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第3話「彩姉、同じ学校だったのか!?」

 春休みが終わり、新学期初日。

 いつものように朝食の良い匂いに釣られるように起きてくる優斗。

 いつもと違うのは、制服姿だからだろう。


「彩姉おは……よう……?」


「優斗君おはよう。どうしたの?」


 笑顔で軽く小首をかしげる彩音。

 優斗が驚くのは無理もない。何故なら彩音は優斗と同じ学校の制服を、エプロンの下に着ていたからである。

 少し前に優斗が彩音に年齢を聞いた際に「優斗君。女性に年齢を聞くのは野暮ですよ!」と言って「めっ」をされた。

 なので大学生、下手をすればそれ以上の年齢の可能性まで考えていたのだ。


「彩姉、同じ学校だったのか!?」


「うん、そうだよ。言ってなかったっけ?」


 今にして思えば、女性の年齢を聞くのは野暮ですよと言ったのは、この時の為だったのだろう。

 小悪魔のように笑みを浮かべる彩音を見て、優斗も笑みを浮かべる。


「聞いてないよ。彩姉、この前、年齢聞いた時に教えてくれなかったのは、このためか」


「えー、何の事かな?」


 すっとぼけた事を言っておきながら、イタズラに成功した子供のような笑顔を浮かべる彩音に、あえて乗っかる優斗。

 うふふと笑いながら、とぼけ続ける彩音。

 傍から見れば、仲睦まじい本当に仲の良い姉弟のようなやりとり。

 だが、そんな彩音との楽しい朝の一時も束の間に終わる。


「そうそう。それと遥ちゃんも同じ学校だよ」


「……ハァ!?」


 優斗がウッソだろと声を上げるよりも早く、ドタバタと足音を立てて遥がリビングへと入ってくる。

 彩音とお揃いの制服姿で。

 目を向き驚く優斗を指さし「変な顔」と笑いながら、優斗の横を通り抜けると、彩音に向かってハイタッチを求める。


「「イェーイ、ドッキリ大成功!!」」


 彩音と遥が声を揃えて笑うが、優斗としてはどこまでがドッキリでどこまでが嘘か理解できていない。

 実は彩音が大学生で、遥が中学生でしたという内容のドッキリかと思ったほどに。

 驚きを隠せない、というかいまだに混乱しつづける優斗を見て、笑い続ける遥。


 年上の威厳を見せるために、必死に平静を装って見せる優斗だが、時すでに遅しである。

 最終的には、笑い転げる遥の頭の上に、ゲンコツという名の平和的解決で黙らせる事に。

 そして彩音から暴力は「めっ!」をされて、年上の威厳は最年長の威厳の前にもろくも敗れ去るのであった。



 このまま3人揃って登校……というわけにはいかず、優斗が朝食を食べている間に彩音と遥は学校へ。

 優斗と違い、彩音と遥は編入で入ってきたために、手続きがあるので早めに学校へ行かないといけないので。

 それなら先に言ってくれれば早起きしたのにと思う優斗だが、ドッキリのためにあえて言わなかったのだから仕方がない。

 なので、せめて帰りは一緒に帰ろう。そんな約束をして彩音と遥を見送る。



 始業式が終わり、特に予定もないので真っ直ぐ校門へ向かう優斗。


「優斗君、お待たせ」


 校門で待つ優斗を見つけ、彩音が息を弾ませ駆け足気味で駆け寄ってくる。

 そんな彩音に優斗が片手を上げる。傍から見ると、カップルの待ち合わせのように見えなくもない2人。


「大丈夫。俺も今来たところだから」


 なんなら言い方までカップルのようである。


「遥はまだかな」


「遥ちゃんも、もうすぐ来るよ。ほら、そこ」


 彩音が指した方向を見ると、遥が「アンちゃん、待った~!」と走ってくる。ツインテールをブラブラと揺らして。

 優斗の前まで近づくと、嬉しそうな声を上げながら腕に抱きつく。


「いや、ガキかよ!」


「えー!」


 軽く振りほどこうとする優斗に対し、遥は離すまいと力を入れる。

 そんな問答を繰り返し、諦めたようにため息を吐いた優斗が、やれやれとうんざりした顔をしながら歩き出す。


(こんなガキみたいなのに抱き着かれたところで、どうって事はない)


 再会したばかりの頃は、こうして遥が腕に絡みつくたびにドキドキした優斗だが、毎日のようにこうやって絡みついて来る。

 毎日のように腕に抱き着かれれば、当然慣れてしまうものである。


(やばっ、なんか、腕に感触が……)


 慣れるわけがなかった。

 生まれてこのかた、彼女が出来た事もなければ仲の良い女友達もいない。

 そんな男子が抱き着かれて、ドキドキしないわけがない。


「アンちゃんどうしたの?」


 優斗の腕に抱き着きながら見上げる遥。


「コイツは凄い重みを腕に感じるなって思っただけだ」


(下手な事言ったら「うわぁ、アンちゃんボクにゾッコンじゃん」とか舐められるのが目に見えてる)


 ガキ相手だと突っ張ってみる優斗だが、遥がガキではなく美少女だと心の中では理解していた。

 しかし、年上としての威厳か、ただ単に女慣れしていないのを拗らせただけか。

 必死に自分の心にまで嘘をつき、「相手はただのガキだ」などと、心の中で言い訳じみた事を言い始める。


「酷い、ボクそんな重くないし!」


「そうだったな。すまんすまん。ミジンコみたいに小さいから気づかないほどだったわ」


「なんだとぉ!!」


 嫌がってる見せる優斗だが、微妙に遥が腕から離れない程度の力で引きはがす振りをしてみる。

 その絶妙な力の入れ方は、見事な言い訳とプライドとスケベ心の黄金比である。


 だから、この時はまだ、優斗はある違和感に気づいていなかった。

読んで頂きありがとうございます!


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