1話『終わりは始まり』
言葉に出来ない程の激痛が全身を襲う。
視界は暗く、聞こえてくるのは段々と力弱くなる自身の鼓動だけ。
ーーーぁあ…死ぬ時に走馬灯見るって聞くけど… あれって嘘だったんだなァ…
痛いとか寒いとか、そう言うのも余り感じない…
まだ27だけど、我ながらスゲー波乱万丈な人生だったと思うな
ムカつくことも多かったけど…まぁそこそこ楽しめたし別にいっかァ…
…ただ、まぁ…もし次があるなら…
もっと好き勝手に生きよう。気が向くままに、自由にのんびり…
…あ、あの漫画の最終回だけ…は…読みたかったーーー
雨が降るある日の夜に、男はほんの僅かな心残りを抱いたまま、この世を去った。
だが、男は目を覚ました。
ただそこは何も無い、真っ暗な世界。
体を動かそうと試みるが指一本動かすことは出来なかった。
しかしそれは悪い気分ではなかった。
体は動かないが水中にいるような浮遊感に不思議と安心感を抱き、とても落ち着いていた。
これが俗に言うあの世、か?まるで深海だな…行ったことないけど。
体の感覚はある様でない様にも感じる。
死んだら神様か閻魔様に会えると思ってたのに、やっぱり作り話だったのかな。
そんな事を思った時、男は奇妙な声を聞いた。いや、聞くとはまた違う。
頭に直接響いたのだ。
様々な男女の声が入り混じったような奇妙な声。
ーーー 魂の覚醒を確認 ーーー
なんだ、この声…
ーーー 世界への接続を開始 ーーー
ーーー 肉体の転移 … 不可能 ーーー
ーーー 肉体の修復 … 不可能 ーーー
ーーー 肉体の再構築 … 不可能 ーーー
何が起きてんだ?
もしかして輪廻転生ってやつが始まろうとしてる?
こんな感じなのか…機械で処理してるみたいだし、淡々としてて少し怖いな。アラサー手前の男なのに…
ーーー 既存情報から新たな肉体を構築 … 可能 ーーー
ーーー 新たな肉体の構築を開始 ーーー
ーーー 全工程終了まで残り… ーーー
まぁ、遅かれ早かれこうなる運命だったんだ…
ビビらず行こう。
来世の俺よ、頑張れよ…
男は奇妙な声を聞きながら再び眠った。
ーーー 魂の活動停止を確認 ーーー
ーーー 魂の漂白を開始 ーーー
ーーー … ーーー
ーーー 中断 ーーー
ーーー 女神の申請により魂の漂白を中断 ーーー
ーーー 女神の申請により肉体の構築を中断 ーーー
ーーー 女神の申請による新規情報から肉体の構築 …可能 ーーー
ーーー 肉体の構築を開始 ーーー
ーーー 魂の漂白工程を排除 ーーー
ーーー 肉体 魂 魔力 の結合を開始 ーーー
ーーー 世界へ新規情報を入力 … 一部失敗 ーーー
ーーー 全工程終了まで残り… ーーー
ただの気まぐれだった。
ただの暇つぶしだった。
ただの偶然だった。
目に付いた魂が面白そうだったから彼に決めた。
ただ、それだけ。
突然別の世界で見たことも無い姿になっていたら…彼はどう過ごすのだろう?
ゲームみたいに依頼や試練を与えても面白いかもしれない。
楽しみだなぁ
彼は人として死ぬのか、それとも怪物として死ぬのか…
今から楽しみすぎて仕方がない。
…お姉ちゃんにだけはバレないようにしないと…
ーーー 以上を持って全工程を終了 ーーー
ーーー 魂の覚醒を開始 ーーー
その声を聞いて男は再び目を覚ます。
…なんか、窮屈になった気が…
体を動かすと自身の体が球状の何かに覆われているのがすぐに気が付いた。
疑問に思いながらも足や手、頭を使って力いっぱい押してみる。
すると頭上の部分に一筋のヒビが入り、そこから光が差し込む。
お、上が脆いな。じゃあ…
器用にその球体の中で姿勢を変えてヒビが入った部分を背中に当てて思いっきり立ち上がる。
ピシピシ、パキパキ、ピキピキ
音を立てながらヒビは広がり、差し込む光が増える。
もう少しだな…じゃあ気合い入れて…よいっしょおおぉ
力任せにそれを突き破り、上半身は球体の外へ出た。
「ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」
雄叫びを上げて外へ出た男の目に映ったのは満点の星空に赤と青の二つの月。
それよりも気になったのは自身の真っ黒な手。
周囲を見渡すと草気が生い茂り、少し先には湖が見える。
何これ、どう言う状況?夢?
それともこれが死後の世界?
輪廻転生が終わったってやつ?じゃあ転生したのか、俺?
視線を下に向けるとそこには真っ黒な球体があり、そこから出てきたとすぐにわかった。
黒い卵?いやでも卵って感じじゃねーな。
綺麗な球体だったと思うし。
そんなことを思っていると球体全体にヒビが広がり細かく割れていく。
球体だったその残骸は黒いモヤのようになると体に吸い込まれるようにして消えていく。
ようやく表したその全身を見て明らかに人では無いと嫌でも理解してしまう。
腕は地面に付きそうな程長く、手は大きい。
手足の指先は鋭く尖ってはいるが爪のようなものは見当たらない。と言うよりも皮膚のようなものすら見当たらない。
全身真っ黒で所々から黒いモヤが湯気のように出ている。
自分の姿が一体どうなってしまったのか、男は夢だ夢だと冷静を取り繕いながら湖へ近づき、水面を覗き込む。
そこに映ったのは全身真っ黒な人に似た何か。
顔に凹凸はなく、緩やかな曲線を描いている。
丸々とした赤い目と耳元まで裂けた大きな口。
その姿はまさにーーー
バケモノだァァァッ!!?