4話『強襲と混乱』
いッッッてぇぇえてえ!
「ギッッッギャア゛ア゛ア゛ア゛!」
「うおッ!?」
「うるっせぇ…!」
「うー!耳がッ!」
「ッ!」
大和の絶叫が四人を襲い、そのまま夜の森まで響き渡る。
その声に木々や茂みに隠れていた動物やモンスターたちは大慌ててその場を去る。
湖から這い上がり、剣を打ち込まれた首元を触ってみると少し切れている。
その手を見てみると血は出ておらずに相変わらず不気味な腕と体だけが見える。
「おい、カリナの剣をもろ食らって生きてるとかバケモノだろ!?」
「そんなの見れば分かるわ!見た目通りのバケモノなんだからよ!シーラ!」
「…」
シーラは武器を取らずに大和を静かに見つめている。
怯えて動けないでいるとはまた違い、ただ不思議なものを見つけた子供のように惚けている。
「チッ!今度こそ斬り飛ばす!!」
「おい落ち着け!」
何なんだよこの赤髪女!
急に攻撃?なんかしやがって!!
めっちゃ痛たかったんだが!?
つーか人間かよコイツ!
カリナの体が一瞬淡い光に包まれたかと思うと彼女の剣は炎を纏い距離を詰めてくる。
はッや!?
振りかざすその剣を大和は咄嗟に腕で受け止める。
ガキンッと鉄をぶつけた様な音が響き、防いだ腕に炎の熱と強烈な衝撃に骨が軋むような感覚に襲われる。
うそ、防がれた…!?
コイツ…知能がある?!
何なんだよコイツ…!!
なりふり構わず斬りかかってきやがってッ!
殺人鬼かよ!
「ガアアアア!」
「くッ!」
剣を受け止めた腕を大きく振る。
カリナは空中で何度か回転をしてラウル達とは少し離れた位置で着地した。
「カリナ!一人で突っ込むな!!バンクはカリナをカバー!シーラは距離をとって弓と魔法で後方支援を頼む!」
「任された!」
指示通りにバンクは直ぐにカリナの元へ動く。
ラウルは大和に距離を詰めて攻撃を仕掛けるが、シーラはただその場に立っている。
「オラァッ!!」
おめーもかよ!!
つーかコイツらが何言ってんのか全く分かんねー!
ラウルは大きく飛び上がり、大和の頭目掛けて白銀の光を放つ剣を振り下ろす。
なんだそれ目潰し?
...じゃなくて多分技だよな?
嫌な予感するし、避けとこ!
大和は姿勢を低くして剣との距離を出来るだけ作り、横に移動しながら器用に湖から這い出てその攻撃を交わす。
湖に振り下ろされた剣は水面に当たると一筋の光が走り、水飛沫が舞い上がる。
ひえぇぇ!こっわ!
今の防いでたら腕飛んだんじゃね?!
…てか今気がついたけどこのちっこいの何!?
大和の視界には四人組の男女の他に自身の周囲に漂う淡い光を放つ小さな球体、精霊が目に映っていた。
…うっすら光って浮いてる小人...?
この玉も動き回ってるし、お仲間?
「シーラ!」
「ッ!…フィー、力を貸して。」
シーラがそう言いながら弓を引くと大和の所にいた薄緑色の小さな少女の姿をした精霊は彼女のもとへ行き、少し悩む素振りを見せつつも風を巻き起こす。
「ストライク・ウインド!」
シーラが放った矢に精霊のフィーが風を纏わせる。
その瞬間に突風が吹き荒れ、大和が気がついた時には矢が左胸に突き刺さっていた。
鋭い痛みに思わずよろけて刺さった方に目を向ける。
いてェッ!?
...いや、思ったより痛くないかも...いや痛えッ!!
「シーラの矢が貫通しないだと!?」
「おいおい、マジかよ…」
「私の剣も全然通らないし…」
「…周囲の精霊たちが、奴を守ってる…?」
「…は?そんな事あるのか?どうみたってバケモノだぞ?」
「奴の周りにはこの森に住む精霊たちがいる。興味半分で初めて見るものに近づいてくる精霊もいるが…私達が攻撃する瞬間に僅かだが防御系の魔法を使っているように見える…」
「じゃ、じゃあ悪いモンスターじゃないって事?…物凄く悪そうに見えるけど…」
大和は左胸に突き刺さった矢を引き抜いてそれに目を向ける。
自身の体に突き刺さっていた矢には血がついていないし、傷もすぐに塞がる。
やっぱ人間じゃないよな俺…
見た感じコイツらの倍くらいは俺の方がデカいし…三メートルくらいあるんじゃ…
…それよりも、好き勝手攻撃してきやがって…!!
