48話
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テラスを吹き抜ける夜風はときに横髪を大いに揺さぶる。視界がせまくなりたまなく手で後ろへとまわし耳にかけた。遠くの湖から蛙の鳴き声が聞こえる。山々と星稜で小さな音がこだまして来ているのだろうか。昔からいろんな説が考えられて来たが、私は風向きと風速が彼らの生命力を身近に運んで来ているのではないかと思う。
まあしかしどちらにせよ夜の些細な雑音などどうでも良いのだ今は。帝国にかつてない危機が迫っていた。突如始まった伝染病…それは今なお猛威を奮い帝国の民を蝕んでいる。
こうしている内にも1人また1人と限りある命が失われていく。こと軍事力においては帝国に匹敵する国々はそうはいない。民は豊かな生活を送れてきたしこの国を愛するものたちだ。彼らはこの国で生まれ育ったことを誇りに思っている。
だが彼らは知らないのだ。我が国は必要がなかったものを排除し続けてきてしまった。余力があるものは外交への投資へとまわし、各国の影響力はさらに高まる一方であった。
では魔法薬の研究は?異端な研究や斬新な発想を持つものに誰も見向きもしなかった。日々の生活が満たされていたからだ。
どうしてあの時…と今でも思う。あと10年、いや20年前に魔導書の執筆者である1人の女がいつか世界規模の伝染病が襲来すると予言をした。それに対抗するには10年から20年ほどの下積みの臨床研究が必要だと言うことを真摯に私たちへと伝えていたにも関わらずだ。
私たちに足りなかったものを諭してくれていた、魔術師のキィティ。彼女は元ギセイニナール王国で研究を続けてくれていたそうだ。
彼女の身柄を引き渡すように圧力をかけているものの、良い返事が今のところ期待出来そうも無かった。我が国が穏便に頼んでいるうちに叶えたかったが…。こうなっては武力行使もやむを得まい。
国家間での争いに発展する前に目的を遂行しなければ。ヤツを必ず見つけだし、その叡知を何がなんでもものにしなければならない。とある最近滅亡して吸収合併された小国に魔の手が迫っていた。
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ある任務を受けていた諜報員から情報が入った。この国で数年前から一般人が行方不明になる事件が相次いでいたがどうやら彼らの居どころがわかったらしい。
総勢1,852名。そのうちに私の右腕だった秘書官も含まれている。彼女はまだ健在だろうか。彼女のことを思わずにはいられない。気付けば私の人生からはいつも大切なひとが消えていく。それでも彼女だけはとどうしてかそう思ってしまう。となりで仕事をしてきたので彼女のしたたかさや逞しさ、そして理性的な瞳。
どうしてだろうか。彼女が黙ってやられ玉ではないと、そう願ってしまう私がいる。行方不明になったのだそう安心できる状況ではないことくらい分かる。他にも多数の行方不明者がいるのだ。安心できる暮らしなどない。民は嘆き安寧を求めている。まったくこの国の騎士団はなにをしているのだと。
その責任の所在を突き付けられているのは、この私である。それは構わないのだが問題は事態がより深刻な状況下になると、暴動などさらに治安が悪化しこの国にさらに他国に付け入る隙を与えてしまう。
兄さま、いや・・・兄上が残したこの国を私はこの身をもっててでも守らねばならない。それがその命をもってこの国の未来へと繋いでくれた尊敬する”あの人”との約束なのだから。
次々と執務室の掲示板へと連なっていく行方不明者の捜索状。この国の拡大地図のいたるところに燦々として貼られている。いったい彼らはどこへ連れ去られているのか。数年ほど前に劇場へ私に忠告しにきた【東門の怪人】もといこの国の暗部とはどこかしら繋がりがあるのか。
これほどの規模の大きい、そして継続されている誘拐事件だ。今はまだ解決の糸口がつかめないが、今いるメンバーでどうにかしなければならない。
