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第3話 悪女、色男にチヤホヤさせる。


「先生いないねー」


 保健室に着くや早々、色男くんまったく残念じゃなさそうにそう言った。

 そんな彼に、私は訊く。


「ところであなた、お名前は?」

「えっ、俺の名前知らないの?」


 自意識過剰が清々しい。でも、そーいう人は嫌いじゃないよ。

 私は小さく笑ってから「うん、知らない」と答える。

 すると彼も苦笑して。私をベッドに座らせてから、無駄に片膝をつく。


「これはこれは失礼を――俺の名前はアイヴィン=ダール。ちなみにきみと同じクラス。以後お見知りおきを」


 私の手を取り口づけしてくる。思わず鼻で笑っちゃうわ。


「これはご丁寧にどうも。あなたはこの国の王子様か何かなのかしら?」

「ははっ、それは光栄な勘違いだな。それじゃあ姫君に魔法の祝福をプレゼントしよう」


 そして、アイヴィンという美少年はさらに私の頬に手を当てて……そのまま私の首を唇で濡らした。ほのかなあたたかさに私は驚く。それはもちろん彼の女ったらしぶりにではないよ。その熱が引いていくのと同時に、首の痛みが引いたからだ。


 ……まぁ、まるで猫みたいだと可愛く思ったのも事実だけど。


 私が痛みが完全に引いた首を向ければ、居を正した彼が口元に指を当てていた。


「これは当然、俺ときみ二人だけの秘密ね。生徒間の治療行為は禁じられてるじゃん?」

「なるほど。たしかに治療魔法は昔から扱いが難しいからね。でもありがとう。本当にその年でスゴイ腕前ね?」


 その年といっても、私が封印された時も二十歳そこそこだったから、彼と大して変わらないと思うんだけど。彼も私と同じ緑のリボンが腕に巻いてある。同じクラスって言ってたしね。


 それなのに、彼はクラスメイトからの賛辞に険しい顔を向けてきた。


「ねぇ、本当にきみは誰なの?」

「あら、おかしな質問。シシリー=トラバスタ以外の誰に見えるの?」

「たとえ何者かが擬態魔術を使っていたとしても、もう少し隠そうとすると思うんだよね。ここまで堂々とした侵入者は初めて見たよ」


 ふふっ、完全に怪しまれちゃった。

 このくたびれた風貌からして、シシリーはろくでもない環境にいた様子。死にたいと願ってしまうほど、疲れちゃってるわけだしね。一応、どこかの令嬢になるのかな。それを目の前のアイヴィンに聞くことはできなさそうだけど……。


 とりあえず彼女が目覚めるまでは、私なりの『シシリー=トラバスタ』でしらを切らなければ。


「あなたが言ったのよ? 頭でも打ったのかって」

「本当にそれでここまで人格が変わるなら、きちんと病院に行った方がいいと思うよ」

「ご心配をどうもありがとう。でも、私はすこぶる元気だよ?」


 さっきの治療のおかげで、身体の細かい傷まで治ったみたい。元からの見た目のくたびれた感は、あとで自分でどうにかしないとだけど……ま、素材は悪くないようだし。何とかなるでしょう。


 そう楽観視していると、アイヴィンが肩を竦めてくる。


「……ま、俺も前までのウジウジしているきみより魅力的に見えるのは事実さ」


 その時、大きな鐘の音が聴こえる。これは時代が変わっても共通なのね。予鈴ってやつ。案の定アイヴィンはそれを合図に踵を返す。


「それじゃあ、今日はゆっくり休んだら寮に戻りな。先生には俺が上手いこと言っておくから。俺が治したとはいえ、後遺症がでない保証はないから――」

「私も授業に出るよ?」

「……でも、次は魔術実技の時間だよ? どうせ出席したところで、魔力のないきみは――」

「だったら尚更出なくっちゃ。これ以上授業に遅れたら大変だからね」


 なるほど。なんか身体がしっくりこないと思っていたら……シシリーには魔力がないのか。厳密にいえば、魔力が極端に少ない、になるね。生きている人間誰しも魔力をもっているものだもの。だから尚更、シシリーは彼のいう『ウジウジした少女』になっていたのだろう。


 もちろん、元の身体の私は『大賢者』なんて言われた通り、生まれてこのかた魔力は桁外れに多いとチヤホヤされていた方なんだけど……まぁ、これもなんとかなるでしょう。


 今の時代の魔法……いや、魔術なんだっけ? それを見極めるにもちょうどいい機会だし。それに、心の中で休んでいるシシリーと約束したからね。授業もテストも何もかも、完璧な成績を残しておいてあげないと。


 八百年前の女がどこまで通用するかわからないけど、不思議ね。

 今なら何でもできそうな気がするの。


「さ、王子様。教室までエスコートしてくださらない?」

「……御意(イエス)俺の女王様(マイ・クイーン)


 私が手を差し出し微笑むと、アイヴィンは再び苦笑して私の手をとってくれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 短編を読んでから、こちらに来ました。 連載版も楽しみです。 本当に書籍化して欲しいと思ってます。
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