6話
読んでくれてありがとう♪ 明日も頑張るます!
住み慣れた街を出て、おれたちは馬車かららくだへと乗り換えた。
隊長「早く荷物を積み込め! この炎天下だ! 時は一刻を争う!」
隊員・おれたち「サー・イエス・サー!!」
テキパキと仕事をこなし、おれたちは長い旅へ出かける事となった。
ジリジリと灼熱の太陽に焼かれる地面。
長いローブを見にまとい、ターバンを頭に巻いてはいるものの、生地越しにも伝わってくる熱。
おれたちはまるで虫かごに囚われた昆虫のようであった。
熱い時に大きな声は耳にさわる。おれも昔はそう思っていた。
だが実際、限界を超えてしまうとその隊長の指示は叱咤激励のようで、打ちひしがれるメンタルを救う一筋の光だった。
「シャンドラさん(?)大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。シンさんもうちょいです。頑張って下さい!」
吸血鬼は日光に弱い? 確かにシルクのような美しい肌だが、あいにく日焼けする様子さえない。
やはり人に聞いた伝承などは当てにならないものだ。
何時間無言が続いたか分からない。おれたちは無言のまま砂地に足を進めた。
「お水飲みますか?」
「大丈夫です。」
ニコリと余裕そうに答える彼女の笑顔が眩しい。
おれは少し意識が朦朧としながらも、昨晩の事を思い出す。
*****
キャラバンに合流したおれたちだが、2人の参加を認めてもらうまでが大変だった。
何せ見た目が華奢な美女のエミリーさん(?)だ。
「大丈夫です。私は絶対に皆さんの足を引っ張ったりしませんから!」
世界に真理があるなら私がそうだとばかりの強気な態度で彼女は言い切る。
「ふむ。その目力なら言っていることを信用しよう。名前は何という。」
「私の名はシャンドラ! シンの妻です!」
ドヤアとばかりの顔をする。
はいはい。つい5分前に夫にされてしまったのがまだ吞み込めていない。
「私からもお願いします。どうぞ彼女の参加も認めて頂けないでしょうか!」
「ふむ。許可しよう。2人とも足は引っ張るな。もし力不足だと判断したら、見捨てておいていくがよろしいかな。」
「望むところです。どうぞ宜しくお願い致します。」
「諸君では新たな友を迎えようではないか! 宴の準備は出来ているか!?」
「イエス・サー!!」
おれたちを入れて50人規模のキャラバンだろうか。
人々に囲まれおれたちは質問を浴びせられた。
「この辺りの人なのか? 奥さん偉いべっぴんだな!?」
「旦那も随分若いじゃない。私好みだわ~。」
と踊り子風のお姉さん。
「な、渡しませんからね? 私のです!」 ガシリと腕を引っ張られる。骨がきしんだ。
シャーっと威嚇をする子猫のようなエミリーさん(?)改めシャンドラさん(?)
「さては新妻だわ~。」
皆にからかわれ顔を真っ赤にし、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。
全員「いや。可愛いか。(心の声)」
「大丈夫よ? とってくったりしないわ。それにしても健気ね~! 若いって良いわ~!」
「この2人は応援したくなってしまうなあ。不覚にも。」
「分かるぞ。あのリフレッシュ感。ついつい見入ってしまいそうだよなあ。」
おれは何故かたくさんの男たちに肩をポンポンどつかれ、シャンドラさん(?)はお姉さんたちにハグされまくっていた。
*****
あの嫉妬していたシャンドラさん(?)可愛かったな~!
そう思い、彼女の背中をみて思わず笑みがこぼれた。この砂漠はこの後3時間ほど進み続けるだろう。その後はオアシスだ。
天然のため池の水を救い、魔法で冷やしてから飲むのが今から楽しみで仕方ない。
おれは思わずぺろりと乾いた唇を舐めた。
となりで何やらごくごく飲みながら歩いているシャンドラさん(?)。
「飲みますか?」
「いや。飲みません。」
あまりにも水のように飲んでいるそれは”栄養ドリンク”だった。
「ええ、美味しいのに。」
「でも気を使ってくれて嬉しいです。」
種族の壁って厚いねえ。なぜおれは結婚してしまったのだろう。いや。変な事を考えるのはよそう。
彼女からは一生逃げられない気がもうしてしまっていたから。
*****
夜こんな旅行ではカップルはいちゃいちゃするのだろうか?
気を使われ、2人の場所を作ってもらう。
「シンさん!」 キリリっとした目でシャンドラさん(?)がおれを見据える。
「ああ。分かっている!」
おれは疲れすぎてしんどいので寝具へダイブ!
彼女もすぐに眠ると思っていたが、どうやら違ったようだ。
「私に任せて下さい!」
そう言ってい勇まし気に外へ姿を消した。
なるほど。 なるほどね! うん分からん。おれは枕替わりのタオルに顔を埋め夢の世界に旅立った。
その束の間に周囲で怪物どもの断末魔が聞こえたそうだ。
翌朝、キャラバンのテントの数百メートル先にバラバラに惨殺されたゾンビやおれたちに昨日夜襲をかけようとしていたのだろう、ゴブリンの盗賊団が無惨に横たわっていた。
犯人は分かっている。
隊長「誰が助けてくれたのだろう。こんな集団に襲われたら我々はひとたまりもなかった。」
一同「ゴクリ。」
ドヤ顔をしたシャンドラさん(?)の耳元にそっと小声でお礼を言う。
「守ってくれてありがとう。」
「いえいえ。」
そう言いながらも彼女は苦労が報われたような喜びを嚙み締めた顔をしていた。
そりゃあどんなに強くてもこの数を相手取るのは骨がおれたろう。昨日熟睡していて申し訳ない。
そのかわり今日は体力満タンである。彼女の分の仕事もおれが3割くらいでも手伝えてらと思う!