働きづめで倒れそうだったので急ぎ休暇をだした頼もしいあのコンビがそろそろ戻ってくるのだ。彼らのエネルギッシュさが今まさに必要とされているのだ。
私も、これまで以上に励まねばな。突然立ちくらみし、急激な無力感に襲われながらも、歯をくいしばり耐えた。ここで倒れるわけにはいかない。大切な“仲間”が増え、守りたいひとができたのだ。扉を見据えて歩きだした歩みは何者にも阻むことは出来ないのだ。ドアを閉めるときに視界に入った黄金の獅子のドアノッカーからはわずかにメッキが剝がれ落ちていた。
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少しばかり仮眠をとって私は執務室へと戻った。青い鳥が窓のそとで儚げにさえずっているのが聞こえる。まだ早冬だったはずだ渡り鳥である彼らが今いるのは奇妙だ。なぜか胸騒ぎがする。
「団長!至急お見せしたいものが!」
駆け込んできてきた騎士見習いのリチャードが息も絶え絶えに、私に報告をしてくれた。
■■■■■■■■■■(■■■24年■月■日)■■■■が解散せり(見届け人:■■■■■■、■■■■■■)
書庫を漁っていると、この国で過去起きた失踪事件の詳細が書かれた文書が見つかったということだ。しかしその文書は本来保管されていない場所で見つかったものであった。何者かに持ち去られたのか、わざと手がかりを残したのか、文書の機密情報と思われる所は黒で塗りつぶされており、発見した場所が窓際であったためか、だいぶ日焼けが進んでおり全体的に解読が難しそうである。
どこからこの文書を発見したか、経緯も含め詳しく問いただしたものの、何者かに隠されてしまったのだろうとしか考えられなかった。
「お手柄だよリチャード君。使われている文書の紙質と筆跡からおおよその年代と関係者たちを探させよう。何はともあれどこから事態が動くが分からないんだ。できることは全て手を打っておきたい。」
だ、団長となぜか感極まって泣き出してしまった彼。
「おれ団長に拾われてから、お世話になってきたという恩を凄く感じていて。少しでも今困っている団長の力になりたくて。」
ありがとうとそっと彼をハグして労わった。まだ16歳の少年である。真っ直ぐな気持ちを向けられ少しばかり照れてしまいつつも、彼をなだめ紅茶を持ってこさせ執務室横のソファーでゆっくりしていくように告げた。
リチャードにサタンそして騎士団員の誰もが、こんなに一生懸命になっているのだ。皆が私のことを信じてくれている。私が弱気になっていてどうする。
「こうなったら総当たりだ。疑わしいこの国の暗部から叩き潰すぞ。」
ハッと敬礼をし速やかに外へ向かった私を追って来ようとした彼を、なるべくやる気を落とさないよう言いくるめ騎士団の訓練へと戻らせたのだった。彼のような熱心な騎士見習いがいる我が国の未来にはどうしても期待したくなってしまう。
いつか彼らがこの国の騎士団で活躍できるために、彼らが守りたいと思って騎士を志願した彼らとの団結した思いを反故にしないために・・・。今一度計画を練り直さなければ。
*****
それから数日がたった。殲滅計画が緻密にたてていた我々が動き出すには十分過ぎるほどだった。だがこの国内での争いごとは最低限にそして迅速に終わらせなければこの国はいよいよ諸外国に飲み込まれてしまう。
執務室には我が騎士団の主要メンバーが集められている。
「諸君準備は滞りなく隈なく進められてきた。今我が国の治安は過去最低の事態を迎えている。だが今の今までやみくもに動けなかったのも事実だ。ともに力を合わせこの失踪事件の闇を打ち払って行こうではないか!」
「「「「「ハッ!!!!」」」」
息を吐くようにひと言口にした彼らは、全員が救国の勇者たちのような毅然としたオーラを放っていた。
後に後世のひとたちはこう語る。彼らこそが滅んだギセイニナール王国から遺された”黄金時代”の勇者たちであったと。
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