100日後に死ぬ悪役令嬢はひっそり青春を楽しんでいる③
どうやら授業は光の偏色反応を披露する試験中だったということで、わたくしも勇ましく挑戦してみたのですが……やっぱりうんともすんとも、手から光なんて出てこなかった。
「神様あんまりですわ……あんな素晴らしい魔法を見たあとなんですから、少しくらい奇跡をおすそ分けしてくれてもいいですのに……」
授業終わりの鐘も鳴り終わったあと。クラスメイトたちは思い思いに友達と話したり、教室から出たりしている。私が机に座ったままオヨオヨ落ち込んでいると、隣のアニータ=ヘルゲ嬢が話しかけてくる。
「……誰にだって向き不向きはあるのですから。あなたはあなたにしかできないことを為せばいいのではなくて?」
あらあら。ツンとした表情ながらも、そんな器の大きなことを言ってくださるのね。
……元は公爵令嬢かつ次期王妃候補だったわたくしに、こんな上から助言くださる方も久しいですわよ。悪くない気分ですわね。
「アニータさんは優しい方ですのね」
「べ、別にそんなつもりじゃ……!」
「あら、すぐお顔を赤くするなんてとても愛い愛いしいですわ」
「う、愛いですって……⁉」
えぇ、素直な未熟さに、わたくしは好感を覚えておりますの。
わたくしにもこんな愛らしさがあったら、婚約者の心がわたくしから離れなかったのかも、なんて。そんな本来のどうしようもない立場に苦笑していると、素敵な殿方が声をかけてくる。
「意外な単語を使っているね」
わたくしに魔法を教えてくださるというこの美少年……そういえばまだお名前を聞いていませんわね。でも同じクラスのようで何よりです。これから捜す手間が省けましたわ。
「トラバスタ嬢は神様を信仰しているの?」
そういえば、この世界の宗教観はどうなっているのかしら?
わからないことは言及しないに限りますけど……今のこの状況も、いつものように神様は見ているのかしら? だったら、あまり薄情なことは言えないわ。あの神様はけっこう打たれ弱い方ですからね。
「信仰とは違いますわ。でも親しい存在だとは思っております」
「家族みたいな?」
「それは秘密です……と、例のお約束のことは覚えていらっしゃるかしら?」
「あぁ、魔術を教えるってやつね。いいよ、今からでいい?」
勿論ですわ、とわたくしは席を立つ。
すると、まさか隣のアニータ嬢が驚愕していた。
「ダール卿に魔術を教えてもらうですって?」
「あら、そんなにいけないこと?」
わたくしが小首を傾げれば、彼女は飛び上がるように立ち上がる。
「だって彼はこの歳にして、王立魔導研究所の正職員でしてよ!」
「よりうってつけの人材ではございませんか」
その組織がどのようなものなのか存じ上げませんが、よりプロフェッショナルな方にご教授いただけるなら光栄ではございませんか。慌てるアニータ嬢の表情から察して……まあ、この方も将来有望な方とお見受けしますし、恩を売って損をすることはないでしょう。
わたくしはなるべく友好的な笑みを作る。
「羨ましいなら、アニータさんもご一緒しませんこと?」
「えっ?」
「二人から教えてもらえたら、より心強いですわ」
別にウソは言っておりません。
先ほど拝見した彼女の魔法に感激したのは事実なのですから。
すると肝心のダール卿とやらも「俺は別に構わないけど」と人好きするような笑みを浮かべている。それに「ならばお言葉に甘えて」と荷物を纏めるアニータ嬢のなんて可愛らしいことか。
「それじゃあ中庭にでも行こうか」
と、微笑ましい空気になった中で、みんなで中庭に向かっているときだった。
廊下で「シシリー=トラバスタ!」と男性の声で叫ばれる。
やはり急に他人に成り代わるという行為は難しいですわね。
思わず反応が遅れてしまいます。
「……わたくしかしら?」
「あなた以外の誰がおりますの?」
少々アニータ嬢のご指摘が厳しいですが、愛の鞭と考えて。
わたくしが振り返ると、そこには色違いの制服を着た男子生徒がおりました。
『シシリー』らが最高学年のようだから、青い制服の彼は年下ね。
茶色の髪の彼が誰だか存じ上げませんが、とりあえずにっこり愛想笑いを返しておくことにしましょう。
「ごきげんよう。どちらさまかしら?」
「なっ、貴様は自分の婚約者の顔も忘れたのか⁉」
「貴方が、わたくしの婚約者……?」
あら、びっくりですわ。
こんなボロボロの『シシリー』だったから、てっきり婚約者などいないと思っておりませんでしたのに。
でも、学年は違えど同じ学校に在学しているのなら、彼も『シシリー』の不遇な見た目を知っていたはずなのに。彼は何の支援もしませんでしたの? 自分はそんな如何にも『成金です』と言わんばかり、無駄に着飾っておりますのに?
如何に裕福なご家庭かは存じ上げませんが、将来の伴侶となる女性に対する最低限の投資もできない殿方は、先も見えておりますわね。
なので、わたくしはにっこりと告げることにした。
「では、婚約破棄いたしましょう」
『はあ⁉』
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