7話
ずっと書きたいなあと思っていたネタです。
おれの前世の偉人の言葉に <<冒険の対義語は母である>> という言葉があった。
確かにそうかもしれない。というわけでおれは今日も生き残れたら近況報告を送ろうと思う。
昨日はあの後怪鳥ロックの解体とたくさんの羽毛や骨などの資源の確保など、大変だった。
なんだかんだで伝説級の怪鳥の骨などは固有の魔力値も高いから、アクセサリーなどに加工して魔道具などにするのがおすすめだ。
我らが商隊はさっそく大金を得ることに成功した。
誰もが思ったに違いない。この吸血鬼とパートナーであるおれは金のなる木だと。
ふう。いい気なものである。おれなんて。おれなんてなあ。いつ殺されてもおかしくないのだ。血もちょくちょく吸われているし。
だから今日の目標は生き残ることなのである。
*****
別に長くは語らないが実は砂漠の旅は3カ月となかなかに堪えた。
トラウマ級の思い出の数々だが。だがこれはここに記録するまでもない内容であるだろう。
砂漠のサソリが襲ってきたとか、熱中症でおれが死にかけたとか語るに落ちる内容だからだ。
特にピンチにはならなかった。熱中症で死にかけた時はおれを殺さないようにシャンドラさん(?)を説得するのには骨が折れた。
*****
「シャンドラさん(?)舌なめずりやめてください。私はまだ死ねません。はい。もちろんです。ミイラになんてなりたくありませんから。(うううう)」
ううう。本当に苦しいのに、なんでおれは自称おれの奥さんの顔を押しのけねばならんのだ!?
「シンさん? 私と一緒になるのがそんなに嫌なのですか? 絶対一滴たりとも残さず飲み干してみせますから! 私を信じてください!」
「そうです。シャンドラさん(?)はおれの事好きって言ってくれますよね!? だったら、いきなりちょくで行くのは勿体ないのではないですか? なんかこう、順ば。ゲホゲホッ。グ、グるしい。」
「もう無理をなさらないでください! ひと思いに逝きましょう! 大丈夫です。私約束は守ります。ええ。ずっと一緒ですよ。」
可愛い。これが死神か。おのれ。
「グググッ。そう、順ば・・・んです。ハアハアハア。おれたちキスもまだでしたよね? そして手つなぎも・・・。シャンドラさん(?)はそんなに淫らなんですか? サキュバスなんですか?」
「な、なんて事を! そう言えば私吸血しちゃってましたわ。ごめんなさい。あまりにも美味しそうだったので。つまみ食いしちゃいました。」
そして今まさにおれはメインディッシュ張りに召しあがられそうになっている。
高熱でうなされる中、おれは一つだけ思いついた事を試してみた。
「そうです。その段階を登って行くのはきっと今ではない。そしてここでもないと思うので、グハッ。ゲホゲホ。思うのです。」
「例えば天樹海の白薔薇園のガーデンあそこでキスすると魂が永遠にむすばれるそうです。ごぼごぼごぼ。」
白い泡が口からあふれ、おれはそのまま倒れた。
きっとこの言葉が彼女の心に刺さらなければおれは確実にミイラだった。
当然のようにおれたち2人は商隊から離れていたので、おれは彼女に死体を凌辱され放題だったのだ。
「天樹海でキス・・・。悪くありませんね。なるほど。確かに吸血鬼では最後の血を吸いきる事は魂を食らう事と同意義なので、それはそれはロマンティックですけど。確かに普通にベットとかでするのよりも、良い・・・。ふむ。なかなか良いではありませんか。」
そう言って吸血鬼は穏やかに微笑んだ。
人間は体温調節の際に水分と塩分を必要とする。でしたら。そうですね。シンさんをいただいて建てる予定のお墓にお供えする量の塩を摂取させてから・・・。
水はシンさんが持っている分を使って。
しかたないですね。私がシンさんが好きなのは本当ですから。
良いでしょう。人間のロマンティックな一面にも合わせてあげましょう。
ええ。仕方ありませんね。
私も吸血鬼の中では変わり者に違いない。自分の種族とは違うロマンティックさを求めているのだから。
同族にそんな奴は見たことも聞いたこともない。
吸血鬼はどの種族よりも高等なる生物というのが常識なのだから。私はそうは思わないけれど。
