5話
この金・土・日だけ頑張って連投します。急展開? になりそうです!
123年6月3日 この国で本格的な犯罪者を取り締まる法律が施行された。
史実には元ギセイニナール王国の第二王子の発案だと記されていた。
だが・・・。残念ながら事実はそうではなかった。私などは確かにこの国の国家解体に携わったものの、所詮はこの国を動かす一コマに過ぎない。
この手柄は私の後ろで作業をしている彼女のものだ。彼女は私を監視しつつも最大限サポートしてくれる。
今日も背中に突き刺さる射るような視線が辛い。この国の貴族たちの体裁を保つため王族の私はただ生かされているのは間違いないのかもしれない。
「騎士団長、明日は非番ですね。何か予定でも!?」
「ああ。実は最近ごひいきの店があってね。明日もその店に顔を出すつもりだ。」
「そうなんですね。」
「念のために言っておくが、いかがわしい店ではない。」
「本当ですか? フフフ。冗談ですよ~。でももし、出会いを求めているのでしたら、私を誘ってくれると嬉しいです。」
全世界のいかなる男性もなびきそうな満面の笑みを頂く。
「ハハハッ。それはどうも。」
男は惚れやすかった。だがその前に・・・。人の敵意に敏感だったのだ。
女は任務の為なら我が身を差し出すほど、忠実だった。
******
ああ。最近追っている犯罪者カーミラの情報がほとんど入手出来ていない。恐らく女性であるのだが・・・。カーミラという名前も先日やっと情報が入ったばかりなのだ。
休日だというのに足取りが重い・・・。
「まあ。騎士団長さま。今日も来てくれたんですね! こんにちは~!」
「こんにちは。どうも。皆さんお元気そうで何よりです。」
悪役令嬢たちのご友人やファンのご令嬢たちだ。笑顔で面厚く接するのが罪悪感が有りとても辛い。
いつも腹の中に何かが潜んでいるようで。でも。それでもここに来るのはひとえに彼女に会うためだ。
「本日は休みですか?」
「まあ。そうですね。」
「邪魔しちゃ悪いわ。(小声)私たちそろそろ行かないと! どうぞごゆっくりなさって下さいませ。」
「やあ。奇遇ですね。また会えて嬉しいです。」
「ど、どうも・・・。(汗)」
今この国で犯罪者を取り締まる動きが活発化している。だからこそ今一番この男に会いたくないのだ。
ここはもう信じるしかない。自分がへまをしない事を!
「店長このレモネード美味しいですね。そこの棚にある瓶に入っているはちみつをもう少し頂いても良いですか?」
*****
倉庫から補充分の商品を品出していると、ちょうど今きた所だろうか。騎士団長と暗殺者がいた。
どうやらお話中らしい。声をかけようとしたが、寸での所で言葉を飲み込んだ。
危ない。おれは以前、忠告を受けていたはずだ。彼女を介抱してた部屋を片付けていた夕方。枕元に、書き置き(・・・・)があった。
”私はご存知かもしれませんが、カーミラと呼ばれている事がありますが、今後騎士団関係者の前ではエミリーと読んで頂けないでしょうか。大変厚かましいお願いながら諸事情がありますのでどうかお願いします。どうかお忘れなき用。”
つまり今の顔はエミリーなのだ。まあその名前すら偽名の可能性もあるのが残念なところだが、恐らく両親も彼女の事をそう呼んでいたから普段使いはエミリーの方かもしれない。
だからこそおれは・・・。
「エミリー(・・・)さん。今日も来て下さったんですね。」
パアアッと顔が輝いた。いや分かりやすい人だな。
うんうん。分かるぞ。暗殺者が天敵の前でのんびりする方が難しいってもんだ。
おい。やめてくれ。騎士団長さま。分かったってお邪魔はしませんよ。あからさまに険悪な表情へと変わった騎士団長。
「あの。少し・・・。」
何かエミリーさん(?)が話しかけたそうな雰囲気だ。ここは悪いが話を折らせてもらう。
「そうです。良かったら商店街2ブロック先の雑貨屋で有名な画家が来てまして、展覧会を開いているそうなんですよ! 実は私の友人でして、チケットを何枚か頂いているんです。良かったら差し上げますので、お2人で見に行かれては?」
「いいんですか? 私は興味あるなあ。エミリーさん、良かったら一緒に行きませんか?」
「・・・。はい。良いですよ。」
「楽しんできてください!」
そんな感じでお2人をうまくさばいた後、おれは東から来た行商人から仕入れへと向かう。エミリーさん(?)が少し恨めしそうな顔をしていたが、すまん。
おれみたいな朴念仁は諦めて、性格も容姿もともに優れている騎士団長さまと幸せになっておくれ。
そう思いながら商品のラインナップから見定め損得勘定をしだす。
おれはこんなにもつまらない人間だったのか。その考えが頭をよぎる。
だがそれは人と比べれば、だ。何も自分を卑下する必要ない。
自分の好きなことへ突き進むこれもやはり素敵な生き方ではないか?
