44話
懐かしい人物が登場します!
密林を抜けると少し開けた原っぱがあった。見ると崖と思われていた場所はダンジョンの入り口のようになっていた。
夜間の魔物の襲撃があったと王都まで報告があり、盗賊たちの討伐の後に1度ここの見回りをするようにと団長に言われていた。魔物たちの発生源を探していたのでこの場所であたりだと思いたい。
きっとおれが冒険者なら心をワクワクさせ未発見のダンジョンに挑戦できる、ただそのことに歓喜に震えていただろう。しかしおれは今騎士団所属のしがない剣士である。
自ら進んで入りたいとはどうも思えそうにない。
「なあ、おいレイン。どう思う!?」
普段はクールにふるまっている癖に気づけばダンジョンの石壁にぴっとり引っ付いて頬擦りしているではないか。
こいつもしかして…ダンジョン探索が好きだったのか?いやというよりもこの反応は…まるで実家に100年ぶりに帰ったときの子猫のようである。
おれも昔…今となってはもう思い出せないほど昔に納屋みたいなボロ屋だったが家の柱におれの身長の成長記録を刻んでいたものだ。
きっとあれと同じ感じで実家に帰ったように懐かしく思っているのだろう。
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ああ懐かしい。私はいつにもまして気分が高揚していた。こんなにもテンションが上がるなんて!まだこの場所がこの世に残っていたなんて本当に信じられない。
私が魔族と暮らしていた時期からもう数百年はたっているはずなのに。ああこのダンジョンの壁。みんなで落書きして司祭さまに杖で追いかけまわされたりしていたこともあったなあ。
昔は楽しかった。本当に楽しかったんだ。大人になると幼馴染みの彼らと立場が違うこともあり次第につるめなくなってきて昔ほど会えなくなってしまった。
みんなそれぞれやりたいこともあったし夢を追いかけていたものだ。
ねえ…みんな今の私をみても笑いかけてくれるかな。私は今の自分で胸をはって久しぶりだねと声をかけられるだろうか。
きっと私たちは再会を喜びあうことができるはずだ。世間は世界は変わり続けるものしかないが、私たちたちの関係はきっと変わらないのだから。
そっともたれ掛かかり続けるものの体温が無機物へと溶け込んでいく。こんなにも想いは温かいのに石壁はどこまでもヒンヤリと冷たかった。
ふと1人置き去りにし感慨にふけっていたことに気付き振り向くと、サタンはどうやらずっと私の背中を見守ってくれていたらしい。
危ない私としたことが。こんな密林近くの無人の施設でぼんやりするなんて。
中に入って例のものを取り出さねば。
着いてきてと声をかけたのだった。
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『Ljka...the hgfdll』
恐らく中に入る許可をくれたらしい。おれは素直に彼女の後ろを着いていった。
不意に彼女が立ち止まる。一体なぜ通路ど真ん中で仁王立ちしているのか。
「おーい。レインそこで立ち止まられるとおれ奥まで進めないんだが。」
両手をバッサバッサとふり始めた。これはなんの合図だろうか。
悲鳴のような魔族語が耳に突き刺さった。思わぬアクシデントに巻き込まれた可能性が出て来たので思わず小走りで駆け寄ろうとして止めた。
わちゃわちゃ動いていた彼女の両手が交差し頭の上にバッテンを作り出したからである。
確かに今は緊急時であるが考えなしに動くほど危険なことはない。いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたおれの感がそう告げていた。
落ち着いて彼女の意をくみとる。おれは闘技場で10年命の駆け引きをし続けてきたんだ。よく知る相棒の言葉なぞ楽勝に読み取ってみせる。
「あ、いや…えなのか?」
「シェント」
「ドレイクいやドラゴネイド」
「違うらしいな」
