく。
遥の皿に乗った飯は残り少ない事に。
それは何を意味するのか、恐る恐る顔を上げると、遥がどこか勝ち誇ったような顔で優斗を見ている。
次は、お前の番だと。
「うわぁ、彩姉の飯、超うめぇ!」
朝食をかき込むようにして、一瞬で平らげる。
「優斗君、おかわりもあるよ」
「大丈夫! もうお腹いっぱいだから!」
自分の皿を、そのまま流しに置いて「ご馳走様」と言って、逃げるようにリビングのソファに座りTVをつけた。
ほどなくして、うんざりしたような顔の遥が優斗の隣に座る。洗い場では彩音が鼻歌交じりに朝食の後片付けを始めていた。
「それで、今日の彩姉どうしたんだよ?」
「最近、夏休みの宿題でボクたちが彩音ちゃんに教えてばかりだったから、フラストレーションが溜まったんじゃないかな?」
「毎日あれだけお姉ちゃん呼びしてたのにか?」
「なんか、『お姉ちゃんとは与えるもので、与えられるものじゃない』みたいな事言ってたから、思うところがあったんじゃない?」
遥の言葉に腕を組み、そうかなと考えてみるが、確かに宿題を教えたりしながら、上手く出来るたびに「流石彩音お姉ちゃん」と言っていた優斗。
最初の内はそれで良かっただろうが、何度も繰り返せば耐性も出来てしまうし、逆に上手く出来た子供を褒める大人みたいな立場になってしまう。
彩音の宿題のためとはいえ、思い返せばかなり雑なやり方だった。それで彩音の姉としての自尊心を傷つけてしまったのかもしれない。
だから、遥も文句を言わずに彩音の行動を受け入れていたのだろう。
ならば、自分も彩音を今日はめいっぱい姉として受け入れようと優斗は決意する。どんな要求もバッチコイと。
「優斗君、こうやってみると、本当に大きくなったよね」
「そ、そうか」
優斗の決意は早速揺らいでいた。
ソファで彩音の膝の上に座らされるという屈辱で。
「彩姉、俺重いだろ? 大丈夫?」
「お姉ちゃん全然平気だから、気にしなくて良いよ」
ニコニコと笑顔で答える彩音に、そうかと優斗は苦笑いを浮かべる。
結局、彩音の膝の上に座らされることになった優斗。恥ずかしいとか、背中に感じる彩音のお山とか、色々な感情が混ざり合う。
頭を撫でられたり、ぎゅーっとされたり、もはや弟というよりはペットの大型犬のような扱いである。
彩音にお姉ちゃん成分を定期的に与えないとこういう目にあう。
優斗と遥は改めて、彩音をちゃんと姉扱いしようと心に誓うのであった。