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1−5 神の見えざる手

前回の簡単なあらすじです!


彼の前に現れた黒い影によって、再び最初の場所へ戻されてしまったヨハン。

絶望に沈む彼が目にしたものとは・・?

鳥だ。


種類までは分からないが、よく見かける鳩のような鳥だ。しかし、以前見た鳥とは大きく異なるものがあった。


生きている。

食べ物を探しているのか、首をせわしなく動かしながら、今にも飛び出しそうな勢いで徘徊していた。


「生きてる・・? のか・・?」


絶望の中で溺れていたヨハンは、あまりの状況に喜びに似た驚きを隠せなかった。

無意識のうちに口角は上がり、鳥の幸せを願わずにはいられなかった。


それと同時にある記憶が脳内を駆け巡る。

()()はここで鳥が死んでいたはず。

そしてその亡骸の横で、私は黒い影と遭遇した・・。


急激に左わき腹に幻の痛みを感じ、心拍数が上昇する。

嫌だ、怖い。また殺されてしまう・・。


あまりの恐怖から膝がカタカタと震え、自然と涙目になる。


「なぜ、なぜ、私はこんな目に合わなければいけないんだっ!!」


思わず腹の底から声を出す。

もし黒い影が聞いているなら、すぐさまこちらに突進してきて、一撃で私を葬るのだろう。

あまりに不合理すぎる。


そんな怒号に反応したのは、黒い影ではなく横にいた鳥だった。

鳥は彼に何かを訴えるかのように一鳴きすると、見た目より大きい翼を広げて力強く羽ばたいた。


見上げるヨハン頭上に、空からふわふわと何かが降ってくる。

鳥の羽だった。

一見黒に見えたその翼は、根本にかけて白に変わっていき、鮮やかなグラデーションを生み出していた。


真っ暗な世界でもここまで美しいと感じられるのは、とても鮮やかな色だからなのだろう。

手に取った羽を優しく握り、ヨハンはバッグの横ポケットにスッっと入れた。


そうだ。くよくよしてちゃいけない。

そんな思いが駆け巡る。


これは勇気の印なんだ。

鳥が生き返ったように、自分も常識を超えた力でこの輪廻を脱することができるはずだと教えてくれたんだ。

そう言い聞かせたヨハンは、今更すぎる事実にここで気が付いた。


生き返る??


「え? 生き返る??」


いや、でも明らかに()()は死んでいたじゃないか。

アリの餌になっている彼を見て、私は絶望したんだから。


ちょっと待てよ?

()()って言ってるけど、これってもしかして完全なループではないのでは?


神からの信託を受け取ったかのように、ヨハンに電流が走る。

落ち着いてきた鼓動が再び強く、沸騰するような熱い血液を全身の隅まで送るのが感じられた。


息を大きく吸い込んで深呼吸を一つすると、ヨハンは今の天啓を忘れまいとし、情報を再び整理し始めた。


・この森に入ってから、自分は2回殺されている。

・仮定として、ここでは殺されると時間が巻き戻りやり直しとなる。

・2回目に死んだあと、やはり巻き戻しとなり最初の地点に戻されていた。


ここまでは確認だ。

そう反芻しながら問題の点を、意識してしまうほど荒くなった鼻息と開いた瞳孔で考察し始める。


・いわば現在は森の中で3週目の人生といえる。

・2周目の時点では鳥は死んでいた。

・しかし、3週目では鳥は生きている。

・今までのループの中で違うことが起きたのはこれが初めて。


そもそも前提条件があっている保証はない。

それは十分にわかっていた。


しかし、もし仮に前提条件が正しいという希望的観測を用いた場合、大きな希望を持てるかもしれない。

興奮で上昇する体温は、その希望を後押しするかのように、ヨハンに勇気の翼を与えていた。


力強くバッグを握りしめる。

彼の目には輝きが灯り始め、それは原動力となり、暗示された未来の歯車をゆっくりと、だが確実に回し始める。


ヨハンは懐中時計に目をやる。

早まる心臓の鼓動を測るかのように揺れるチェーンのメトロノームが、彼の思考に安らぎの波長を送った。

時計の針は11時6分を指している。


そうだ。

ヨハンは自身の観測結果に有効な事実をもう一つ見つける。


2周目の世界で黒の影にやられた時を思い返すと、自身が死線を超える間際、奴が私から奪い去った時計では11時前後を刺していたはずだ。

正確な時間は覚えていないものの、仮に11時丁度だと仮定してみるとしよう。


現在の世界線が2周目である場合、私はここで奴と遭遇し、襲撃を受けないと前提がズレてしまう。

そうでなければ、ループは完成しないからだ。


そこでどこか不安げな表情を隠せないながらも、ぐるりと周囲を見渡し、安堵の表情を浮かべる。


やはり襲撃されるはずの時間を過ぎていても、周囲に黒い影は見えない。

聞こえるのはこの雨音だけだ。


念には念を、という考えがある彼は、すぐさま安全だと信じ切ることはできなかった。

ましてやこの道理すら怪しい森の中で、思いついた考えが正しいなんて誰が言いきれるだろうか。


それでも彼から見えるこの森は、どこか色彩が戻りつつあった。

差し込む白は太陽からの希望に満ちた温かい光、周辺に広がる黒は安らぎに満ちた穏やかな木陰。


この異常な森には地獄もなければ神も居ない。

戦い抜く覚悟が決まった彼は、一縷の望みを握りしめるかのように、勇ましく歩を進めた。



ついに打開の一手を見つけたか・・?


次回に続きます!

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