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 これは、とある世界の物語。


 強大な武力と愛国心を誇る大国、イーストニア王国。


 兵力・魔力・技術力その全てで他の国を圧倒し、しかしながら無闇な戦争や侵略は行わず、国民の平和を第一に掲げそれを守るためにはどんな脅威にも立ち向かうという愛と正義の国。


 そんな王国の中心、壮大で荘厳な王城で行われる煌びやかな宴。

 今日は第150年度イーストニア王国建国記念日を祝う建国記念祭。


 いつもの5倍は着飾った国中の貴族たちで埋め尽くされる宴会場。中には貴族ではないが商業や芸術分野などで活躍したり、騎士として国に多大な貢献をしている上級平民や特級平民も混ざっている。

 どこもかしこも賑やかさと華やかさで溢れかえり、夫人や令嬢が身に着けているドレスの装飾やアクセサリーが魔法石照明の光を受けてあちこちで乱反射を繰り返す。


 そんな光と騒音に包まれた宴会場の中心で、例のアレは起きた。


「君には失望したよ、レミス」


 特に大きな声で喋ったわけでもないのに、なぜか会場中に響き渡ったその声に一同が静まり返る。何事かと声の方を見やると、そこには3人の登場人物がいた。


 1人は、まばゆい金髪にルビーを思わせる赤い瞳を持ち、純白の王族衣装を身に纏い全ての者を圧倒する威厳を放つ美少年。

 1人は、まるでウェディングドレスを思わせるような純白のドレスを身に纏った、ピンク色のセミロングの髪と瞳を持った純真無垢で可憐な美少女。

 1人は、黒と紫を基調とした会場一豪華なドレスを着こなし、紫の美しい長髪に同色の少しきつめの瞳を持つ、その存在が宝石でもあるかの様な輝きを放つ美少女。


 まるで用意された舞台にでも立っているかのような3人の周りを、円形状に貴族たちが取り囲む。


「……まあ、このような記念すべき日に”失望した”とは、一体どういうことでしょう?ローゼス王太子殿下」


 そう口を開いたのは、紫の長髪と瞳の美少女、レミス・パプル・ヴァイオレット。イーストニア王国最大の商業団体を営み、国一の富を誇るヴァイオレット公爵家の令嬢。


 立ち位置 【悪役令嬢】


 そして彼女と向かい合っている、先ほどレミスに失望したらしい金髪赤眼の美少年。

 彼こそはローゼス・ルビア・スカーレット。イーストニア王国の王太子であり、レミス公爵令嬢の婚約者である。


「君の悪事には失望したと言ったんだ。ユリィシアへの陰湿ないじめ、侮辱、さらには他の令嬢を巻き込んでの集団無視。君はもっと優しく聡明な女性だと思っていたのに……残念だよ、レミス」

「先ほどからお一人で好き勝手にお喋りしておいでですが、一体何のことですの?たしかに以前から私がユリィシアさんをいじめているという噂は立っておりましたが、それは全て私、および我が公爵家を貶めるための風評被害であると言ったはずです。つい先日、噂を広め実際にユリィシアさんに悪事を働いた輩を捕まえて、私は無実であると皆様に証明したことをもうお忘れですか?」

「ああ、あの時はたしかに君の無実を信じた。実際僕だって君が悪事を犯したなんて信じられなかったし、君でないと証明された時は心底ホッとしたさ。しかし、まさかその一連の流れすらユリィを脅かす前段階だったとはね。さすが、ロマーニア学園一の才女なだけはある。ユリィが聖女の力を使って証拠を見つけてくれなかったらずっと騙されていたよ」


 そう言ってローゼスが隣にいるもう1人の美少女を見た。


 先ほどからピンクの大きな瞳を潤ませ、ローゼスに体を寄せながら神妙な顔つきで話を聞いていたのは、

ユリィシア・ホワイト。国神カーラーズの信託により聖女と認定された少女。

 孤児院出身の平民であったが聖女になったことにより特級平民に昇格し、王族や上級貴族が通うロマーニア学園への入学を許可された。そこで王太子ローゼスやその仲間たち、悪役令嬢レミスに出会い、悪事やら何やら色々あって今に至る。