「ようこそシンさん。お久しぶりです。良かったら見て行かれませんか? どうです? これは珍しいでしょう?」
「このあたりではなかなかお目にかかれなさそうですね。今年もあなたに会えて私も嬉しいです。ムハンマドさん。」
「どうです? 最近儲けてますか?」
「ぼちぼちです。本当にありがたい限りです。」
「そう言えば、例の件話が進んでおりまして。行商人のキャラバンの人員、ミルクポーロに空きがでたそうです。良かったら・・・。」
「本当ですか? いやー楽しみにしてたんだよなあ! 出発はいつ頃でしょうか? いや、おれでも入隊できるかな。」
「もちろんですとも。私の方からも口利きしておきますし! どんと胸を借りた思いでいて下さい!」
「本当にありがとう。どうぞよろしくお願いします。」
「任せて下さい。」
おれたちは固い握手をした。
おれの人生は好転していくかに思えた。
ワクワクした感情を抑えきれず、飛ぶような軽い足取りで我が店へと向かった。
もうすっかり辺りは暗くなり、夕暮れ時の街・・・。なぜか、扉の前に2人の見慣れた人影があった。
「どうされたのですか。」
気まずい。これはきっとそういうヤツなのだろう。
「私から言わせてもらおう。エミリーさんは今日一日私と一緒に街をまわってくれた。だが・・・。どうしても他に想い人がいるらしい。私にも笑顔をみせてくれるのだが、時々上の空になっていた。」
そう言って苦笑気味にはにかむ笑顔をおれに向けてきた。
「どうやら私では役不足のようだ。私は彼女の気持ちを応援したい。」
「本当にすみません。」
少し半泣きなエミリーさん(?)
「今日はどうもありがとう。君との時間は夢のようだったよ。」
「私も楽しかったです。お気持ちに応えられず申し訳ないです。」
そう言って彼は軽く手を振って歩き出した。去り際まで良いやつだった。
「あ、あの。良かったら温かい飲み物でも入れますから。私を待っていたようですみません。」
*****
「あら、カーミラちゃんまた来てくれたのね!」
「それで話とは何だ。我が息子よ。かしこまった雰囲気をして。」
「あらあら。母さん何だかドキドキして来たわ。」
「実は・・・。おれ行商人の旅の一行に加えてもらえそうなんだ。」
「ええ!? 出発はいつ頃になりそう何ですか?」
「今晩です。もう準備は出来ています。」
そう言っておれは珈琲をすする。
「・・・。」
「・・・。」
カーミラさんの目から大粒の涙が零れ落ち始めた。
「母さん・・・。」
「ええ。分かっているわ。」
「おい。どの口が言うんじゃーい! さっきまでの彼女の気持ちはどうなるんじゃい! このたわけが!!!」
「そうよ! 我が息子が本当にバカですみません。もう母さん穴があったら一生入りたいわ。なさけないったらありゃしない!」
「いや。本当に申し訳ないのです。すみません。」
おれは頭を下げるしかなかった。だってさっきまで、花も恥じらう乙女ばりの頬をほんのり赤く火照らせた顔をしてもじもじしていた彼女を泣かせてしまったのだ。
おれだって心苦しい。
彼女はおれの事をきっと諦めてくれる、そう思っていた。
でもおれはまだ彼女の気持ちを侮っていたのだ。
「私も一緒に連れていってくれませんか? あなたが好きです。離れたくないんです。」
そう言って涙を浮かべながら、おれの手を握り、そしておずおずとおれに抱きついてきた。
彼女の体温がほんのりとつたわって来る。
おれも優しくそっと抱きしめ返した。
「ありがとう。でも外は危険がいっぱいだから。その・・・。」
「ええ。どこまでも一緒です!」スパーンと言葉を被せてきた。
「ブラボー! ちなみにもう彼女の両親とは結婚の許可は頂いている!」
なんだ、と!? 仕事早いな?
