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OoL/IN SAGA 国立軍附属魔法化学士アカデミー  作者: Team B.D.T.
第2話 魔法化学
8/12

Phase 8 覚悟なんかなくても……!

「……先輩っ!」

 玲は声を上げていた。

 朝日からは反応が返ってこない。玲は朝日が勝つと心のどこかで楽観視していた。

「ふぅー……」と大きく息を吐き出す祐一郎。その表情に疲労の色はほとんどない。

「授業でやる模擬戦の域を出てねぇな。筋は悪かないが、素直すぎる」

祐一郎は倒れたままの朝日の方へと歩き出す。

(このままじゃ……先輩が!)

 玲は駆け出し、倒れたままの朝日と祐一郎の間に割って入っていた。自分でもどうしてこんなことをしているのか不思議だった。

 祐一郎は目を見開いた直後、値踏みするように玲を見つめる。

「タイマンに割り込むつもりなら、覚悟はできてるな?」

 覚悟なんかできているはずがない。

 祐一郎に睨まれ、玲の足がすくむ。身長差は二十センチ以上か、祐一郎を目の前にするとその差は数値以上に思えてならない。しかも、それだけではない。玲の脳裏には、朝日との戦闘――力で押し切った先ほどの一撃が刻まれている。ぞわりと全身が震えた。

玲は奥歯を噛みしめて耐える。

「まあ仲間を守りたいってのは分かるけどよ」

 祐一郎の拳が玲に迫る。

防ぎたい一心で玲は咄嗟に両腕を前に突き出していたが、思わず目蓋をギュッとつぶる。

――ガンっ!

目を開いた玲は驚きから声を漏らす。

「えっ!」

 祐一郎の殴打がインパクトする瞬間、不格好な氷の薄い盾が玲の前に現れたのだ。無意識のうちに授業で見た晴気の氷の盾を思い浮かべたかもしれない。あれと比べると小さく見劣りするのは否めない。

(でも、どうして?)

 しかし玲の困惑も長くは続かない。氷越しに祐一郎の楽しそうな顔があった。

「くっく、中坊のくせに根性あるじゃねぇか」

獰猛な笑みを作った祐一郎が、もう一度踏み込んでくる。

「気合い入れろ!」

 間髪を入れずに祐一郎の大声とともに一撃が飛んできた。

 さっき朝日が教えてくれた一言を想起し、玲は氷の膜を硬いものだと強くイメージする。

(……絶対に破られ――)

 しかし、氷の防御膜には亀裂が走る。

氷は打ち抜かれ、玲の頭が揺れた。声も出せない。脳みそをシェイクされたと錯覚するくらいの衝撃。

「ビビっても逃げなかったその度胸、気に入ったぜ」

 朦朧とした頭とぐらつく視界の中、玲は朝日の声を聞いた。なんだか怒っているような声だった。

 それを最後に玲の意識は途絶えた。




 目を覚ました玲の視界に入ってきたのは、夕焼けの空だった。

玲は気が付くと屋上のベンチの上に寝かされていた。頭だけでなく、体中が痛かった。

「あたたた……」

 ゆっくり玲は身体を起こす。玲の頬には絆創膏が貼られていた。

「最近気を失ってばかりだな……」

 今までの生活にはなかったものばかりだ。

「今回はあなたが勝手なことしたからでしょ……」

 そう言って、朝日はミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくる。彼女が無事なようで一安心だ。玲は受け取った水を一口だけ飲む。

「まあそう言うな。お前を守ろうとしたんだから膝枕くらいしてやればいいのによ」

 ニヤニヤしながらそんなことを言う祐一郎を朝日はギロリと睨む。玲としては膝枕よりも朝日を怒らせるようなことを言わないでほしい。

「あれだけの能力がありながら、なぜ不良なんかやっているの?」

 膝枕の件については、朝日は触れる気もないらしい。完全に無関係の話題であり、玲も気になっていることだった。

今はあんなにいた祐一郎の仲間たちもこの場にはいない。

「実力だけなら今すぐにでもあなたはMaCHINZR(マシンザー)としてやっていけるはずよ」

 祐一郎はしばしの沈黙の後、口を開いた。

「俺は別に不良をやってるつもりはない。俺は自分みたいな奴らにも居場所を作ってやりたいだけだ。百人が百人同じやり方で生きていけるわけねぇだろ?」

 ――居場所。祐一郎が口にしたその言葉に玲は心惹かれた。祐一郎を慕う不良学生がたくさんいる理由が少し分かる気がする。

「そう。でも戦って分かったわ。大町祐一郎、あなたは総司令が求める人材よ。また近いうちに来るから」

「女に付きまとわれるのは困る……勘弁してくれ」

 祐一郎は心底嫌そうに言う。かなり渋い顔だ。

「なら、チーム入りを承諾することね」

 話は済んだと朝日はドアのほうに歩いていく。玲もついていこうと立ち上がる。すると、祐一郎に呼び止められた。

「お前、名前は?」

「日高玲……です」

 玲の瞳の奥の奥まで見透かすような、まなざしを向ける祐一郎。

「玲、お前。この学校の居心地はどうよ?」

 唐突な質問だった。

「まあ……まだ編入してきたばかりなので」

 玲は明言を避ける。実家に比べればマシだが、馴染めているとは言えなかった。

「もしどこにも居場所がないなら、俺たちのところに来ないか?」

「……分かるんですか?」

「目を見ればな。お前みたいなやつには何人も会ってきた。詳しい事情は知らねえが、俺たちは似た者同士、同じはぐれ者の集まりだ」

「……似た者同士」

 祐一郎は朝日の問いかけに、居場所を作るためと言っていた。それは玲が一番欲しいものかもしれない。

「返答は今じゃなくていい。いつでも仲間として歓迎するぞ。根性あるやつは嫌いじゃないからな」

 玲は祐一郎の誘いにどう答えるのが正解か分からなかった。

 しかし、その言葉を聞いた瞬間、玲は心が軽くなったように感じた。痛みで身体を動かすのもつらいのに。

「ありがとうございます……その時はよろしくお願いします」

「おう!」



 その数日後のことだ。

 焦った顔で街を駆けまわっている祐一郎の姿を玲と朝日が見かけたのは。

 総勢五〇名を超える大町一派の不良たち、その半数近くが行方不明となる事件が起きるのだった。


《第2話 終了》


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