31話
お久しぶりの投稿です
子供の頃私には夢があった。
いつだったか。広場で高位貴族の子供たちとのんびり遊んだ日。
みんなが笑顔で笑いあっていて。その顔をずっと見ていたいと。
隣にいた兄さまがおれに笑いかける。その笑顔が大好きで。いつだってみんなに優しくて間違ったことは決して許さない正義感の強さも。
小さい頃はただ憧れていた。お兄さまとお慕いし、どこまでもついて行きたがっていたし、常に目標にして追いかけていた。
血は半分しかつながっていなかったけれど…。
母上にはもう殿下とはお会いするな関係を持つななどと言われ続けたいたし、それに従わない私は謹慎もさせられた。
だが一時的なものに過ぎない。それからは頭を使って立ち回ってきたので、それなりにお咎めはあったものの目立った仕置きはされなくなった。
私は思っていた。母上は私とは上っ面の関係しか築く気がないのだと。
私を家族扱いしてくれるのはいつだって兄上だけで、これからも兄上だけが家族だと。
父上は愚王だった。まさに暗愚。先祖代々受け継がれて来た国の覇権をここまで落とすのかというくらいの外交下手。
元から王の器ではなかったのだろう。国内は乱れに乱れた。
その中で異彩を放つ兄上。時代が時代なら史上最高の王になれたであろう才能はまばゆいばかりに淡くそして儚かった。
その輝きはあくまで原石のままで終わる。なぜなら兄上にはその才能を活かすための地力がなかったのだ。
家臣は王に都合の良い者しかおらず、かといって優秀な人物が発掘されるわけでもない。
なにより、外交上のご時世と兄上自身の成長する時間が足りなかった。
まさに孤立無援…。後ろには自身を慕う弟。
兄上にはこの国が既にもうどうにもならないところまで来ていることくらい分かっていたのだろう。
卒業式の婚約者を発表する約3年前…。私にただこう告げた。
「この国はもう終わりだ…。各国の属国に成り下がるしかもう道はない。属国になるとしたらあの国が良い。もし例の国から間者が来たとき、その時はお前が手引きをするのだ。」
「それは命令ですか? 兄上。」
「ああ。最後のな…。もう私のことを兄だと思うな。この国とともに滅ばねばならない運命にある。」
「っ…。分かりました。」
そのまっすぐな視線はあの日、兄上あなたを騙し討ちしたそのとき生気が目から消え去るときにまた私は見た気がする。
*************
「フフフ。やっと邪魔者がこの世から消えたよ。マリア。君と2人きりになれた・・・。」
「ええ。殿下。もう終わりですね。」 彼女の瞳からハイライトが消えた。
「グ、グッハ。どうして何だ。私はこんなにも君を愛していたのに。」
内臓が綻びでないように手で押さえる。
「ええ。私も殿下を愛していましたよ? でももう用済みです。」
そんな会話を後ろで私はただ聞いていた。
手を伸ばせば、もしかすれば兄上の命を救えたかもしれない。
ただ…。それは兄上が望まぬことだ。
兄上はここで死なねばならない。この国の未来の分岐点のために。
それが将来を託される王太子の宿命なのだ。
ああ。私は…。いや私たちはなぜこのような時代に生まれてしまったのか。
兄上。私は最後の言葉もかわせず残念です。もう何年もまともに話せていなかったですね。
世間では王太子2人は不仲である…。そう言われています。
私たちは皆を欺くことに成功していたのです。
この国の行く末を見届ける義務は私に任せて下さい。命にかえましても…。成し遂げてみせましょう。
兄上が培ってくださった、私の未来の道しるべとともに。
*******
コツコツコツッ。扉の向こうからヒールの音が近づいてくる。
「失礼します。殿下。」
「ああ。おはよう。」
ノックとともに厳粛なお辞儀をし、彼女は私を監視し始める。顔を合わせた瞬間とともに。
「今さら殿下だなんて呼ぶのは君くらいだよ。」
「あら。お気にしていらしたんですね。これは失礼しました。」
「まあ呼びたいように呼んでくれたまえ。ひと目がある時さえ控えてくれれば問題ないのだから。」
「コホンっ。ではそのように。ところでこちらの書類の情報の出処ですが…。少々怪しい点がございまして。」
「ほう。そうなのか!?」
「ええ、間違いありません。そもそもスモーク伯爵家がお取り壊しになったのが3日前。現在もその理由については情報封鎖がされて○☓・・・・・・・・」
彼女は懸命に仕事の話をする。
もともとこの国になんの関わりもない人なのに、だ。
なぜそんなに一生懸命になれる!? お互いに本心を偽りあう関係だろう!?
「私の耳にも情報を届けてくれて感謝する。ではそちら側で良いように片付けてほしい。」
「いえ。これも私の仕事ですので。ところで、まだあのカフェの小娘を殿下は慕っているのですか? いよいよ飽きませんこと。」
ふぅとこれみよがしにため息をつかれてしまう。
「彼女とはこれからも友人を続けていくつもりだよ。」
「これは私からのおせっかいです。心苦しいですが、ひと言もの申させて頂きます。殿下が愛した人の幸せを願うのはとても素敵なことだと思いますが、そろそろ乗り越えて自分の幸せについても考えるべきでは?」
「・・・。」
「人はどんなに徳をあげても自分を愛してくれる人を愛したい…。そういう風にできているもんなんですよ。」
「耳が痛いな・・・。だがそれを君が言うのかい!?」
「殿下の敵である私しか言ってあげるひといないでしょう? 本当はこんな心配は腹心しかしないはずですがね!? あなたには誰もいないから! 仕方なくってやつですよ!」
やれやれという風にただなんでもない当然でしょとばかりに私の目をまっすぐに見つめ返してきた。
ふっ。どうやら私もまだまだ天に見放されてなかったようだな。
こんなに近くに私の身を案じてくれている存在がいたのだから。
「少し外を歩かないか? 仕事ばかりだが気を落ち着かせたくなった。」
「良いですよ。少しなら・・・。」
王都から少し離れた路地を騎士団長とその側近がいつもの見回りをしていた。少なくとも、2人いがいからはただお仕事中の騎士たちにしか見えなかった。
もっとも身なりからして上官と分かる男はただ心晴れやかであったのだった。
*****
夜だれもが寝静まった時間帯、秘書官の執務室にはまだランプの淡い光がひとりの女性を映していた。
静寂につつまれた中彼女は羽ペンを速やかに走らせていた。
【彼の者、我が陣営に離反の動きなし。徐々にだが懐柔を指示通り進めている。】
慣れた手つきで便箋はしめられた。いつもの定期的な連絡のようであった。
月明かりが差し込む室内から窓ガラスを叩くこと数回・・・。どこからかフクロウが舞い降り女から伝書を任され夜空へと溶け込んでいった。
読んでくれてありがとう♪




