第29話「大体彩音って、見た目も確かに大人っぽいけど、この胸とか反則じゃない?」
「それで、佳世さんとはどんな感じだったんですか?」
「ふふっ、聞いてよ優斗君。佳世ってばね」
「彩音。言っとくけど彩音が私の黒歴史知ってる数と同じだけ、私も彩音の黒歴史知ってるからね」
「……とっても普通の女の子なんだよ」
お菓子を摘まみ、時折じゃれ合いながら、昔話に花咲かせる彩音と佳世。
どちらかが優斗に過去の黒歴史を教えようとすると、相手の黒歴史をちらつかせの交渉が始まる。
お互いが秘密を握り合った状態で拮抗しているが、それでも稀にポロリをしてしまう。
「彩音ってば、優斗君が恋し過ぎてぬいぐるみに『優斗君』って名前つけてお世話してた事あるんだよ」
「ちょっと佳世!? それは佳世が『ぬいぐるみに好きな人の名前つけてる』って言ったから」
「確かに言ったけど、彩音にも同じ事して欲しいなんて一言も言った覚えないけどなぁ」
「~~ッ!! か、佳世こそ、私に好きな人のネクタイ結ぶ練習したいからって私で散々練習したじゃん! しかも実際に出来るチャンスがあったのに『彩音の方が上手いよ』とか言ってヘタレた上に、後で『私がやりたかった」って泣いたくせに!」
「あーっ、それ言うんだ! 言っちゃうんだ!? じゃあこっちも特大のネタ優斗君に教えちゃうから! 実は彩音の日記帳の内容ってね」
そして始まるキャットファイト。
彩音も佳世も、本日はスカートじゃない事が悔やまれるくんずほぐれつの応酬。
だが、考えて欲しい。彩音は年齢よりも上に見られることは多いが、それでも美少女である。そして友人である佳世も、さばさばした感じの美少女。
そんな美少女がマウントポジションを取ったり、人目もはばからぬようなキャッキャフッフした争いを目の前で行っている。
もしこれがスカートだったら、彼女たちも優斗の手前自重しただろう。つまりこれは、スカートじゃないからこそ、見られる光景!
なんなら、ショートパンツの隙間から見えそうな布地にドキドキするという、見えないからこその楽しみも発生している。
2人が暴れて、テーブルのコップやお菓子が零れたりしないかオロオロと心配しながらも、優斗は食い入るようにその様子を見守る。
そんな中、ふと、佳世と目が合ってしまい、慌てて顔を逸らし見ていないアピールをするが、もはや手遅れ。
バレてないよなと、コッソリ横目で佳世を見ると、佳世は見てましたよと言わんばかりに、ニチャァと口角を上げる。
「優斗君優斗君、そういえばさっき彩音と買い物行ったらナンパされたんだけどさ」
「もう、佳世その話はしなくて良いって」
「彩音ってば大学生と勘違いされてたんだよ」
「あー、彩姉って大人っぽいですからね」
大学生と間違われてナンパされたと聞き、優斗は納得する。
そうだよねと、ちょっとだけ大げさに首を縦に振りながら同意しているのは、先ほどのキャットファイトをガン見していた事から話題を逸らしたいがためである。
残念ながら、それは佳世の誘導である。
「大体彩音って、見た目も確かに大人っぽいけど、この胸とか反則じゃない?」
瞬時に彩音の背後に回り込み、両手でそのたわわな果実を持ち上げる佳世。
持ち上げられたそれは、更にその大きさをアピールしていく。
目の前でそんな事をされては、健全な男子である優斗が見ないわけがない。一瞬だが、思わず目をかっぴらき顔を前のめりに出してしまう。
「ちょ、ちょっと、佳世ッ!! 怒るよ! 本当に!」
顔を真っ赤にしながら、ポカポカと佳世を叩く彩音。
叩かれた佳世は「ごめんごめん」と笑いながら、1ミリも心の籠っていない謝罪を口にする。
