33話
新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。投稿ゆっくりの作者ですが気長にお付き合い頂けると助かります。面白くなるよう頑張って話ねります。
月には魔が宿るという。狼男の伝説や湖のセイレーンや水の精、わたぽぽたちが騒ぎだす時期である。
昔の賢者は月の満ち欠けによる魔力の高まりを利用して儀式をした。月の巫女たちは都城の豊潤を月の女神テミスフィアに祈った。
人々は満月を愛していたと同時に恐れてもいた。というのも、ここ最近の王都では満月の夜に人さらいや犯罪が相次いで起こっているからだ。
だがそれでも人々のロマンを奪うことはできないようで、告白するカップルや外出するひとたちはあとを絶たないようで通りはにぎわっていた。
「ねえねえ。あれ美味しそうだよ? せっかくだから飲んでいこうよ!」
「なにいってんだアスタレッサ! 早くいくぞ! あの英雄が今日の目玉だろう? あの剣奴のサタンが予選突破した猛者どもを爽快に蹴散らすあの殺戮ショーが見れるぞ!」
「聞いた? 私たちも行ってみない?私も行きたい行きたーーーーい!」
たくさんの楽しみがある大都市のハブロスクジャンでは民衆がひとを押しのけながらもこぞって参加したがる月一の楽しみが今日この日にあった。
*****
人類最強の強靭な漢。そう呼ばれるようになってはや6年がたった。月の女神テミスフィアに祝福されているこの都市ハブロスクジャンにある剣闘技場のアクロバイゼンニウムはさすがのつくりというべきか。
他の名所を圧倒するかのような荘厳さのある建物はさすがというべきか、1万5千人もの観客が観戦できるスタジアムで起こる興行。
聞こえはいい。外からのみるのはさぞ楽しかろう。なあお前はどう思う? こんなただ人を痛めつけたり、場合によっては殺すこの毎日に心を痛めないのか?
先月むかえたばかりの小さな相棒をみやる。
「*PKOKFEOOOS%&”PGR'LF'G'LH'S'G**@!」
なにを言っているか分からない。この牢獄につながれる隣の女はいったい何者なのか。
人ではないであろう。大方亜人によくいる奴隷だと思う。
気がふれているわけでもなさそうだ。言葉はお互いにまったく通じないものの、時折垣間見える行動からは理性が感じられるのだから。
そっと手を伸ばし髪にふれた。サラサラとした感触が手のひらをそっとくすぐってくるようだ。パッと手を叩き落とされてしまった。釣れないのが小憎らしい。
だが彼女のことを少しだけ愛おしく思い、彼女のことを守ってやりたいと思っていた。まあおれが手を下さずとも彼女の剣筋は美しく、天性の才を感じる。最高の”鉾”といえるとこのおれもただ素直に思う。
だが問題はそこではなかった。先日の夜、怪しげな訪問客がいたのだ。深墨のローブをまとった年齢性別不詳の”それ”はγ(ガンマ)とおれに名乗った。
大方気配を消すのが巧妙だったので暗殺業関連のものであると今思い出せば言えなくもないのだが・・・。
やつの耳に刺さるような声が不快にも脳につきまとっている。やつは確かにおれにこう言った。
「お前がサタンだな? 顔をあげて話を聞け。時間がない。」
「何のようだ? 見るからに招かざる客だが。名の名乗れ。」
「伝えたいことはただひとつだけだ。なあ。お前の側にいる”そいつ”はなんだ? お前にはなにに見えている?」
「・・・。なにが言いたい。」
「ある”物語”があったとしよう。未来に起こりうる1つのことを予測できるような能力がある書物のようなものだ。予言書などという代物よりももっと確かな未来を書き出してくる。まあ聞けお前は明日。このスタジアムの選手や観客をすべて”殺す”かもしれないし、”火の海に鎮める”かもしれない。だが、そんなことはどうでもいい。となりにいる”それが”なにになるかが問題だ。」
