13話
勇者の血族ってなんというか特別感ありますよね~。しかしそんな皆さんに残念なお知らせが・・・。あるかもです。
そう、おれは勇者の子孫に転・生・しましたー!
これはあれだ。なんというか物語における覚醒イベントだ! あの有名なツーピースというまんがもcの一族とかなんとかが大暴れしているではないか!
ということはだ! ということはつまり! これからおれの時代が始まる予感。
「おれ。勇者の一族だったんですね。」
「ああ。おそらく、な。」
あれ~? 何か雲行きが怪しい。そこは断言してほしかった!
「ほら! おれの血をもっと吸って下さい! そして確かめて!」
ずいずいっと手を差し出すと、なぜか引かれた。
「お、おい。君は私を何だと思っているのだ? そんなに私は多ぐらいではない。」
なるほど。同意がない吸血行為は無意味と。
ならその疑念を晴らすまでではあるまいか! 数日の間おれは彼女を観察をすることにした。
そしてわかったシェーンさんの実生活。朝早起きしてはジョギングに出かけ、川の水面をまるで疾風のように走り抜ける。それからお風呂に入り、朝食の準備に取り掛かる。
紺色のシンプルなエプロンと黒のバンダナで髪をとめ、まるでそう朝日に映し出される女神さまである。
はぁ〜。今朝も美しい。おれも隣で調理補助をさせてもらう。
吹きこぼれそうな鍋の火を消し、焦げそうな目玉焼きを急いでお皿に移し、塩と砂糖を間違えて入れたので甘たれへと味付けを切り替えといろいろ忙しい。
けっけむりが〜! ちょっと待って!? なんでつんつんしてるの!? 目玉焼きもう寿命つきるよ?
「君と料理すると朝ごはんができるのが早くて助かるよ。」
失敗しなかったらすぐできるメニューなのでその通りである。
ここまででおっさしの通りかもしれないが、シェーンさんはとても料理おんちで味音痴である。
1週間がたったころおれは思いきって本人に確かめた。
「たびたび聞いて申し訳ないのですが、おれの血の味は例えるならどれくらい勇者と近いのでしょうか。」
「そうだな。うむ。マスカットとプラムくらいは近いかなぁ〜。」
間違いない(確信)
おれと勇者はなんの因果関係もない。ただシェーンさんが味音痴なだけなんだと気づいてしまった。
世界は残酷だ。まさか血の味を間違える吸血鬼が存在したなんて。
「おい。今失礼なこと考えているだろう。まったくお前というやつは。」
「気のせいですよ! さあ今日こそは約束通り出発しますからね!」
「ああ。もちろんそのつもりだ。まさか2週間連続で来客があるとは。お待たせしてすまなかったな。」
「仕方ないですよ。みんなシェーンさんを頼ってきて下さっているんですから。それにおれは正直みんなに好かれているシェーンさんの姿が見れて良かったです。」
「なっ!?」
「突然こんな遠くまで連れてこられて、今まで長い付き合いでなかったものですから。シェーンさんのことをちゃんと知れているか自信がなくて。でも、みんなシェーンに会うと笑顔で楽しそうで。思わずほっこりしてました。」
「…そうか。なら良い。町でなにか買って行こうか!?」
おれの少ない荷物を見やりどうやら心配してくれているようだ。
「だいじょぶです!」
「そ、そうか。」
その顔はもう待ちきれないから荷物とか準備とかすっかりコヤツは頭から抜けおちているようだな。
だがそれで良い…
人間はそれで良いのだ。私は別に隠すつもりはなかったのだが、魔力の操作に長けている私自身の分析によると私の寿命は後100年にも満たない。
私の魔力回路から得られる情報はとても精確である。それはそれで今までは良かった。だが、自分の最後を考えるとなぜか恐ろしく感じてしまった。
私の同胞は死を恐れない。数千年ときには万を生きる私たちは死は解放であり喜びと感じるからだ。
なのに何故か私はそう割り切れない。私たちにとって1年なんて人間でいうとこの1月みたいな感覚だから、本当に仲良くしていた同胞が亡くなったときには3年ほど毎日泣いていたものだ。
悠久の大戦をともに戦ったシヴィアンやルーシー。ガストロイやエマニュエル…
今となっては歴代の英雄と扱われている彼ら。そんな彼らもいつの間にかいない。
