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【コミックス1巻発売中!】ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる。  作者: ゆいレギナ
7章 秋の想いと落とし物

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第54話 少女、たじろぐ。

 ◆


(てかてかねぇねぇ! 本当にわたしが一人で部活に行くわけ⁉)

(たかだか部活に行くくらいで怖がらないでよ。十八歳でしょ?)

(そ、そんなこと言われても……)


 こんにちは、シシリー=トラバスタです。

 珍しく、中身も外身もシシリー=トラバスタです。


 明くる日、ずっとわたしに憑依していたノーラは本当に有言実行してきました。

 文化祭に向けて数が増えた週三回の魔導解析クラブに、わたしが行けというのです。


 なので、アニータさんとの勉強会を少し早めに切り上げてもらい、わたしたちは部室までの廊下をスタスタと歩いているのですが……このように、心の中では大乱闘状態です。


(てかノーラお昼寝するって本当なの? 最近夜更かし多いせいでしょ、絶対にそのせいでしょ⁉)

(私にだって一人でやりたいことっていうのがあるんだってば~)

(付き合うから、わたしもそれに付き合うから。ね? 今からそれやろう! そして夜はたっぷり一緒に寝よう! じゃあ、そういうことでマークさんに断りだけ入れてレッツゴーということで――)

(シシリー?)


 ノーラの感情の無い笑顔は、威圧的でとても怖い。

 思わず現実でも足を止めてしまったわたしに、ノーラはため息を吐いてから諭すように話し始める。


(魔導解析クラブに入ることは、シシリーも賛成していたよね?)

(はい……)

(花火作りについての話も、前のめりに聞いていたと思うんだ)

(はい……)

(がんばれ?)

(そこ、急に投げやりにならないで~~)


 だけどわたしの訴え虚しく、ノーラは大あくび。


(それじゃあ、おやすみね~)


 そうしてスヤスヤと本当に眠りだしてしまった時には、もう部室に着いてしまっていて。


「まじかぁ……」


 わたしは肉声で後ろ向きな感情を吐き出す。

 正直、ノーラの言うとおり魔導解析クラブは好きだし、花火作りも楽しそうだと思ったけれど。


 それでも。

 それでも‼


 普段ノーラがわたしの身体で自由気ままに振舞っているのを、そのまま引き継がなければならないのだ。……きつくない?


 そんなことを嘆こうものなら、ハナから他人に頼るんじゃないと一蹴されてしまいそうだから、とてもじゃないけど言えない。


 わたしは扉の前で大きく息を吐いてから、顔を上げる。

 そして意を決して、扉を引き開けた。


「こ、こんにちは~……」

「こんにちは。扉の前でずいぶん悩んでいたようだけど、どうかした?」

「いや、うん……変色光の式を定着させる素材は何がいいのかな、と考えていて」


 私が適当に屁理屈をこねてみれば、マークさんは今読んでいた本と異なる書類を引っ張り出す。


「それなら、いくつか良さそうなものを見繕ってみたけど、確認してくれる?」

「う、うん!」


 花火作りは、作業ごとにグループで分かれて行うことになっている。

 当然、学年によって魔術の習得度が異なるので、三学年であるわたしはマークさんと組んで、一番難しいであろう『花火玉』の内部構造を決めることになったのだ。馴染みある言い方をすれば、変色反応の道具化するシステムを構築するのである。


 その作業の課題は三つ。

 一つめは、狙った色の光を決めた位置に飛ばすこと。

 二つめは、その色や形を瞬時に変換する必要があるということ。

 三つめは、その迫力を出すための規模感。


 規模感……つまりサイズについては基礎ができてからということで。まず最初に、そもそも魔力を込める素材を何にするかというところからなわけで。


 すでに、マークさんはその候補をリストアップしてきてくれていたらしい。

 その数、ざっと十種類。


 うーん……正直なところ、ノーラに相談したい。

 もちろん部活動の一貫である以上、予算というものもあるわけで。その上で耐久度や、魔力保有量、柔軟性など、様々な要素の中からバランスが良いものを決めなければならないのだ。


 わたしはそのリストを睨みつけながら、うむむと考える。

 この中の半分くらいの素材は授業中に使ったことがあるけれど、値段まではわからないのが本音。


 でも、そんなわたしでもわかるのが。


「一番おすすめなのはこれ」


 とマークさんが指した素材が、とても希少性の高い、高価なものだということくらいだ。


「……正直、それは一番ないと思うな。予算に収まらないもん」

「そうなのか?」


 そうなのかって……マークさん、隣のクラスなこともあってあまり素性は知らない人だけど、かなり裕福なご子息なのかな。前髪はとても長いけど、身なりはいつもしっかりされているからね。


「それなら、専門家に相談しに行くか」

「専門家?」


 急に立ち上がった彼を見やれば、初めて彼のアンバー色の瞳が少し見えた。


「君が言う、僕の友達のところだ」




「珍しいね、おまえが俺を頼ってくるなんて!」

「僕ひとりの課題じゃないんだ。省ける手間は省きたい」

「さいですか……それで、これが見せてもらいたいリストね」


 書類を片手に、本当ならわたしが名前を呼ぶなんておこがましいエリート、アイヴィン=ダールさんが研究室内をあちこちと歩き始める。この雑多になった秘密の研究室は、前にもノーラとして来たことがあった。だけど……ここは外部から入れないように、特殊な構造をしているんじゃなかったっけ?


 それなのに、マークさんは扉もなかった壁に手を当てて、短く詠唱しただけで中に入ってしまったのだけど……そこはやっぱり友達だから、アイヴィンさんが入り方を教えていたのかな?


「僕の顔に何かついてる?」

「あ、ごめんなさい……」


 思わずじーっと見つめてしまっていたようで、マークさんは気を悪くした様子だ。

 慌てて謝って一歩下がれば、マークさんはなぜか後頭部を掻き始めた。


「こちらこそすまない。嫌だったわけじゃないんだ。ただ……トラバスタ嬢、具合でも悪い? いつもより図々しさが足りないような気がするんだけど」


 それは、中の人が違うからっ‼

 こちらにちょうど背中を向けていたアイヴィンの白衣の背中が細かく震えている。きっとノーラが起きていたら、同じく心の中で大笑いしていたのだろうけど……とても静かだ。本当にわたしの中でノーラは眠っているらしい。


 それを叩き起こす度胸がわたしにはないので、マークさんには悪いけど、結局は誤魔化すしかないのだ。


「そ、そんなことない、かな。ただ今日もマークさ……くんの魔力が綺麗だったから、思わず見惚れちゃっていただけだよ」


 なにこれ、めっちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!

 とりあえずノーラがいつも言いそうなことを口真似してみたけど……なんでこんなこと、ノーラは平然と言えるのかな? これが自信と実績の差ってやつなのかな? それとも年の功? なんやかんや八百歳以上になるらしいから……て、そんなこと言ったら怒られる⁉


 わたしはひとりで内心パニックしているも、マークさんは普段通りに「あぁ、いつものトラバスタ嬢だったね」と急に距離をとってくるから、余計になんか申し訳なくて。


「はーい、お待たせ。書いてあった素材を集めてみたよ」


 そんな時、天の助け賢者の助けと、アイヴィン=ダールさんは軽薄そうな感じでトレイを持ってきてくれる。縋るように見上げたら、彼は慣れた様子で片目を閉じていた。


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― 新着の感想 ―
平和だ……
[気になる点] おっノーラとうとう老衰かな?(下衆
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