第24話「おっと待った。アンちゃんが今何考えているか、ボクが当ててやろうか?」
翌日。
彩音の成績を知るために、授業で行われた小テストの結果を持って来てもらい、確認する事に。
リビングの、普段は食事をするためのテーブルの上に、誤魔化すように、はにかみながら彩音が小テストの答案用紙を並べていく。
その様子を、肘をつきながら、手の甲でアゴを支え無言で見つめる。
「これは酷い」
目を覆いたくなるような。むしろ目を覆うしかないような内容に、優斗は言葉を選ぶことが出来なかった。
しばらくテストの点数や問題を無言で見つめる優斗と遥。普段は最年長(※自称)のお姉ちゃんとしてドンと構えている彩音が、重苦しい空気の中、今はとても小さくなっている。
耐え切れなくなった彩音が困ったような笑顔を浮かべながら立ち上がる。
「お姉ちゃん。そろそろお夕飯の準備するね」
引き止めたいのは山々だが、ここで引き止めれば自分たちの夕飯がなくなりかねない。
ちなみに本日の献立はお姉ちゃん手作りハンバーグ。
こんな時にわざわざ手の込んだ物を作らなくてもと思う優斗だが、考えを改める。
そもそも、手料理の時点で基本的に手の込んだ物になっている事に。
母親が家に居た頃も、夕飯の1時間、多い時は3時間以上前から準備をして作っていた。
彩音は普段から学校がある分、多少は簡易的に作ってはいるが、それでも1時間以上かかる事はざらである。
料理だけではなく、家事全般をやっている。それだけの時間を犠牲にしていては、勉強をする時間など取れない。
つまり、彩音の成績が悪い原因は、自分なのではないかという結論にたどり着く。
ならば、解決策は分かっている。彩音を家事から解放する事だと。本当に頑張らないといけないのは、自分だと。
「あや……」
「おっと待った。アンちゃんが今何考えているか、ボクが当ててやろうか?」
「ん?」
「彩音ちゃんをクビにして、勉強しろって言うつもり。どうかな?」
「まぁ、そうだな」
軽く息を吐きながら、遥の言葉に同意する。
クビという言い方は一旦置いとくとして、勉強のために彩音を一度家事から遠ざける必要があるのは明白。
なので、自分がしっかりしなければ。そんな優斗の決意をあざ笑うかのように遥がニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そいつは無駄って奴だぜ、アンちゃぁん?」
「勉強の時間が取れるようにするんだから、無駄じゃないだろ?」
「こいつを見ても、同じ事が言えるか?」
そう言って遥が小さな紙を手渡す。それは、彩音の中学時代のテストの成績が書かれた用紙であった。
内容は、今よりも輪をかけて酷かった。むしろよくこれでウチの学校に入れたなと優斗が驚くほど。
中学時代なら、高校よりも授業の内容は簡単な上に、家事の手伝いなどしていないので時間もある。
だというのに、点数が低いとはどういう事なのか。怪訝な顔で遥を見るが「そいつは本物だぜ」と返される。
「いや、なんで今より点数低くなってるんだよ」
「そりゃあ、アンちゃんのお世話をするから、それを言い訳にしないために勉強を頑張ってるに決まってるだろ?」
「決まってるだろって……」
「だから、クビにすれば彩音ちゃんの成績はもっと下がるだけだよ」
「そんな事は、いや彩姉ならなくはない、のか?」
半同棲のような通い妻となってまだ二ヶ月だが、彩音がお姉ちゃんとしておこす行動力の高さは散々思い知っている。
だからきっと、遥の言っている事は間違っていないのだろう。
「となると、どうしたものか」
「責任取って彩音ちゃんと結婚すれば?」
「アホか、結婚するから高校卒業出来なくても良いやとはならんだろ」
「結婚の部分は否定しないんだ」
「そっちは否定以前の問題だ。彩姉だって俺なんかより、まともな良い相手を自分で見つけたいだろ。少なくとも俺やお前が勝手に決める事じゃないよ」
「フーン」
いまだニヤニヤと見てくる遥に軽くイラッとしながら、ゲンコツを落としてやりたいところだが、グッとこらえる。
遥の助言がなければ、彩音に家事はしばらくやらないように言い聞かせ、それで優斗は家事が出来ず、彩音は頑張る理由をなくしどちらも良い結果にならなかっただろうから。
問題は解決していないが、何が問題かを理解する事は出来たのは大きい。
とりあえず、彩音の勉強を見る事から始めよう。1年前にやった内容だから、ある程度は教える事が出来る。
なんなら学年上位の成績をもつ遥もいるのだから、大丈夫だろう。などと楽観視している優斗。
彼は気づいていない。
そこまで良い成績の姉がいて、なぜ彩音の成績がボロボロなのかという事に。
あと、夕飯のハンバーグは優斗の分だけ彩音や遥の物よりも明らかに大きかった。なんでだろうね!