 立ち位置 【純ヒロイン・聖女】


 ユリィシアはローゼスから体を離して1歩前に進み、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をし、勇気を出してレミスへと向かい合った。


「レミス様、前々からあなたが私のことを嫌っていたのは知っていました。元々聖女候補であったあなたを差し置いて私が聖女に選ばれたこと、由緒正しきロマーニア学園に私のような平民上がりが入学したこと、そしてローゼス様たち王族やその友人の皆さんと友好を深めていくこと。何もかもがあなたにとっては気に食わなかったのでしょう?私がローゼス様と親しくしているのも、あくまで友人としてであって、あなたから婚約者を奪うためではないと何度言っても、あなたは信じてくれませんでしたね」

「ええ、そもそも”婚約者がいる異性と必要以上の親睦を深めたり2人きりになるなどの行為をしてはいけない”という決まりがあると散々注意しましたのに、それを一切守らず、”あくまで友人”という言葉を盾に言い訳ばかりするあなたを信じろという方が無理な話だとは思いませんこと?それに、聖女がどうの平民がどうのという件につきましても、私は一切全く何も気にしていないと、これもあなたに初めて出会った時に言ったはずです。それなのにあなたは大勢の前で何度も何度も同じ話を繰り返して、まるで私が許してないと周囲に思わせるような言動ばかりして……私への悪意ある噂が立った時、私が真っ先にあなたを疑ったのも無理はないと思いませんこと?」

「そんな、なんてヒドイことを……!」

「レミス!此の期におよんでまだユリィを侮辱する気か!発言を撤回しろ!」

「ローゼス様!あなたもあなたです!あなたとユリィシアさんはあくまで友人だと、彼女の言葉は信じられませんでしたが、あなたもそうおっしゃるならと、私はあなたを信じたのです!それなのに都合の良い時だけヴァイオレット家や婚約者の肩書きを利用し、私とユリィシアさんが疑われている時は真っ先に彼女を信じ、そして今日、私のエスコートさえなさらないどころかこのような仕打ち……むしろこの一連の流れこそ、私を陥れ婚約破棄に持ち込むためにあなたと彼女が仕組んだ罠なのではないですか!?」

「なっ……そのようなことあるわけないだろう!」

「そうです!私とローゼス様がこのような祝いの場でそんなことをするなんて本気で思っているんですか!?」

「ではなぜこのような祝いの場で私を糾弾なさっていますの!?今日じゃなくても別の場で私個人を呼びつけて話をすればよかったではありませんか!」


(それはそう)


 3人の美男美女が会場の真ん中で言い争いを続ける中、3人を取り囲む円から少し離れた場所でやり取りを傍観する少女が1人。

 周りの貴族ほど派手ではないが質の良い深緑の奥ゆかしいドレスを身に纏った、肩のあたりで切り揃えた茶髪にドレスと同色の深緑の瞳を持つ少女。前の2人ほど華やかな美少女ではないが、純朴で整った顔立ちをしており、優しそうな雰囲気に好感を持つ人も多いだろう。


 彼女の名は、ミツハ・グリーンベル。薬草や紅茶葉の商売を営むグリーンベル子爵家令嬢。

 ロマーニア学園に通いながら、王族やその周辺の人物とは一切関わることがないよう地味かつ平穏無事に過ごすことを()()()()()()


 立ち位置 【モブ令嬢】


(メインキャラたちは大変ね。それに比べて私はただのモブ令嬢、目立った行動をしなければ面倒臭い出来事や事件に巻き込まれることはない。私の目標は平穏優雅な令嬢ライフ!子爵でも十分リッチに過ごせているし、このまま平和な日常を守り抜くわよー!!)