「ええ。あなたのお母さんは私の幼馴染なのよ? それはもうとんとん拍子よ!」
おのれ。お節介なバカ両親め! 外堀りから埋めてきやがった。
「私も実は、結婚したい人がいると両親に報告してきたのです!」
エミリーさん!?
「少し落ち着いて話を・・・。」
「なので・・・。どうか私を選んでくれませんか?」
フルフル震える手でおれの服の袖を掴み、涙ぐんだ上目遣いを向けてくる。
もう素直になっても良いかもしれない。おれは真理を悟った。なんだこの娘。世界一可愛い。
「ああ。もう分かりました! いつか(ピー)あなたと結婚します!」
おれはエミリーさん(?)に捕まれていない方の手の平で顔を隠しながらそう言った。
うん? ピー音で大事な所を隠された?
顔を上げるとそこには彼女の両親が・・・?
どこだここは。どうやらエミリーさん(?)に瞬間移動で連れてこられたらしい。
「・・・。」
「・・・。」
「ええっとこれはそのう。」
ああ。まずーい。これは気まずい。
「ヒャッホウ! シンさんがやっと旦那さんに♪ 私ったら人妻になっちゃったわ(照れ顔)」
勢い良くミスリーさんが飛びついてきておれは押し倒される。飛び散る肉塊にならなかったのは彼女の優しさに違いない。
倒れる瞬間、お義父さまが頭の上で大きな円を、お義母さまが右手を天井に、左手左足を勢い良く伸ばされていた。
クッ。はめられた。体文字でお返事とはなんて粋なんだ・・・!
というわけで、暗殺者の旦那になってしまった。いやどういう訳だよって誰かおれの話を聞きやがれ下さい。(号泣)
そう思いながらおれは地面に頭を強打するのを覚悟した。
あれ? 痛くない? 当たった感触は大きなもふもふ。
「ここは!?」
「はい。これがシンさんのお荷物です。私のもちゃんと持って来ました!」
おれの視界に入ったのは胸ぐらにまたがりおれを見下ろす吸血鬼と、三つのそれは大きな犬の頭だった。
なるほど何か所か瞬間移動を繰り返し、必要な物品は全て目にも止まらぬ速さで回収し、そして今キャラバンへと向かっていると。
なんとか状況から推測してみる。
「そしてこの子が私の眷属、ケルベくんです。ちょっと失礼してっと。頂きまーす!」
あ、知っている。あの地獄の番犬で有名なケルベロスですね。
名前もうちょっとどうにかならなかっただろうか?
右側の頭が振り返りおれに挨拶をしてくれた。この子ったら絶対良い子。思わずホッコリする。
血をすわれながら、おれは必死に手を伸ばして撫でようとしたが、思いのほかでデカく手が届かなかった。
「ちょっと吸いすぎ。ギブです。ストップ!」
「すみません。でも大変美味でした。」
月夜に映し出された顔はゾッとするほど綺麗で、唇から血をしたたらせていた。
「あらやだ。もったいない。」ぺろりとなめとる。
毎晩こんなのされてたら、死んでしまう。でも逆らえば簡単に殺されてしまう気がする。虫のように。
おれの異世界転生した人生の寿命のカウントダウンが始まった気がした。
読んでくれてありがとう♪ 次は国外かな? 冒険ものも書くの楽しいです!