第73話 ばかシシリーっ!
スヴェインがジタバタと身を動かすも、私の紡いだ魔力の茨が簡単に解けるはずがない。
蜘蛛に捕まった虫のような王様に、私は恩情をかけてあげることにした。
「メイドのお仕事しながら、ここを中心として王宮内の各地に魔法陣を仕掛けさせてもらったの。ありがたく二週間も時間を貰えたんだもの。大規模な魔法陣だろうと簡単だったよ」
「各地って、メイドごときが行ける場所など、たかが――」
「そうだね。王宮メイドということだから、王城敷地内の左半分が関の山だったけど……私が昔、趣味で提唱していた鏡面術式のことはご存知かな?」
まぁ、知らないでしょう。
私の偽名に気付かず、図書館に蔵書を残していたくらいなのだから……とか、思っていたのに。
「まさか、ノリス名義の『ママに怒られない☆ゼロ点テストを隠しきる方法』のことか⁉」
「いや、知っていたならきちんと処分しようよ」
なんとも未練がましいこと。しかもタイトルまでばっちり覚えちゃって。
私は呆れながらも、時間もあまりないので手早くネタバレを続けることにする。
「研修メイドの私が立ち入れない王城の中心部に、わりかし出入り自由な現在の天才がおりまして。彼の協力のもと、私の作った術式がここからパカッと反対側に展開されるように設計させていただきました」
「そんな……僕は、そこまで魔術を発展させるつもりなんて――」
「なかった? でも……私たちの想像なんて、今の若い子たちは簡単に超えていくものだよ」
しょせん、私たちは大昔の人間だ。いつまでも出しゃばったらいけない。
百年足らずでとっととお暇して、次の世代に明け渡すべきなのだ。
ということで、私のお喋りもここまで。
スヴェインから採取した髪の毛を媒介に、彼を拘束することには成功した。
二週間もかけて準備した大魔術、あと成功するかどうかは私の手にかかっている。
スヴェインの足元にさらなる魔法陣を展開する。その魔法陣に共鳴して、彼を捉えている茨がより一層強く、彼の魂までも縛り付ける。
「まさかっ⁉」
それに、かつての秀才も私が何をしようとしているのか気が付いたのだろう。
「やめろ、そんな……やめてくれっ‼」
「そんな慌てないでよ。今すぐ殺そうってわけじゃないんだから」
私たちが縛ろうとしているのは、スエルという八百年前の男の魂。
もう二度と、その身体から出て行けないように――二度と解けることがないよう魂を定着させようとしているだけのこと。別に普通のことでしょ? 人間が一つの身体で生きて、死ぬことなんて。
だけど、目の前の男はそんな当たり前のことに抵抗するらしい。
「この身体はあと十年ももたないんだぞ⁉」
「もう八百年も生きているんだから十分でしょ」
私は正論を言っているはずなのに、スヴェインは攻撃的な魔力を放ってくる。きちんとあの茨には縛った相手の魔力を抑える術式も仕込んでいたはずなのに……。
「ちっ」
私が編んでいるのは魂の定着化と、もうひとつオマケがある。
その同時行使にさらに防御魔法なんて、私でもさすがに厳しい。中断してしまえば、全部一からやり直しだ。そんな時間をくれるほど甘い相手ではない。
スヴェインも気が動転してコントロールが効いてないうちに――と思うものの、眼前に火球が迫っている。くそっ。だけどシシリーの顔に大やけどを負わすくらいなら――と、編んでいた魔法を中断し、防御に切り替えようとした時だった。
目の前に突如展開された青白く拙い魔術壁に、火球がバンッと弾かれた。
「何してんのよ、ばかシシリーっ‼」
「おねえちゃん⁉」
他サイトになりますが、新作を投稿しています。
弱虫令嬢に悪女が憑依するという点では、本作と似ているかと思いますので、
ご興味あります方はぜひ読んでみてください。
『天才悪役女優が、弱虫すぎる伯爵夫人に転生したら~悪魔伯爵と作る劇場飛空艇で、今度こそ華麗なハッピーエンドを見せてやるわ!~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330661041260857
なろうのほうには当分掲載する予定はありません。






