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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

長篠の義士 ~鳥居強右衛門飛脚記~

作者: しばたれ

初投稿です。

 オラは三河国宝飯郡生まれのしがない足軽、鳥居強右衛門(とりいすねえもん)だぁ。そんなオラはいまこそ奥平様のため、命を懸ける時がきた。オラたちが籠っている長篠城は武田家の大軍によって包囲されている。長篠城に籠っているみんなは必死で戦っているが食料不足でへとへとだぁ。そんな中、奥平様は誰か織田様に助けを求めに行ってくれないかと募集している。

「誰かぁ、織田様の陣に行きぃ、援軍を要請してくれないかぁ?」

 奥平様もすっかりへとへたで声が出てねえ。オラは奥平様に恩がある。いまこそ奥平様の為に命を懸けるんじゃぁ。

「奥平様、オラにまかせてくだせぇ」

「強右衛門、言ってくれっかぁ。ありがてぇ」

「奥平様の命に代わることができる私の命を、何と呼ぶべきだぁ。それが武士の道なんだぁ」

 オラが織田様に救援を要請すると名乗り出ると城にいる仲間たちは喜びだした。オラはなんとしてでも奥平様を守って見せるんだ。


 辺りがすっかり暗くあった。あるのは武田方の松明の光だけ。

 これぐれぇ暗かったら長篠城を出ていくのが見えねえだろう。

「強右衛門、生きて帰ってくるんだぞ」

「あったりめぇよ」

 オラは奥平様や城の仲間たちに見送られ、長篠城を出た。

 まずは石垣を降らねえといけねぇ。それも急いでだ。ちんたらしていたらみつかってしまうかもしれねぇ。

 オラは農作業で培った筋肉を使って器用に石垣を降りてった。あとは音を立てずにこの豊川を渡るだけだぁ。

 オラは右足から慎重に川に入った。

 パシャッ

 しまった。音を立ててしまった。オラは辺りを見渡した。

 あぶねぇ、どうやらバレていねぇようだ。慎重に渡らねぇとな。だが慎重すぎてもよくねぇ。慎重に急がねぇとな。

 ふぅ、対岸へと渡り終わった。これで一安心だ。

 だが、これだけ濡れていたら走りづらい。川に脱ぎ捨ててしまおう。

 オラは大事にしていた服を川に脱ぎ捨てた。大事な服だがぁ、奥平様や城の仲間たちを思えばこんなのへっちゃらだ。

 さぁ、切り替えて進んでいこう。

 

 

 しばらく森を進んだころ、鎧を着ている武田の兵を見つけた。ばれたらまずい。オラは木を盾にして身を隠した。

「じきに長篠城は落ちるだろぉな」

「そうだなぁ、オラたちには御屋形様のとっておき、金山衆(かなやましゅう)がおるからなぁ」

 急がねぇと。長篠城が落ちる前に織田様に救援を要請しないとぉ。


 武田の兵の声がしなくなったころ、オラは木から顔を出した。どうやらいなくなったようだ。そんならこのままつきっぱしろう。

 オラは右足に力を込めて走り出した。

「おい待てぇ!」

 やべぇ、見つかってしまったか。急がねぇとな。幸いなことにオラは鎧も服も来てねぇ、裸一貫だ。追手よりも速く逃げられる。

 オラは追ってくる武田の兵をウサギのようにかわした。

 疲れてきたぁ。だけど、奥平様や城の仲間たちのために織田様のいる岡崎上に行かねぇと。

 オラはズタズタの足を前へ前へと走らせた。足が歪むように痛ぇ。我慢だ強右衛門。オラならできる。


 空が明るくなってきた。オラは長篠城の近くにある雁峰山にまで来た。長篠城を脱出したことを伝えねぇとな。

 オラは必死で火をつけ、狼煙を上げた。これで長篠城を脱出したことが城のみんなに伝わっただろう。そうなったら、岡崎城に向けて走るだけだ。

 子供のころからバカみてぇに山道を走っているオラにとっちゃこんな道へっちゃらだぁ。

 


