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第12話 悪女、夜這いされる。


 そのあとはちょっと大変だった。

 もうキリングドールどころの話ではない。少々魔法の加減を間違ったようで、校舎の一部が壊れてしまったのだ。教師たちが集まり、状況説明を求められる中で――結局助けてくれたのはアイヴィン=ダールだった。


「すみません。実験中のドールが暴走し、俺が(・・)鎮圧しました」


 謝罪したのち、彼は責任を取ると修繕作業を一人で行うことになったらしい。本当は手伝わなきゃいけないような気がしないでもないんだけどね。調子に乗ったのは私だ。だけどそれを申し出たところ、アイヴィンから睨まれた。


「『魔力なし』の『枯草令嬢』が、歴史的建物の修繕という高等魔術()使いこなせると?」


 ……えぇ、愛想笑いで発言を撤回しましたとも。

 だけどせめて、バラバラになったドールの欠片だけでも集めないと。私はアイヴィンに犯人扱いされたことを根に持っているのだ。ドールの残留魔力を調べたら、犯人の痕跡がわかるかもしれない。


 しかし視線を向ければ、その欠片を袋に詰めている黒いフードを被った男。背丈は高いようだが、一瞬見えた青白い肌の様子からして、それなりの老年だろうか。そんな男が私の視線に気付くやいなや、忽然と消える。どこかへ転移したのだ。

 

「あっ!」


 私が声を上げた時には時すでに遅し。

 盗人の姿は、ドールの欠片と共に消えていて。その姿を、アイヴィンもきちんと見ていたようだ。私はその居た場所を指さしながら、半眼を向ける。


「私じゃないよね?」

「……すまない」

「私、冤罪って大っ嫌いなんだけど?」

「あとで何でも言うこと聞くから……許して?」


 とりあえず、私の無実だけは無事証明できたようである。

 これにてハッピーエンド……かな?




(まったく、とんだ災難だったね!)


 その夜、私は寮のベッドに倒れると同時に、心の中のシシリーに話しかける。

 せっかくのアニータとの勉強会も中途半端になってしまった。これも全部アイヴィンのせいだ。この借りをどう返してもらおうか……そんなことを考えていると、シシリーから言葉が返ってくる。


(ネリアのこと、助けてくれてありがとうございました)

(敬語は要らないよ。やり直し)

(あの……ありがとう?)


 そんな意地悪を言いながらも、私は肩を竦める。


(そもそも、あなたにお礼を言われる筋合いもないんだけどね)

(えっ?)

(だってお姉ちゃんを助けようとしたのは、あなたじゃない)

(…………)

(私はほんのちょっとだけ、手を貸しただけだよ)


 ――この子は、きっと大丈夫。

 今日のことで強い確信を得た。なんせ一瞬とはいえ、彼女の意識が私の意識を上回ったのだ。意識の強さは、そのまま魔力に繋がる。


 だから、私は愚かで可愛い愛し子に告げる。


「稀代の悪女が保証するわ――あなたはきっといい魔術師になるよ」

 

 その時だった。窓がガタガタと揺れる。風じゃ……ないね。少し警戒しながら起き上がり、そっとカーテンを開けると、窓の外で顔だけはいい美青年が片手を上げている。


 私はガラッと窓を開けた。ここは四階。浮遊魔術で浮かんでいるアイヴィンを私は鼻で笑う。


「私を夜這いしようとはいい度胸だね?」

「もうちょっとときめいてほしいんだけどな~」

「怖がるの間違いじゃなくて?」

「違いない……今日のことを説明するのが、道理なのかと思ってね」


 入ってもいいかい、と訊いてくるアイヴィンに肩を竦めつつ。

 私が場所を開ければ、彼は遠慮なく部屋に入って勉強机に腰を掛ける。そんな彼に私から質問した。


「校舎の修繕は終わったの?」

「あぁ、今しがたね。いい加減疲れたよ。今日はここで寝てもいいかな?」

「今すぐ泣き叫んで寮母を呼んできていいならいいよ?」


 間を入れず条件付きで許可すれば、彼はまったく傷ついた様子なく苦笑して。そして本題へと入るようだ。


「あの盗まれたドールは近年発掘された古い部品で復元したものだったんだよ」

「古いって何年くらい前?」

「それこそ八百年……『稀代の魔女』が世界を滅ぼそうとしたと謂われた時代の頃かな?」


 意味深な笑みが、見透かされているようで怖い。

 だけど証拠は何もないはずなので、私は知らぬ存ぜぬ会話を続ける。


「そもそも、そんな物騒な研究を学校でしないでほしいものだね。どうして許可が下りたのかも理解できないよ」

「当然、普段は安全管理に最大限の注意を払っているよ。それに俺は好きで学校なんかに通っているわけじゃない。施設長の命令で、仕方なく学生をやらされているだけで――本当なら、研究に専念したいんだ。だから、学校でも続けさせてもらうというのがせめてもの妥協点だったわけ」


 あら、意外にも意外。根っからの研究者体質だったんだね。てっきり女を引っかえとっかえして青春を満喫しているタイプなのかと思ってたよ。現に、彼はいつもの浮ついた様子と打って変わって真面目な顔を見せてくる。


「だけど、あれはまだ起動するには早い代物でね。起動どころかキリング化するなんて……何か強い魔力の影響を受けたとしか思えなくて……」


 真剣に悩みだした彼から、私は視線を逸らす。


 ……もしかして、私が原因?

 八百年前、たしかに(ノーラ=ノーズ)は医療研究の一環でドール開発にも携わっていた。当時は使用者の魔力を動力にしようとしていた時期もあり、私も起動実験として協力したこともあるわけで……。


 だから微量とはいえ、(ノーラ)の魔力が暴走に繋がってしまったとしたら? それ以上は考えてはいけないことである。話を変えよう。


「で、結局犯人は? 転移場所の特定はできなかったの?」

「できなかった。痕跡も残さず転移するなんて、それこそ俺クラスの魔術師じゃないと無理な話だ。きみは信じてくれないかもしれないけど、俺はかなりの天才でね。それこそ二百年ぶりの賢者が誕生するんじゃないかと期待されているんだよ」

「へぇ、それはスゴーイ」


 まぁ、私は『大』賢者でしたけども。

 内心そんな虚栄を張っていると、彼が腰を上げる。そして、そのまま近づいてきては……私の顎を指先で上げた。


「ねぇ……きみは本当に誰なの?」

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