「もしかしてだけど・・・。ドラゴン?」
コクコクコク。そうらしい。レインは魔族だからか魔物についての報告書については良く目を通していたから、それに関しての演文字を習得していた。(BODYランゲージの一種)
だが魔物の気配はしなかった。そしてレインは動けない。その上おれにも近づかないように言っていた。
ここから読み取れる情報は…まずは古代龍は置いておこう。今考えてもどうしようもないからな。なにかがある。そしてどうやらそれは彼女の足元に原因があるようだった。
「レインすまん。なにか魔法の気配がするんだが、ちょっとおれにも見れるようにしてくれないか。頼む。」
レインはおれがなんのことを言っているのか数秒悩んでいたが、魔力の粒子を可視化させてくれた。スススゥーと足元に魔術陣が浮き上がる。これは・・・。隷属服従の魔術にも似ている。魔術に詳しくないおれだと本当に当てずっぽうの推測でしかないが、これは固定、対象の捕捉の力が働いているようだ。
ひとつの可能性が頭に浮かび上がってきた。それは罠である。先ほどレインが教えてくれた情報とつなげて考えると、【古代ドラゴン】、【罠】つまりそういうことなんだろう。
「まさか・・・。いやこれはどうすれば良いのだろうか。壁を破壊しようにもドラゴン対策であの怪力にも耐えれる【物理耐性】の魔法がかかっていそうだな。
試しに思い切りぶん殴って砕こうとしたものの、ヒビひとつ入らなかった。これは早急に助けを呼ばなければならない。
「レインすまない。今回の任務は中止になりそうだ。体力はまだ大丈夫そうか?」
ふふんと胸をはり腕をくんで自信をみせてくれたレイン。彼女は強いから身の危険は正直あまり感じていないが、それでも心配なのはかわりない。
おれは彼女の足元に2,3日分の食料と水を念のため残して彼女をおいて街まで走って戻った。
騎士団の支部にすぐさま駆けつけて、本部へと転移した。扉をあけた先には覆面のタイガー(注意1)が歩きながら次の任務の準備をしていた。
「団長を探している。どこにいる?」
「兄貴!お久しぶりですね!さっき職務室で資料に目を通していたのでまだいると思いますぜ。いつもの亜人の相棒はどうしたんですかい?」
「少しまずいことになってな。彼女の身に危険が迫っている。」
ちらりと振りかえりながら、まるで貴族のように見違えるようになった【覆面のタイガー】に興味をひかれながら先を急いだ。
一歩また一歩と歩くたびに焦燥感に包まれている気がする。廊下に飾られている絵画たちの横を流れるように駆け抜け、我らが団長の部屋へとたどりついた。
ノックをし扉にしがみつくような勢いで中に入った。あまりのおれの慌てっぷりにただならぬものを感じたのか。
「どうしたサタンそんなに慌てて。少しは出張先で羽を伸ばせたか。」
「レインが捕らわれの身になりました。至急魔術師の手配をお願いしたい。」
まあ落ち着けと出された紅茶をゆっくり味わう余裕などは全くなく、ことの詳細をお伝えした。団長ならきっとレインのことを助けてくれるそんな期待を込めて丁寧に説得した。
「1つだけ心あたりがある。この件は私に任せてくれないか。」
団長はすぐさまに伝令をよび、そのとある方との謁見に備えてくれた。
1時間あとにまたここに来るよう言われ、おれはレインのことが心配で心がここにあらずといった様子で誰に話しかけられても上の空の返事しかできなかった。
おいサタン。聞いているか。
何度か後ろから団長によばれていたものの、肩を叩かれるまで気付かなかった。
「では私の心強い知り合いのある書店の主なら、失われたとされる罠の解除魔法を使えるかもしれない。」
それでは行こうかと、久しぶりにこの街を団長とならんで歩いて行った。
元孤児で修道院から武の道を歩んできた苦労人。相棒の疾風剣のディスティンと覆面のタイガーとは武の道ではそれなりに有名である。コロシアムでサタンとレインのペアに決勝戦で戦った。