 そう心の中で強く決心し、「よしっ!」と周囲に気づかれないようにグッと拳を握り締める。


「何が”よし”なの?」

「ひゃっ!!」


 急に耳元で囁かれ、思わず変な声を出してしまうミツハ。誰かと振り向くと、そこにいたのは、ローゼス王太子に負けないくらいの美しい金髪に、ローゼスよりも少し暗みがかった赤い瞳の美少年。

「モ、モネア様!?どうしてここ、むぐっ!」

「シーッ!みんなに気づかれちゃうよ。と言っても、みんなあの3人に夢中でこっちなんか見てないだろうけど」


 ミツハの口を押さえながらそう小声で囁くのは、モネア・ガネット・スカーレット。イーストニア王国第二王子であり、ローゼスの弟である。


「もご、モネアさっ、むぐむぐ、手、手を放っ……」

「ああ、ごめんごめん!」

「プハーッ!く、苦しかった……って、そうじゃなくて!モネア様!一体どうしてここに?」

「んー?急に兄さんたちがなんか面白いこと始めたなーと思って見てたら隅っこに君を見つけたから、どうせなら一緒に鑑賞会でもしようかと思って」

「鑑賞会って……お止めにならなくていいんですか?」

「止める?どうして僕が?僕には何の関係もないのに」

「そ、それはそうですが……」

「それにどうやらこの一件には父上や母上も絡んでるらしいからね、本格的に何かあったら父上たちが止めに入ると思うよ。弟も飽きてどっか行っちゃったし」

「はぁ……」

「どうせなら僕らもどっか行っちゃう?」

「えっ!?なっ、いや、ど、どっかって……」

「だってずっとこればっか見ててもしょうがないし、君もうるさいの嫌いでしょ。だから2人だけで、ね……ダメ?」

「……っ、だ、ダメです!!」

「ちぇっ、残念。それじゃあその代わりに、もう少しこの茶番劇の鑑賞会に付き合ってよ。ね?」

「(茶番劇??)……わかりました。本当にこれだけですよ?」

「うん♪」


 そう言ってミツハとモネアは並んで鑑賞会の続きを始めるのだった。




 宴会場の中心でレスバを繰り広げる聖女・王太子ペアVS悪役令嬢。

 そこからちょっと離れた隅でイチャつきながらレスバ鑑賞しているモブらしいけど全然モブに見えないよね的な令嬢と第二王子。

 円形になった人々の一番端に位置するテーブルから、中心の3人と端の2人を照らし出すスポットライトの光を心の目で見る。


(まあたしかにセンターのあの3人がド派手にバチッてるってのはあるけど、あそこの隅の2人も十分キラキラしてると言うか……普通気づくしない?)


「な、何やら大変なことになってきましたわね」

「王太子殿下に聖女様にヴァイオレット公爵令嬢様、国の中心人物たちが一堂に会して……私たちとは住む世界が違うわ……」


 住む世界が違う、ある意味正解。


「あぁ、一体どうなってしまうのかしら……!」

「そうねぇ……まあ私たちにはどうしようもないし、ここで見てるしかないわね。だからそんなに焦らなくても大丈夫、成るように成るわよ、ディナリー、アベル」

「そ、それもそうね!あなたの言う通りだわ、エデル」


 そう、私たちにはどうしようもない……てかどうでもいい。

 だって、”あの三大異世界転生組”と私は何の関係もないんだから。



(何としてもローゼスとレミスを婚約破棄させて、王族三兄弟ハーレムエンドを達成してみせる!)

聖女転生者 ユリィシア・ホワイト


(ローゼスなんかどうでもいいわ!悪役令嬢断罪ルートを回避しながら、私は必ずあの人と……!!)

悪役令嬢転生者 レミス・パプル・ヴァイオレット


(キャー!モネ様超かっこいい!好感度も順調だし、これであとは彼にさえ会えれば……ふふ、フフフフ)

モブ令嬢転生者 ミツハ・グリーンベル


 この3人の転生少女たちがこれから三つ巴を繰り広げるであろうこの世界で、彼女たちと何の接点も持たず、”この世界の内容”も知らないまま、私はただただ本当の普通を生きる。



(ぜってーあんなやつらの中には入らんぞ私は)

転生者 エデル・ルーシッド

立ち位置 【ガチモブ令嬢】





ガチモブ令嬢、夜露死苦ゥ!!!

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