さすがの俺も我慢限界だぞ!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
大和の咆哮にラウル達は堪らず耳を塞いで動きを止める。
それを見逃さなかった大和は一番攻撃してきたカリナに手を伸ばすが、バンクは持っている盾で手を弾く。
「ぐっ!コイツ、腕が伸びたぞ!?」
腕伸びたァァァ!?
「バンク!そのまま抑えてて!」
カリナに言われバンクは大和の腕を脇で力いっぱい挟み込む。
その間にすぐ様カリナは飛び出して腕を切り落とそうと炎を纏った剣を振り下ろす。
ぎゃあああ!やめろ馬鹿!!
大和がそう思っていると捉えられた腕から無数の腕が生えて彼女の剣をしっかりと掴む。
「えッ!?キャッ!」
「カリナァ!ぐっ!」
予想外の事に戸惑ったカリナを生えてきた腕で手足を掴んで木に叩き付ける。
バンクが掴んでいた腕も形を変えて彼を縛り付けて地面に押え付ける。
なんじゃあこりゃぁあ!?
違和感なく出来るのが気持ち悪すぎる!
「クソ!二人を離しやがれバケモノォ!」
ほーれ返すぜ!
「シーラ!」
「分かってる。」
突っ込んでくるラウルに大和は二人を投げ付けるがぶつかる寸前に二人の勢いは風に包まれ失速し、そのままゆっくり地面へと降りる。
二人を捕まえていた腕元に戻すと大和は拳を握り、ラウルの剣めがけて拳を振るう。
激しい金属音と共に衝撃が周囲の草木を揺らす。
コイツ、動きが少しずつ変わってやがる!
「グウゥゥゥッ!」
俺が何したってんだよー!
まぁ確かに見た目はもろバケモノで混乱するのもわかるけどさァ!!
かくなる上は…
大和は一瞬だけ力を抜き、ラウルの重心が動く瞬間に思いっきり跳ね除ける。
四人が集まり、体勢を整えるのを待たずに大和は口を大きく開き深呼吸をする。
「!お前ら、俺の後ろに隠れろ!」
バンクは持っている盾に魔力を込めると形を変えてタワーシールドに変形する。
三人は言われた通りにバンクの後ろに身を隠し、シーラは魔法でシールドを展開させる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」
「〜ッ!!」
「耳…が!」
大声で叫んだ後に大和は地面に拳を叩きつけ、割れた所に手を突っ込む。
そのまま地面を抉りながら土と砂を巻き上げ視界を悪くさせる。
即席煙幕ってやつよ!でもって後は…
にっげるんだよ〜!!!
大和は背を向けてその場を走り去った。
土埃が晴れたあと、シーラは精霊を使って周囲を索敵するがその姿がどこにもないと分かると四人は安堵の息を着いてその場に座る。
「な、なんだったの…あれ…」
「新種のモンスター…じゃねーか?」
「いや、モンスターにしては精霊があんなに集まるなんて事は有り得ない。」
「それに知性を感じたな…カリナより頭は良さそうだった。」
「ちょっと!どー言う意味よ!?」
「あれ程突っ込むなって言ってんのに突っ込むからだろ!!」
「初見と来たらいつもだからな…カリナは」
「シーラまで〜!」
「まぁ、何とかなったんだ!良いじゃねーか!」
「バンクは甘すぎる…」
「…ともあれ、多分あれだよな…黒い玉って…」
「そうなんじゃない?依頼書の湖ってここしかないと思うし…黒い玉はなくて黒いバケモノが居たし…無関係では無いと思うわ。」
ラウルは少し考えた後に直ぐに荷物をまとめて王都へ帰還する事を決定。
三人はそれに賛成をして翌朝には魔の森を出立した。
ラウル達が王都へ帰還し事の顛末を話し、その一週間後には王国上層部と各ギルド上層部による緊急合同会議が開かれ、ラウルたちが見た黒いバケモノは危険度5の固有種モンスターとひとまず認定された。
そして次の議題に移った途端に彼らは頭を抱える。
その場にいる誰もが嘘であって欲しいと報告書を見ながら思っていた。
「これは、確かなんだな?」
「はい。ラウルたちが持ち帰ってきた甲殻と体毛を鑑定した結果...」
「よりにもよって、なぜ我が国に...」
その獣は突如現れては目につくものを気が済むまで破壊し、尽くを喰らうと言われている。
竜にも匹敵すると力を持つその魔獣は『災害』とも呼ばれ、名を『レオルゴ』と言う。
『災害』の接近にアルファール王国の上層部達はすぐに迎撃隊の編成、防御結界の強化を行う事を決定づけた。