*****
隊長「それで、何ともないんだな?」
シャンドラ「はい。もうすっかり!」
おれはシャンドラさん(?)の背で伸びていた。
シャンドラさん(?)にオブられておれは何とか砂漠の端のこの港、カルリア港の宿の一室にて休憩をとっている。
他のメンバーもそれぞれ運んで来た異国の珍しい商品を売りさばいたり、この土地特有のフルーツを買い込んだりと、行動を起こしていた。
宿はアンティーク調のおれ好みのものだ。ここカルリアは貿易が世界でも有数だと紹介されるほどの商船都市である。
ベットはおれのしっているコットン調のものとはまた違った寝心地である。だがこれはこれで癖になりそうだ。
そうだ。伝書鳩を飛ばしておれとシャンドラさん(?)の無事を知らせねばとおれは身体に鞭をうち、机へと張って移動した。
まだ目まいがするのだ。
夜風に当たれば少しは気が晴れるだろうか。おれは窓をあけた。月明かりがおれの心を癒してくれる。
ああ。吸血鬼に勝手に夫にされてしまうと大変すぎるなあ。
ところどころで可愛いと感じさせるあのあざとさが拍車をかけている。
「ああ。癒されたいなあ。」
おれは将来浮気とは絶対に無縁だと思っていた。人間にそれほど興味が無いからだ。
でも、もしかすると人間で疲れた精神は人間で癒そうとする行為なのかもしれない。
いや。どれだけ考えても良く分からない。おれの元いた世界では絶対的な悪とされていたことであるし。
だが。急に夫婦になって。夫だから妻だからと理解を求められいろいろな要求を通され、疲弊してしまうのかもしれない。
彼女はそういった事しないようにしているようだけれど。でもそれはまだ一緒に過ごした時間が短いだけだからかもしれない。
それに種族間の感覚が違いすぎるのだ。
「癒しが、欲しい。」
おれはお月さまにお願いをした。
その心の隙を付かれたのだろうか。
それは(・・・)おれの部屋へ空を自由に舞う蝶のようにフワリと舞い、おれをベットに押し倒していた。
「じゃあ、お姉さんが癒してあげましょうか?」
そう言って妖艶な笑みを浮かべる彼女は紛れもなく”サキュバス”であった。
「大丈夫。お姉さんにすべて任せて。最高な夜を味合わせてあ・げ・る♡」
夜風にあたっていたからか、ほんのり冷たくなったスラリとした美しい手がおれの頬をなぞる。
なんて、魅力的なんだ。
彼女は男を求めていて、おれは・・・。
そこでおれは現実に戻った。
おい。もし、もしもだ。この状況をおれの看病してくれている、シャンドラさん(?)に見られたら?
ヤバい。ミンチになりたくない。せめて殺されるなら人間の原型は保って欲しい。
「あ、あの。ごめんなさい。おれを信じてくれている妻がいるものですから。」
「そうなのね。でも時には冒険も必要よ? それが夫婦円満の秘訣だわ!」
もしかしたら・・・。もしかしたら異世界ではそうなのかもしれない。
でも・・・。彼女がおれを見て泣いている顔を想像したら胸が切なくなった。
「でも、ダメなんです。おれはちっぽけな人間だから・・・。この手で守れるのはあまりにも少なくて。それは器の大きさでもそうなんです。だって、大事に想っている人って1人しか目をかけれません。」
「そんなに何人もだなんて、おれは必ず誰かを雑に扱ってしまいます。」
「大丈夫。人はね心がこもっていなくても、時に側にいるだけで喜びを感じる時もあるのだわ。あなたは私の側にいてくれるだけで良いの。ねえ。この手を握って? 大丈夫よ。あなたは奥さんを思う一途な人。私は今このひと時だけ、あなたと繋がっていたいの。」
頬をそめ、彼女は一筋の涙を流した。
おれは・・・。おれは。
何か違和感があった。これは空気の揺らぎだろうか。時々商談をしている時に感じるあの場を支配されている感覚。
おれの上にまたがっているサキュバスな彼女ではない。
もう一人の心あたり。果たしてシャンドラさん(?)が入口の方からおれたちを呆然と見据えていた。
読んでくれてありがとう♪ 更新お待たせしましたm(__)m 最後シャンドラさん(?)はシンが眠っていると思い気を使って静かに扉を開け閉めしたところ事件を目撃してしまったというところです。