#1 きっかけ
きっかけは保育園での一幕だった。
独り教室の隅で絵本を読んでいた私に、園を代表するガキ大将が言ってきた。
「おまえ!めつきわるいんだよ!まめまきのときのオニみてえ!」
女の子に対して失礼だと思ったのと読書の邪魔をされてムカついたので、豆の代わりに顔面にグーパンをお見舞いしてやった。
二幕目は小学校。
保育園でのグーパン事件を言いふらされたお陰であまり友達ができないまま、それでも私は無害ですよとアピールするため毎日を図書館で静かに過ごしていた小学4年生の私に、同じクラスの高飛車女が取り巻きを従えながら言ってきた。
「ねえ、あんたさっきタツヤくんのこと呼び出してたけど、もしかしてタツヤくんのこと好きなの?なに?まさか告白したの?あんたみたいなぼっちで目つきの悪いやつとタツヤくんが付き合えるわけないじゃない!だいたいタツヤくんには私みたいな目も口も鼻も全部可愛い女の子がお似合いなんだから!身のほどをわきまえなさいよね!」
タツヤくんのことは好きでも何でもないし、なんなら向こうから先に喧嘩を売ってきたから空き教室に呼び出してわからせてやっただけだし、お前が誰と付き合おうが何をしようが知ったことではないしぼっちなのもその通りだけど、目つきが悪いと言われたのと読書の邪魔をされたことにはムカついたので大好きなタツヤくんとお揃いになるよう両頬に綺麗に痕が残るビンタを食らわせてやった。(そして暫くの間図書館は出禁になった)
三幕目は中学校。
不名誉にも”不良・ヤンキー・暴力女”のレッテルを貼られつつも、それでもやっぱり私は無害ですよとアピールするため教室でも図書館でも孤独かつ静かに読書をしながら過ごしていた中学校入学当初。
やれ1年のくせに生意気なんだよとイチャモンをつけてくるわ、やれ君のその力を我が柔道部で活かしてみないかと勧誘してくるわと、何かと理由をつけて呼び出してくる上級生たちを手を出さないようかわしつつ(同級生はついに声すらかけてこなくなった)問題のない日常を過ごしていた私に、3年生のトップを名乗る男が言ってきた。
「お前、噂によればえらい昔から随分派手にやってるみてえじゃねえか。ガキのくせに鋭い良い目してやがる……気に入った!俺の女にしてやるよ!」
お前もガキだろというツッコミは置いておいて、目を褒めてもらったことには感謝しつつ丁重にお断りしたら「照れるな照れるな!」と無理矢理抱き寄せられ、さらにその拍子に持っていた本が落ちて表紙の角が折れてしまいムカついたので、「キャー!セクハラー!」と被害者アピールしながら顎に一発キメてやった。(病院送りにはならないよう手加減をしたので保健室送りで済んだ)
そしてその後、セクハラ男の彼女を名乗る3年生女子とそのお仲間十数名に校舎裏に呼び出されシメられそうになったので、「誤解です!私は被害者です!あんな男好きでも何でもありません!」とみんなに聞こえるように叫びながら1人ずつ丁寧に投げ飛ばしてやった。(女性を殴るのは流石に良くないと思ったので温情で投げ飛ばすにとどめてやった)
ただ途中でお仲間の1人が「1年のくせに生意気な目つきしてんじゃないわよ!」と言ってきたのでそいつにだけドロップキックを与えてやった。(流血はしていない)
私は何も悪いことはしていない。
ただ静かに読書をしていただけなのに、みんなが色々言ってくるから。
好きで悪くしているわけじゃない目つきを悪く言ってくるから。
だからわかってもらおうとしただけなのに。
噂が噂を呼び、輩が輩を呼び、そして四幕目の高校に入ると……
「オイ!テメェがトーコだな!」
「北高のオーガなんて呼ばれて調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「放課後河川敷に来な!誰が最強かわからせてやんよ!」
「見ろ、またオーガのやつ他校の不良から呼び出されてるぞ……」
「相手が何人いてもいつも1人でボコボコにしちゃうんでしょ?ヤバすぎ……」
「でもなんかさ、あの鋭い目つきとか、一匹狼みたいでちょっとかっこよくね?」
「バカ!そんなこと聞かれてみろ!あいつは目のことを言われるとブチギレるんだよ!お前もボコボコにされるぞ!」
「読書の邪魔もすると問答無用で殴られるらしいわよ。いずれにしても、近寄らないに越したことはないわね……」
「ああ……触らぬ鬼に祟りなしだ」
「大賀トーコ、一緒のクラスじゃなくてよかった……」
オーガ(鬼)という異名を持つスケバンとして名が勝手に馳せ参じてしまっていたのだった。