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第94話 潜伏

 アーロンが密かに王都にやってくる。秘密裏に手紙で連絡を取りあっていたジョゼフと、人目につかない王都の一角で落ち合う。


 ジョゼフは改めてサキを女王として擁立することに協力を約束する。しかし、前途多難な状況にため息を吐いた。


「しかし分が悪いですな。不遜な言い方ですが、我々の女王陛下は母親の身分も低い庶子で、そして……女だ。当然領地を統治した経験もない。しかも王族の子供を誘拐し、多くの殺人について嫌疑がかかっている」


 サキはティアナ殺害の下手人とされ、ヴィドーの殺害、近衛騎士たちの殺人に関わっていたという噂もあった。


「そんな方を女王として擁立したところで、果たして諸侯の支持は得られるものやら……。ウェンリィやレナードに不満を持つ諸侯は少なくないとはいえ、これは厳しい戦いになりそうですな」


「わかっております」


 ジョゼフが続ける。


「先日、私はサルアン王の昔のご友人、オミール殿に会いに行ったのです。あなたの主張を裏付けようとしてね。彼はあなたの主張を裏付けられる唯一の貴族です。しかし、彼は死亡していました」


「なに!?」


「崖から落ちて亡くなっていました。近くには彼の愛馬の死体もありました。馬が暴走して崖から落ちたとみられています」


「事故か。それとも殺されたのでは?」


 ジョゼフが首を横に振る。


「わかりません。ですが殺された可能性も否定できません」


 オミールのことを知っているのは誰か。アーロンの頭にはマリウスの顔が浮かぶ。ジョゼフ話題を変える。


「悪い話ばかりではありません。よい話もしましょう。ウェンリィとレナードは最近、さらに王権を強化する政策を立て続けに打ち出しています。しかしその強引なやり方に、特権を奪われた諸侯たちが不満を強めています。今なら、担ぎ出す旗印さえあれば、反乱に乗ってくる諸侯はいるかもしれません。我々の女王陛下に先ほどの色々な問題があるとはいえ、蜂起するタイミングとしては追い風が吹いています」


「うむ。その雰囲気は私も感じています」


「それで、兵は集まりましたか?」


 蜂起には当然兵力が必要だ。ジョゼフとアーロンは互いにできる限り兵をかき集めておこうと約束しあっていた。


「二十人ほどです」


 アーロンの答えにジョゼフはしばらく呆気に取られて口を開いたままぽかんとしていたが、気を取り直して確認する。


「聞き間違いでしょうか。いま二十人と聞こえましたが」


「二十人と言いました」


「それだけの兵でいったい何を。村の教会でも襲うおつもりですか。我々は玉座と取ろうとしている、つまり、王都を落とそうとしているのですよ」


「面目ない」


 アーロンは恥じ入るばかりだ。ジョゼフがため息をつく。


「少々言い過ぎました。私が声を掛けた諸侯で賛同してくれた者たちがいます。兵力は私の私兵も含め二千程度にはなるでしょう」


 アーロンが顔を上げる。


「ありがたい」


「しかし圧倒的に不利な状況には変わりありません。蜂起するには少なすぎます。女王ご自身による呼び掛けがあれば幾らか状況が変わるかもしれない。女王の消息は掴めていないのですか?」


「はい。ほうぼう手は尽くしているのですが」


「とにかく早くみつけてください。諸侯を集めて秘密の決起集会をしましょう。話を信じ切れず保留している諸侯も呼び集めます。できたら女王にも参加いただきたい。女王陛下にサルアン様の面影を見れば、信じ切れず迷っている諸侯も確信を得て同志となるかもしれません」


「わかりました。私も心当たりの諸侯をかき集めます」

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