100日後に死ぬ悪役令嬢はひっそり青春を楽しんでいる②
正直言って、わたくしが身体を借りている少女は垢抜けていない。
……けっこう言葉を選んでこれですの。そもそも人に好感を抱かせようという気概を感じませんわね。人生があと数日で終わってしまうとかで、そんな余力がないならともかく……普通に生活しているのなら、最低限自分の身なりには気を遣うのものではなくて?
というわけで、わたくしは家に戻り、自分の身なりを整えてから戻ろうと思ったのですが……そもそも、この子の家はどこなのかしら? 遠方の可能性もあるわね。だとしたら寮部屋はどこ?
「自分自身の情報が何もないというのも不便ですわね……」
こんなことなら、あの親切な殿方にもっと聞いておくべきでしたわ、と、廊下を歩きながらため息を吐いたときでした。
「ちょっとシシリー! わたくしの元へ来るように言っていたはずでしょう⁉」
目の前から駆けてくるのは、この身体の少女にそっくりの人物だった。
……本当に瓜二つだわ。ただ手入れの豪華さは段違いの様子だけど……ひとまず彼女には感謝しなくてはならない。
「あら、わたくしは『シシリー』というのね?」
「……大丈夫? 頭でも打ったの?」
「そんなとこかしら?」
実際に階段から落ちたようだから、何も間違ってはいなくてよ。
学園内を歩いてみたところ、おそらくこの制服は学年ごとにデザインを変えている様子。なら、まったく同じ制服を着た見た目のそっくりな少女は……『シシリー』の双子の姉ということになるのかしらね。
なら、姉妹に甘えるのは自然な流れではなくて?
「ねぇ、お姉さまのお部屋に連れていってくださいませ?」
「お、お姉さま⁉」
実際は双子の間にどちらが上というのはないものですけど、今はこちらがお願いする手前、相手をおだてて損はありませんし……そしてわたくし、かわいい弟はおりますけれど、年上の兄姉はおりませんので。せっかくの機会ですし、年上に甘えてみるのも一興でしょう?
「シシリー、こんな見た目で恥ずかしくってよ。シシリーもお姉さまみたいに可愛くなりたいのですわ!」
「あ、あんたがそんなこと言ってくるなんて初めてじゃない……」
「し、仕方ないわね! 今日だけわたくしの化粧品を貸してあげるわよ!」
この『お姉さま』、ちょろいですわね。
なんか二人の間に本当はタダならない関係があるのかと思ったけれど、ちょっとおねだりするだけでここまでデレてくれるなら……コントロールするのは簡単でしてよ。
そして『お姉さま』に連れられて行った先は、彼女の寮部屋。
あらあら、なかなか良質な化粧品を揃えているようでしてよ。それなら双子の妹(仮)にも使わせてあげればいいのに。いくら自分が着飾っても、妹がこんなでは自分の株も落としているということに気が付かないものなのかしら?
わたくしは『令嬢の嗜み』で培った技術を使って、テキパキと『シシリー』の見た目を整えていく。肌をひたひたの化粧水で浸したコットンで整えている間に、長すぎる前髪を切って、枝毛の処理をして、爪を磨いて。
「ねぇ、シシリー……とっくに授業開始の鐘が鳴っているけど?」
「あら、ごめんあそばせ。でもお姉さまの妹であるわたくしがこんな見た目で授業に参加して、お姉さまの悪評に結びついたらと思うと、わたくし……」
「あんた、そんなことまでわたくしのために考えていてくれたの……?」
わたくしのウソ泣きに、『お姉さま』がいたく感動してくださっている。
これで、今後『シシリー』もおしゃれする環境が整ったかしら?
そんなこんなで一時間強。
わたくしは午後二つ目の授業から参加することにしました。
なんの授業なのかしら?
どうせなら魔法の授業がいいわね。自分で使えなくても、どうせならもっと拝見してみたいわ。
だけどどうも『お姉さま』とはクラスが異なるらしい。
「あんた、せっかくわたくしが可愛くしてあげたのだから、気合入れるのよ!」
「お任せくださいまし、お姉さま!」
ちなみに、手を動かしたのは全部わたくしです。
お姉さまはただただわたくしのそばで「器用ねぇ」と見ていただけですわ。
そんなお優しいお姉さまからの声援を受けたんだもの。ちょっと二つ目の授業も始業の鐘が鳴ってしまいましたが、わたくしは堂々と教室の扉を開きましょう。
「遅れてしまい、申し訳ございません」
そして手慣れたお辞儀を披露すれば。
教室の中の全員がわたくしに注視している――のは、さておいて。
教壇に立っている金髪の少女が、手のひらから三色の光を放っているではありませんか! なんて、なんて美しいんですの⁉
思わずわたくしは詰め寄ってしまう。
「まあ、すごい、凄いですわ! すごく綺麗です! 今まで各地の美しいとされる庭園はかなり拝見したことありますが、こんなに感動したことはありませんことよ‼」
そんなわたくしに、素晴らしい魔法の使い手である彼女は、赤い目を縁取っているまつげをパチパチさせて。わたくしの頭から足元までを一通り見てから、
「あなた、シシリー=トラバスタで間違いありませんこと?」
「どこからどう見ても『シシリー=トラバスタ』でしょう?」
たしかに見た目は整えさせていただきましたが、そんなに驚くことかしら?
この『シシリー』は手入れが杜撰だったとはいえ、素材はなかなかのものでした。今は付け焼刃ですが、これからも長期的に手入れを怠らなければ、目の前の金髪の彼女に劣らない令嬢になることも夢ではございません逸材ですのよ。
そう――だから、この目の前の令嬢は素晴らしい方ですわ。
一目しただけで高貴な教育を受けてきたことが窺える姿勢でかつ、こんな素晴らしいステキな魔法も使えるのだから!
「素晴らしい魔法使いなのですね。ぜひお名前をお聞かせ願えないかしら? ぜひ神様にお伝えした歴史に名を残していただきたくございますわ!」
彼女の両手を掴んで尋ねれば、彼女は耳を赤くしながらも渋々教えてくれました。
「アニータ=ヘルゲですわ……」
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