砂漠の白い砂がこびりついた血液で真っ赤に映える。
そんな場所をおれたちは歩き出した。のそのそ歩くらくだと共に。
次の目的地は昨日の夜の会議で伝えられた、海である。
塩の匂いが早速風に乗って運ばれてくる気がした。
「海もう近いのでしょうか?」
「ああ。もうすぐだ。頑張れよ新入り! 後たったの30kmだ!」
「!!! 頑張ります!」
少し間を開けておれはシャンドラさん(?)に声をかけた。
「もしおれが途中で道半ばで倒れたら・・・。」
「分かってます。 新鮮なうちに血液全部吸い尽くしてあげますから! あなたの全てが私の一部に! フフフッ。ロマンティックですね♪」
おおう。マジですか。うっとりしてるぜ、彼女。可愛いけど。きっと吸血鬼ならではの思考なのだろう。
おれ死んだらミイラですか。
よし。頑張って生きようと思う。ミイラにゃなりたくないからな。
彼女の手の平の上で軽やかに振り回されるバタフライナイフを見ながら思った。
*****
隊長「ヤバい。すまん。ちょっと次の目的地まで食料が足りないかもしれない。みんな各自で食料調達するように。このオアシスはこの砂漠で最大規模だ。当然動植物が豊富である。みんな心してかかってくれ。」
みんな「サー・イエス・サー!!」
盛大な掛け声とともにおれたちは散会した。
「シャンドラさん気を付けるんだよ~!」
「おい。シン。しっかり守れよな。 何かあったらお前死刑だからな!」
「はい。」
にこにこしながら手を振るシャンドラさん(?)。
彼女はとってもみんなに慕われてる。すっかりみんなのアイドルである。
みんなが疲弊しているこんな時でも軽やかな声。何より生き生きとした表情が日光張りに眩しいのだ。
「任せて下さい。先輩。」
足を引っ張らないように頑張ろうと思った。
ヤシの木の葉をかき分け、おれたちは先へと進んだ。扇型の葉は大きく視界を遮る。
チクチクしていておれは痛い。ローブの上からもチクチクとした刺激をプッシュしてくる。
「シャンドラさん(?)は大丈夫ですか?」
「もちろんです。」
ニコリと微笑む彼女の鋼鉄の肌には、傷一つなかった。
笑顔で飛んできたサルみたいなモンスターをワンパンで肉塊へと変え、空中へ飛び散る血液を貪る。
「ところで、こういう地域で一番大きな獲物は何でしょうか?」
「そうだなあ。禁忌として怪鳥ロックには手を出すなという言い伝えがあります。絶対に手を出してはいけないんですよ! ちなみに谷底に巣を作る習性とか。」
「よしちょっとそいつ狩って来ます!」
そう言って彼女は元の姿に変身していった。背中から悪魔のような真っ黒な翼を生やし、牙と爪はナイフのようにより鋭利に・・・。
真っ赤な目はピンクのような鮮血のような。うんきれいな色だ。
貪欲に吸血鬼ことシャンドラさん(?)は上空へ旅立っていった。
おれはココナッツを収集しようと10分ほど粘ったが、思ったより強敵だった。
なんだ。やるじゃないか。
すれ違い際に仲間に出くわす。
「なんだ。お前もココナッツ狙いか? 新入り!」
「そうなんですよ! でもなかなか大変ですね。」
「ぼちぼち頑張れよ。砂漠では水分は生命線だ。ファイト! 彼女に良いところみせてやるんだな! ハッハッハ!」
「うす!」
だがおれはココナッツマスターにはなれなさそうだったので、シャンドラさん(?)が肉を確保して来るのを期待して待機することにした。
山盛りの薪を用意しているうちは仲間から止められたりもした。
そんなにたくさん集めても、あまり質は良くないので売り物にはならないと。
今回の宴ではそんなに使うはずがないんだと。
きっとその忠告はおれの事を思っての言葉だった。だけどおれには確信があった。
シャンドラさん(?)が怪鳥ロックを仕留めて来るという事を。人間の探検隊なら目にも止められない痕跡なども彼女には容易く見つけられ、たどられてしまうだろう。
彼女こそ最強の狩人なのだから。諦めることはけっしてない。だからこそおれも逃げれないわけなのだから。
*****
炎陽がひと時雲に隠されたとおれたちは思い、ほっと息をついた。
だが、それは落下してきた怪鳥ロックの亡き骸だった。
そのうえにはもちろんシャンドラさん(?)がまたがっており、勝利のVサインを浮かべていた。
「なんだ?化け物か? いや死んでいる。」
「噓だろおい。チキン食べ放題じゃねえか!」
「嬢ちゃんやりやがったなあ!」
「しかし、あの巨体をどうやって調理するっているんだ?」
「ハッ。」
みんなが気付きおれの方を見る。そこには大量の薪をそろえたおれがいた。
おれもみんなにVサインを返す。
「お、お前ら・・・。良いコンビだよ。」
「そう言うことだったのか! やるなあ!」
隊長「シンお前は大商人の素質があるよ。」
「へへ。ありがとうございます。隊長!」
一般に人ならここで、方法について問いただされるだろう。だが、おれたちは生まれた時から商人だった。
つまり、対価が問われるわけだ。その質問に対しては。
ニヤリとみんながそれぞれの思いを胸に微笑んだ。
正体がばれたらマズいので、吸血鬼は偽名を使っています。本当の名前はシンも知りません。*目印:○○○○(?) シンは機転が利く設定なので、周りに合わせて呼び方を変えます。