「優斗君は、佳世みたいになっちゃダメだからね!」
「ははっ」
顔を赤らめ、頬を膨らませながらそう言う彩音に対し、したくても出来るわけがないと心の中でツッコミを入れる。
反省をしたのか、それともこれ以上はヤバいラインと弁えたのか、佳世がそれ以上過激な事をする事はなかった。
彩音の昔話を聞いたり、中学ではどんな勉強してるのと言われ優斗が答えに詰まったりしながら時間は過ぎていく。
「あっ、そろそろ時間か、私は予約したホテルに戻るかな」
「えー、佳世も夜ごはん一緒に食べて行かないの?」
「ホテルで予約してあるから。ごめんね」
それじゃあせめて駅まで送っていくよと提案し、彩音と優斗が佳世を駅まで送っていく。
帰りの電車が間違っていないか確認をしながら。
「それじゃ、またね」
手を振り、改札を抜けていく佳世を見送る。
時刻は夕方だが、まだ陽は高く、夕暮れまでは時間がある。
「ねぇ優斗君。そろそろ冷蔵庫の中の食材減ってきたし、ついでに買って帰ろうか」
「そっか、それじゃあ荷物持ちなら任せてくれ!」
「うんうん。頼りにしてるね。優斗君は今日はお夕飯で何か食べたいものある?」
「そうだな。それじゃあカレーかな」
「それじゃあ今日は、お姉ちゃん特製カレーだね」
それぞれスーパーの袋を片手に、帰路につく。
時間が時間だからか、商店街は人通りが多く、はぐれるほどではないが注意して歩かないとぶつかってしまいそうになるほどに。
「あっ……」
話し込んでいたせいか、他の人とぶつかった拍子に彩音がよろける。
反射的に「すみません」と彩音が謝るが、相手はそのまま素通りしていく。
眉をへの字にして、小さく笑う彩音を見て、優斗が一瞬だけ考える。
そして、手を出した。
「彩姉の、卵とか入ってるから、さっきみたいのでもし転んだら危ないし」
優斗の差し出した手と言葉の意味が分からず、キョトンと考え込む事1秒。
あと数秒彩音が分からないままだったら、優斗は即座に手を引いていただろう。
「そ、そうだね。迷子になったりしても大変だしね」
この年齢で迷子になるわけがないだろ。そんな無粋なツッコミを必死に飲み込み「お、おう。そうだな」と返事をする。
差し出された優斗の手を、彩音が握りる。
(彩姉の手、柔らかいな)
(優斗君の手って、男の子って感じがする)
女の子特有の柔らかい感じの手にドキドキする優斗に、男の子特有のゴツゴツした感じの手にドキドキする彩音。
「ふふっ」
「ん。急に笑い出してどうしたんだ?」
「そういえば、昔優斗君が迷子になった時のこと思い出して。あの時もこうやって手を繋いで一緒に帰ったよね」
「そんな事もあったな。彩姉が俺を慰めようとしてアニソン歌うんだけど、毎回同じところで歌詞間違えてたっけ」
「もう。あの時はお姉ちゃんも必死だったんだから。優斗君全然泣き止んでくれないし」
「彩姉が歌詞間違えて、それが面白くて笑ったんだっけ」
もしかして毎回間違えたのって、俺が泣き止んだからからか。そう思いながら隣を歩く彩音を見ると、少しだけドヤ顔を返される。
本当に間違えただけかもしれないし、泣き止ませるためにわざと間違えただけかもしれない。多分それを聞いてもはぐらかされるだけなのは優斗も理解していた。
「もしかして、彩姉わざと間違えたの?」
「さぁ、どうだったかな~?」
彩音が優斗の予想通りの反応を示す。
そんなやりとりが楽しくて、あえてその話題を蒸し返す。
彩音も満更ではないのか、何度もとぼけたりして見せる。
そんな会話の応酬は、優斗の家にたどり着くまで続いた。
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