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【コミックス1巻発売中!】ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる。  作者: ゆいレギナ
8章 決死のインターン

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第72話 ばーか。

  

 王座の扉は重厚な見た目のわりに軽く開いた。

 それが現スヴェイン陛下の気遣いによる魔術というのは、まるで嬉しくないけれど。


「あぁ、本当に来てくれたんだな。僕のノーラ」


 あなたのじゃないっての。

 そう言ってやりたいのを、グッと堪える。


 時間になれば、向こうから合図があるのだ。それがどんな合図なのかは「任せて」とのことだが、それまでは何とか時間を稼がなくてはならない。


「私は誰かさんと違って、ウソを吐かない女だからね」

「あの時は……本当にすまなかった……」


 スヴェインという男が、本当にしゅんと項垂れる。

 そんな彼に、長年私が募らせていた疑問をぶつけてみる。


「どうして、私に冤罪を押し付けたの?」

「お前の才能に嫉妬したんだ」


 なんてシンプルな答えなのかな。

 あまりのくだらなさに苦笑を漏らせば、彼は「お前は本当に変わらないな」と視線を落とした。


「稀代の天才ノーラ=ノーズ。僕は王太子という肩書はあれど、魔導においてノーラに到底及ぶものでない。いつしか、お前が王座を乗っ取るんじゃないかなんて話もあがって――」

「そんなわけ――」

「僕は、お前が怖くなった」


 そして、彼は手のひらから懐かしい光景を映し出す。

 その技術は、紛れもなく『魔法』による奇跡。


 私たちが出会った時のこと。

 パーティーでケーキを奪われたこと。

 協会の小汚い一室で、二人で研究に明け暮れていた日々のこと。


 全部、とても懐かしい……もう遠くに過ぎ去ってしまった思い出だ。

 あなたも……ちゃんと覚えていたんだね。


「才能のあるお前が、常に僕の前を行くお前が、怖くなった。ただ可愛いだけの女へと逃げて……そうしたら、お前からの報復が怖くなった。だから封印した。お前が永遠にいない世界をつくろうと思ったが……殺したとしても、もしまたお前が生まれ変わりでもしたら? 僕がせっかく築いた栄光を、一瞬であざ笑われてしまったなら?」


 そんなこと、しないのに。

 八百年前ですら、あなたのことを馬鹿にしたことなんて、一度もなかったのに。


 ただ、私が天才だったたけ。誰も私の隣に立ってくれなかっただけ。

 どうやらそんな驕りが……あなたを傷つけていたらしい。


「そう思ったら怖くなって、俺は封印することにした」


 だけど、そこから見える光景は知らないものだった。

 スエル王が稀代の悪女を封印し、瘴気でボロボロだった国を少しずつ再生していく姿。

 魔術という新しい魔導体系を確立させ、民草から称えられる英雄となった姿。

 顔や姿が変わっても、ひたすら王座に座り続け、常に国民のために働き続ける姿。


 八百年間も、人の上に立ち続けるのはどんな気持ちだったのだろうね。

 それこそ誰も自分の隣に立つことを許さず、ひたすら誰かのために働き続ける日々。


 それはとても凛々しくもあり……とても苦しそうだった。


「だけど、すぐにその過ちに気が付いたよ。最初は民草全員が僕を崇めて、とても気分がよかった。お前が色々と開発途中だった魔法を魔術という名に変え、発表するたびに皆が俺を叡智だと崇める――だけど、すべてを発表しても、僕はお前に勝てたという実感がもてなかった。お前が遺していたものを、どれも超えることができなかったから」


 そうして、国政にも力を入れて、国が本当に平和になった時。

 彼が数百年生きて、ようやく一息つけるようになった時。


「僕は、後悔に見舞われた。僕は常に誰の背中を追っていたと思う?」


 その問いに、私は答えない。

 答えずとも、その答えは明白だったからだ。


「それからは、ひたすらにお前……ノーラを求めるだけの日々になった。そして、八百年たった今、ようやくお前に巡り合うことができた」


 スヴェインという男が王座から立ち上がる。

 そして赤い絨毯をゆっくり下りてきて、そっと私の肩を抱いた。


「八百年かけて、ようやく僕は真に求めていたものに気がつけたんだ。あの時は本当にすまないことをした。どうかこれから、僕とやり直してくれないか?」


 それに、私は何も答えない。

 ただ少しだけ口角を上げれば、その精悍な顔が近づいてくる。


「愛している、ノーラ」


 懐かしい顔。だけど知らない顔。

 唇と唇が触れる、その寸前。


「ばーか」


 ドーンッ、と。

 太鼓のような音が胸にまで響き渡る。

 大きな窓を横目で見れば、空に不格好な花火が上がっていた。


 まるで花とは言い難い、ただの光の残骸のような無様な花火。

 その現実に、私は望む未来をわが手で掴もうとしていた友を思い、悲しくなるけれど。


 合図は無駄にしないよ。私が足を踏み鳴らせば、王城内の各地から魔力の茨が集結し始める。もちろん、絡める相手は国王陛下、スヴェイン=フォン=ノーウェン。


「これはどういうことだ、ノーラ=ノーズっ⁉」


 手足を茨に拘束され、強制的に浮かされた、かつて私を裏切った婚約者。

 私は集まる魔力を再形成しながら、八百年生きる王様に真顔で言ってのけた。


「昔の女が、いつまでも自分を好きだと思うなよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >昔の女がいつまでも ホントこれですよね···面と向かって言ってくれてスッキリしました! 過ちに気付いたとかのたまってますが、一番大事な所に気付いてねーじゃんお前って…
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