45話
ちょっと短めですがアップしました!
お昼後この通りは人の往来で活気に溢れている。5年前知り合いの吸血鬼の旦那がお店に戻ってきたあたりからだろうか。おれも聞いたことがないほど亜人や国のお偉いさんが度々お忍びで訪れるようになった。
この国で人気の騎士団長が憂いた表情でこの店にときどき珈琲を飲みに来ていたらしいのだ。
好きな人には刺さるということで、貴族のご令嬢がこぞって飲みに行っていた。そうなると人の流れが自然とできるわけで今日もまた繁盛している。
私は世間のそういう流行だのには疎いが、ご令嬢のひとりが本を買いに来た時におすすめされたので知っていた。
通りを歩くと何人もの人々がおれを見ている気がする。チラりと目が会うと八百屋のおばさまが目をそらした。
何があったのだろう? 少し足早にお昼で店を空けていたので帰宅することにした。懐には【新鮮な血液パックレモン風味】の瓶が揺れている。
扉の前には誰もいなかった。昔は鍵を閉めてでていたものだが、今となっては店番をしてくれる頼もしい吸血鬼の妻がいるので、中でお待ち頂けるようになっている。
中に入ると厳格な雰囲気をまとっているお二方がいた。
「お久しぶりですね殿下。」
「少しお話できるだろうか。君も元気そうでなによりだ。それで...奥方はご息災か。」
見ての通りでと首筋にうっすらと残っている吸血痕を一瞬だけ見せた。
殿下の隣にはいかにも強そうな人物が控えている。おれは彼のことを知らない。初めてあったと思う。
おれが両手に抱えていたお昼ご飯をみて殿下は先にたべてくれと譲らなかったので、詳しい話ができたのはそれから20分ほど後のことだった。
どうやら殿下たちは古代龍用の設置罠の解除の専門書を探しているとのことだ。なぜそんな代物をってなったのだが、あいにくおれには心当たりがあった。
どうしてか。おれの知り合いに魔術師で人間をやめてしまったレベルのやつがいるのだ。そしてそのお方からお茶菓子のお礼に頂戴した魔術書が偶然にも古代龍用の設置罠の魔術についての記載があったはずである。
ちょうど半年前だろうか。少し持て余した時間があったので、おれは例の魔術書に目を通していた。中々に高度な内容で読んでも意味はほとんど分からなかったが、ありがたいことにサンプル用で一回限りこの魔法が使えるらしい。
この魔法で今回の殿下の依頼をクリアできたらそれに越したことはない。そっと大事そうに書庫から取り出し殿下の元へとむかった。
「ふむ。何度見ても素晴らしき品揃えだな。私が見てきた書庫の中でここが一番である。王立図書館よりも貴重な本が眠っていそうだ。」
「殿下は教養人ですね。おれにはここの良さがきっと理解できていない。でも彼に頼んだ殿下をおれは信じています。レインの助けになるのであれば、何でもさせて頂く覚悟がおれにはあります。」
本棚の両サイドがカタカタと音をたてて揺れ動く。まるでなにかが近付いてくるようだった。
ハッと身構え剣のつかに手を掛けて、正面を見据えていた。視界が悪い至る所に本棚があり、中には魔力を帯びているのも多数あるので、人の気配を察するに苦労する。
「お待たせいたしました殿下。」
両手にいくつかの魔導書を抱えた店主が目の前に現れたときは思わずぶったぎってしまう所だった。ここは魔界なのだろうか。いったいこの国の騎士団の何人がこのプレッシャーに耐えれるだろうか。
そしてこの目の前の男は…一体何者なのだ?用心するようにおれはいつでも動けるように重心を前へとずらした。
見てみるとお世辞にも強そうには見えない。だが本当の強者は外見の擬装や雰囲気のつくり方など人を欺くのに長けていることが多い。ひょっとしてと考えてしまうのは今の護衛の仕事の職業柄仕方のないことなのかもしれない。
彼の一挙し一投足まで視線を悟らせないように舐めるように観察した。
「いくつかの候補をお持ちいたしましたが、私のおすすめはこちらです。」
差し出されたものを殿下は快く思わなかったようだ。一瞬眉を潜めた動作をおれは見逃さなかった。
「これについては私も聞き及んでいるよ。確か時代に飲まれた異物と呼ばれていただろう?」
流石殿下と前置きし店主は語りはじめた。
「おっしゃる通りでございます。この本はかの有名な某魔術師の暇潰し、求められていなかったもの揶揄されていたことも。しかしたった今この悪名高きこの本が殿下は必要だと私は断言いたします。」
その本は外見だけは派手で中身が伴っていないと言われていたもの。理由は一重に実用性が人々の生活に無かったからだ。
「悪名だけが先走り、実にその内容が世に知れ渡ることはなかった希代の著書だというのに。殿下…この本実は魔族と人間が共に手を取り合って繁栄していた時代に産み出された魔術特に古代龍を捕らえるための罠の理論についてのみ解き明かすために作られた1冊だったのですよ。」
どうしてこんな物が埋もれていたのだろうか。そもそもなぜこんなタイミングで手に入れることができたのか。殿下の横顔は思慮深く次のことについて既に考えはじめているようだった。
「では店主。その本を頂こうか。ご教授頂いたこと大変感謝する。良い値で引き取ろう。我が騎士団の頼もしい1人を救うためだ。出し惜しみはしない。」
この人はどこまで…。もともと団長のことは尊敬していた。それでも今彼の背中がこれまで以上に大きく感じられるのはきっと気のせいではないだろう。
おれは黙って後ろで頭を下げた。顔を上げたときに店主が目を細め朗らかに笑うのを見て、おれの相棒は必ず助かる、いや助けて見せると自分の気持ちを信じることができた。
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