第32話 悪女、ついでに決意する。
どうやら、とっくに閉会式は終わっていたらしい。
我がクラスも優勝……とまではいかなかったらしいが、準優勝。女子テニスを含めて、活躍した生徒も多かったようで、クラスの活気はとても高いとアニータ談。
だけど、しっかり成績を納めた彼女の口はひん曲がっていた。
「そんな気はしてましたのよ。だってあなた、競技競技ばかり言ってて、全然ドレスの相談とかしてこないんですもの。まさかパーティーの有無すら知らないとは思いませんでしたけど!」
あの後、私はアニータに強制連行された。場所はアニータの私室。なんと彼女は私がドレスを持っていないことも想定して、二着用意していたらしい。
なので、私は化粧台の前に有無を言わさず座らされている。
(シシリーはパーティーのこと、知ってたの?)
(そりゃあ、まあ……。でも、いつもネリアの準備を手伝った後は、制服で会場の隅っこにいただけだったから。わたしの方こそ伝えてなくてごめんね)
(それじゃあ、今晩は全力で楽しまないとね!)
なんとこの学校、大きな行事の後には必ずと言っていいほど、パーティーが開催されるらしい。さすがお貴族が主体の学校である。
私の化粧をしてくれているのは、アニータの侍女さんだ。アニータ本人は自分で全ての用意ができるということで、今もテキパキと準備を進めている。なんてハイスぺックお嬢様。
「ほら、シシリー様。まばたきを控えてくださいまし」
「あ……すみません」
対する私は、されるがままだというのに怒られる始末。
昔から、人にやってもらうというのが苦手なんだけど……だけど、これもアニータの善意だ。ムズムズするのをグッと我慢。
思わず鼻の上にしわを寄せていると、アニータが言った。
「あなたが話さないことをわざわざ聞くつもりはありませんが、これだけは言わせてくださる?」
「何かな」
「わたくしは友人に手を貸すことを億劫だと言うほど、狭量な人間じゃございませんから――泣くほどツラいことが起きる前に、今度は相談してくれても構わなくってよ」
「アニータ……」
私の腫れぼったい瞼に、彼女は気が付いていたのだろう。侍女さんが目の周りの化粧に悪戦苦闘しているのも、そのせいか……そうだよね。本当に申し訳ない。
思わず苦笑して、また侍女さんに顔を固定された私は鏡の向こうのアニータに目線だけ向ける。
「じゃあさ、泣くほど困っているわけじゃないんだけど、聞きたいことがあって」
「パーティーマナーでも何でも遠慮なく質問して構わなくてよ」
「今からのパーティー、国王陛下は……いる?」
私の質問に、アニータはいつもより長いまつげをパチパチとさせた。
「閉会式後にお帰りになったはずですが……あなたまさか、王妃になろうなんてこと考えてませんよね⁉」
「あはは~。そんなの、死んでも嫌」
鏡に映る私の目は、とても笑えていないけど。
とくにもかくにも、パーティーである! パーティーといえば、男女の出会い!
これはシシリーのお相手を探すしかない‼
(パーティーへの偏見がひどい)
(でも、学校中の男子を一望できるいい機会だよ!)
私はシシリーに身体を借りている身だ。自分の過去より、シシリーの未来の方が八百倍は大事である。そのためには、婚約者。あんなダメ坊ちゃんよりも、いい男。
「事情はお察ししますけど、そんな血走った目の女性に近づいてくる殿方はいないと思いますわよ」
「たしかに……」
パーティー会場はとても華やかだった。私たちを含めて着飾った女生徒たちがカラフルな華に、シャンデリアの明かりなんて眩んでしまうほど。その中で一人、真っ赤なロングドレスが目を引く女性がひとり。ハナちゃんである。いつも通りの眼鏡に、レースで肌の露出が少ないながら、その存在感は抜群。男女問わず、やっぱり話しかけられている様子だ。
そんな羨ましいハナちゃんを視界に納めながら、アニータに聞く。
「アニータはハナちゃんとお喋りしなくていいの?」
「ペアで優勝した手前、あとでご挨拶はしますが……わたくし、変わり者な友人の監視で忙しいんですの。手当たり次第に求婚し始めそうで」
「……しないってば、そんなの。そもそもイイ男が――」
「そこの可愛いお嬢さんたち、俺らと一緒に楽しい時間をどうですか?」
そう話しかけてくるのは、いつもより着飾ってより色気がだだ洩れのアイヴィン=ダール。周りの女生徒たちの視線が痛いのは今更だ。
「チャラ男は論外だしね」
「ちゃーんと俺、きみたちの話聞こえてたからね。俺にだったらいくらでも求婚してくれていいよ? 卒業後に三食昼寝付きのぐーたら生活を保障してあげようじゃないの」
だけど、今日はいいアクセサリーを連れてきてくれたらしい。
隣のクラスで、魔導解析クラブで一緒のマークくんである。あの魔力がとても綺麗な男の子だ。話したくても、いっつもアイヴィンが出しゃばってくるからあまり話せないし、クラブの時は本当に解析の話しかしていないから……なかなかお近づきになれないのだ。
「アイヴィンはともかく……マークくんはどうかな? 婚約者、いる?」
「婚約者はいないけど、友人の彼女を略奪するような趣味じゃない」
「ちょっ……誰もアイヴィンなんかと付き合って――」
なんていう勘違いを……⁉
ちょっとそれは正すべしと前のめりになるも、私は手を引かれてしまう。
「まあまあまあ、とりあえず一曲どうよ?」
「……残念ながら、最近の踊りなんて全然知らないよ」
八百年前のダンスでいいなら、多少は踊れるけれど……八百年も経てば、色々と変わっているものだろう。それに、シシリー自身にダンスの教養が十分にあるとも考えにくい。
だけど全ての事情を知る彼は、そんな言葉で引いてくれないらしい。
「全然構わないさ! ただグルグル回るだけでも!」
無理やり手を引かれ、本当にグルグル回るアイヴィンの顔は無駄にキラキラとしていた。
さっきもね、軽薄に『未来のぐーたらを保証する』なんて言ってくれちゃってたけど……その未来が本当に来るのか、一番怖いのがあなたなんじゃないの? 王様に身体を乗っ取られてしまうとか、怖くない十八歳がいるのかな?
「あ、きみの婚約者、まだ保健室で寝ているらしいよ。どうする? 一応連名で見舞いのアイスだけ置いてきたけど」
「それ、もう溶けてるんじゃないの?」
「いいじゃん。おまえとの関係も終わったよ感も出て」
それでも、彼は今も人好きする笑みを浮かべているから。
あなたは前に「強い女性が好き」だと言ったね。
正直、私も「強い男性」は嫌いじゃないよ。
だからとりあえず、私も今を笑う。
だって何百年経とうと、残りの命がどれだけだろうと。
今は、今しかないのだから。
私はひっそりと決めていた。
あの男だけは、絶対に泣かす。私が泣いた以上に、めちゃくちゃ泣かす。
ついでにアイヴィンのことも助けてあげるよ。
あくまでついで。シシリーのついでの、私のついでの、さらについでの話だけどね。
さぁて……これからどうやって、王様に喧嘩を売ろうかな?
これにて体育祭編終了です!
次は楽しい夏休みですね。お姉ちゃんと実家に帰ります。
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