「どうも他人事だと思えないな。もっと詳しく教えてくれ。頼む。」
「言われなくてもな。もし試合中にお前を買いにくるやつがいたら大人しく買われておけ。”物語”によればそいつと行動を共にすることによってお前の望みは叶うだろう。」
「何をいっているのか意味が理解できない。」
「これはこっちの話だ。”ラスボス”が出る隠しルートが出るときと出ないときはなにが違う? 主要人物の行動の結果か? ただの数名に世界が動かせるとでも? そんな話は空想物だ。”悪役”はただ自身の周りの環境により行動が左右されるだけなのだ。そしてその鍵はサタンお前が握っているそうだ。」
「へえ。おれをそんな大層な風にいうのはお前がはじめてだ。」
「2度と言わせるな。いいかこれはお前の相棒の命がかかっているのだ。実はこんな穢れた存在のおれに守りたいものができてな。お前の元相棒のことだ。彼女の命がかかっている。」
「随分と長話をするものだな。だが・・・。お前のいうことを聞けば”コイツ”の命とあのばかが助かるということだな?」
「ああ。これが唯一の方法なのだ。お前のちからが必要なんだ。助けてくれサタン。」
「分かった。だが確認させてくれ。おれの元の相棒の素性を言ってみるがいい。」
「魔術師キティ。生の実感を求め自ら剣奴に身を一時期落としていた放浪者。ある書店の店主とは旧友である。他には・・・。」
「いや。もういい。だがこれは貸しにしといてやろう。γ(ガンマ)おれの未来が望み通りなったらチャラということで。」
「それでいい。お前は頭が切れると思っていたが予想以上だな。頼んぞ。では明日落ち合おう。」
「ああ。」
やつとのやり取りの中でおれは思いだした。あの魔術師とは言い難い狂人の元相棒を。やつはおれにこういつも笑って言っていた。
******
やつとの狂ったやり取りをつい思い出してしまう。そう言えばこんな雑談をしたことがあった。
「ねえ。ボクが首をきられたくらいで死ぬと思う? 魔術師だよ?」
「魔術師は近接戦闘が苦手なはずだろうが。このペテン師。」
「アハハハ。はあ。そういってくれるのは君くらいだよ。面白くないやつが言っていたらうっかり殺しかねないしね。だからボクの前ではみんな”うっかり”些細なことは口走れないんだ。死の恐怖をそいつらには本能に植え付けてあげているからね。」
「かわいそうにな。」
「そうでもないよ。ボクはやつらを殺さないで済むし、彼らも羽虫のような短い一生を全うできる。これってWinWinだよね? ほらボクって木端微塵にされても死なないし。」
「吸血鬼ってやつはこんなにも傲慢なものなのか?」
「どうだろうね? それに失礼だね。ボクの種族は確かにそうだけど。名乗るなら”魔術師”だよ。血の魔術は得意だけど、極大魔法とかで力を持たないものが命をかけて研究するもので対抗してもボクが勝つ。その狭義を捨てたら人生がつまらないだろう?」
「・・・。」
「あ、ところで最近ボクの遠縁の子が少し足を延ばしたところでカフェを開いていてさ。そいつの旦那が作ってくれた奴なんだけど? 血の味には興味ある?」
そういってくれた飴はプラムの味がしていた。やつはおれが受け取ってくれたのがうれしかったのか。外から持ち込んだ本を手にとり読み始めた。
記憶の中のやつと昨日の γ(ガンマ)との会話の人物像が一致した。あいつはおれに真実を離していたのかもしれない。
*****
今晩またおれはスタジアムで殺し合いをしなければならない。だが今回はしてはならない。タイミングすら分からずあるひとが来るのを待つしかない。
湧き上がる歓声が煩わしい。おれは剣を握りしめ舞台へと向かった。
読んでくれてありがとう♪