魔力量の多い私だけがまだ死ねずにいる。
私はもうまともでいられない。ただ日々迫ってくる死への恐怖に常に支配されている。
もうどうにもならない。そう気がついたとき。私は全てを手放し旅に出ていた。
話には聞いていたが、以前から興味を抱いていた寿命の短いひとという生き物。彼らはどんなふうに毎日を生き、そして死へと向きあっているのか。
楽観的で日々夢中になれるものを持っているひと。ただそれだけを条件に私はひと探しを始めた。
性別年齢問わず。できれば吸血鬼である私に抵抗がなく、受け入れてくれるひと。
色仕掛けを使っても良い。なんせ恥や外聞なんて(知り合いにバレなければ)気にならないほど歳を重ねてきた。
手段は問わない。なんとしても気に入ったひとを手に入れてみせる。
若さだからなせるのか? それとも老いた狡猾さ故になのだろうか。
どちらにせよ私の選らんだ道だ。最後まで付き合って頂こうか。
町はずれの切り株庭。レトロなつくりのこの店の珈琲の味ともしばしの別れだ。中に入ると子連れの親子も何人かいる。甘く優しい香りがマグカップすぐ隣の席から漂ってくる。
そう確か新作メニューが追加されたと話題になっていた。
「おい。ここのキャラメルカフェラテは絶品だぞ。一杯どうだ!?」
「いえ。もう十分で、いえ、やっぱり頂こうかな!? せっかくですし!(汗)」
先に注文していた珈琲を飲みほしてのんびりしていたおれはつい反応が遅れてしまった。あぶない。ここは断る流れはまずいよな。しかし旅先でトイレが近くなるのだけは避けたいところだと思うのがおれの正直な願いである。
おれの答えに満足そうにうなずいたシェーンさんは早速店員に声をかけていた。
「追加で注文を頼む。後そうそう。お持ち帰りでいつものを2つ。」
「まいど~。」
どうやら彼女は常連客のようである。がやがやと賑わう店内をきょろきょろと見渡していたおれはどうやら不思議そうにシェーンさんに見つめられていたようだ。
不意に視線があい少しばかり照れてしまった。顔が赤くなっていないと良いのだが。コホンッと咳払いで誤魔化しつつおれは旅に必要な物資のリスト表をとりだし見ているふりをした。
以下がリストの内容である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
・食料(非常食1週間分)
・伝書バトへの手当分の硬貨
・生活魔導書・中級魔法(2冊)
・衣類
・貴金属類(換金できそうなもの)
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この小さな肩掛けカバンに全てそろえてきたつもりだが、予想外のハプニングがあっては大変である。
おれが自衛できるほどたくましくない以上、シェーンさんがどれほど戦闘力があるのかが未知数なのが気がかりである。
新しく冒険者のパーティーを雇うべきだろうか。
「ところでシェーンさん。おれはこの魔國を旅してまわれるほど腕っぷしに自信がありません。誰かおれたちを守ってくれる人たちを雇うというのはどうでしょう?」
「ほう。それは良い考えだが・・・。私がいるではないか。そこらの魔物や野党どみには遅れをとるつもりはないよ。」
ふふんと強がってみせるシェーンさん可愛い。そうじゃなくて!
「ほ、ほら念のためというか。なにかあっては申し訳ないですから。おれが行く予定のところは人類側にも大変危険と伝わって来ていますし。」
「それだね。うん。君の心配も最もだ。だがしかし。その心配は君が私の吸血行為を拒む以外には何もないだろう。断言させてもらおう。ところで、その・・・。少し良いだろうか。ゴクリッ。」
おれの首筋と手首をちらりと見たその顔を赤らめさせて彼女は言う。あ、なんだがおれの心臓がドキドキしてきました。いやいやいやいやいやいや。無理だって。こんなに魅力的なシェーンさんのお願いを断れるだろうか?
そんなの無理だって。
「もう仕方がないですね。ただ今晩の宿屋まで我慢してください。」
そういってお茶を濁すにとどめた。
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