 なんとか岡崎城の城下町に入ったが、みんなオラをやべぇ奴を見るような目で見てくる。仕方ねぇだろう。命からがら救援要請に来ているんだぁ。

 城下町を抜け、岡崎城に入ろうとすると城の門番に止められた。

「何者だ! 変態め!」

 この声、オラの友人である権之助か。

「オラだぁ、強右衛門だぁ。長篠城からの使者だぁ」

「強右衛門だったか。それに長篠城からの使者なのか! それならば急げ! あとこれをやる!」

 オラはボロボロの布を渡された。ありがてぇ。俺は大事な部分をそれで隠した。



「織田様はどこにいる!」

 オラは城にいた女中に尋ねた。

「あそこの部屋でございます」

「ありがてぇ」

 オラはその部屋に続く廊下をドタドタと走った。

「織田様! 織田様!」

「だれじゃ、騒々しい」

 襖を開けた先には怪訝そうな織田様。

「長篠城からの使者でございませぇ」

「なんだと! 長篠城からの使者か。お主、長篠城からやって来たのか。信じられぬ」

「本当でございます。命からがら長篠城を脱出し、ここまで駆けてきたのです」

「分かった。お主の言葉を信じよう。それで何ようだ」

「長篠城に援軍をくだせぇ」

「なに? それならばちょうど援軍に行こうと思っていたところだ。強右衛門、よくやった。あとは岡崎城で休んでいろ」

 いやそんなことできねぇ。一刻も早く奥平様や城の仲間たちにこのことを伝えてぇ。吉報を伝えればみんな喜ぶだろうしな。

「お断りします。オラは長篠城にいる仲間たちにこのことを伝えに行きます」

「命が惜しくないのか?」

「惜しいですが、仲間たちのことを思えばそんなこと考えていられません。では!」

 オラは早々に岡崎城をあとにした。もう一度雁峰山に行って狼煙を上げる。そしたら長篠城に吉報を届けるんだ。待っていてくれよぉ。





 夜が明け、早朝。やっと雁峰山にたどり着いた。狼煙を上げるぞ。狼煙は天高く漂う。

 よし、長篠城に帰るぞ。

 オラが走ろうとすると、

「待て! 狼煙が上がって不審に思い、警戒してみれば徳川方の者ではないか!」

 ばれてしまったなら逃げるしかねぇ。オラの脚力をなめるじゃねぇ。

 オラは山を急いで下り降りた。

 だが、限界を迎えていた足は途中で止まってしまった。なんとか有海村まで来たがこの足では川を渡り、石垣を登ることはできそうにない。

 どうすればいいんだ。

「やっと追いついたぞ」

 まずい。ここに逃げ込んだことがばれていたか。

 オラは無理やり走ろうとしたが、足が動かねぇ。

「捕まえた!!!!」

 手足が縄で拘束される。ただでさえ痛ぇ足がさらに痛くなった。オラはこれらどうなるんだ。もしかして殺されてしまうんか。

 オラは死んでしまうんじゃねぇかと不安でいっぱいだった。

 ここからは尋問が行われた。どうやら武田軍はオラから情報を奪い取ろうとしている。オラは尋問には負けねぇ。オラは必ず長篠城にいる奥平様や城の仲間たちに吉報を届けるんだ。

 口を開けず、尋問に耐えていると、えらく豪華な鎧を纏った武士が現れた。オラじゃ、ぜってぇ着れねぇような鎧を纏っているこの武士は誰なんだぁ。

「俺は武田家当主武田勝頼じゃ」

 武田家当主だと!? そんな天井の人間がオラになんのようなんだ。

「困惑しているな。実はお主に頼みたいことがある」

「頼みたいこと?」

「そうじゃ。もしもやってくれるのであれば武田家の家臣として厚遇してやろう」

 武田家の家臣になるなんてまっぴらごめんだ。だけど、なにをするかだけは聞いて見よう。

「なにをするんだぁ?」

「長篠城にいるお主の仲間に向けてこう叫ぶのじゃ。援軍は来ないからあきらめて城を明け渡すべき、とな」

 そんなことぜってぇやるもんか。いや待てよ、これは利用できるかもしれねぇ。

「分かった。やってやる」

「本当か!」

 武田勝頼はルンルン気分で出ていった。オラがあんたを利用しようとしていることに気付かずに。


 明朝、オラは紐で縛られた状態で長篠城の前に立たされた。

 すると、城にいる奥平様や仲間たちは騒めきだした。オラが捕まったのだ。

「強右衛門やれ」

「へぇ!」

 オラは思いっきり息を吸った。

「長篠城にいる仲間たちに告げるぅ! あと2日すれば織田・徳川の大軍勢が救援に来る! それまで耐えるんだ!」

 オラの言葉を聞いて城の者達は喜ぶ。たが、

「何をしている!」

 武田勝頼はオラを蹴っ飛ばした。

「オラは武士として忠義を貫いただけだぁ」

「もういい。おい誰か! こいつを殺せ!」

 どうやらご立腹のようだ。オラは乱雑に扱われ十字架に結ばれる。磔刑か。

「やれ!」

 オラは武田の兵によって脇腹を突き刺された。

 オラの脇腹からは鮮血がどばどばとこぼれ落ちる。

 長篠城からはオラの死を嘆く声が聞こえる。

 まだ死んじゃいねぇよ。心の中でそう思った。だけど、もう死にそうだな。

 奥平様、城のみんな、どうか無事でな。

 最後に見えたのは城のみんなでワイワイと踊っている自分だった。

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