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第87話 追手

 アーロンはセフィーゼとともに馬でタナティアに向かっていたが、先ほどから後ろについてくる複数の存在に感づいていた。このまま付いて来られてはサキの居所もばれてしまう。どこかでまくか、討ち取らねばならない。セフィーゼに耳打ちする。


「尾行されています」


 セフィーゼがはっとして後ろを振り返ろうとするのをアーロンが制する。


「後ろを見ないでください。そのまま聞いてください」


 セフィーゼがうなずく。


「おそらく敵は三人です。このまま付いてこられるとサキ様の居場所が敵に知られてしまいます。どこかでまかなければなりません」


「敵の不意を突いて討ち取るという選択肢もあるでしょう?」


 アーロンが耳を疑う。


「いや、それは危険です。あなたにも危害が及ぶ恐れがあります。相手は恐らく精鋭たちです。並みの戦士であれば三人相手でも私が遅れを取ることはありません。しかし私を尾行するために選ばれた者たちです。おそらく並みの戦士ではないでしょう。精鋭三人が相手とあっては私も荷が重い。ましてや貴女をお守りしながら戦うとなると」


「足手まといになるのは本望ではないのです。私たちがタナティアに向かっていることは気付いているでしょう。仮に彼らをまけたとして、彼らを生きて帰せばそれが敵に知れ渡ってしまいます。それでよいのですか?」


「しかし」


 アーロンは森に入り馬の速度を上げる。追手も速度を上げて追う。


 角を曲がった先で、追手たちは、馬だけが残されているのに気付いて止まった。


 突如木の影からアーロンが飛び出し一人を斬る。敵の二人は馬から降りて剣を抜く。アーロンは二人の斬撃を受け、躱すが、防戦一方だ。予想通り敵は選りすぐりの猛者だった。


(なかなかの手練れ! 二人相手ではもたん!)


 木の陰で見守っていたセフィーゼは、先ほどのアーロンの言葉を思い出す。


「この老体ですから三人を同時に相手するのは難しいのです」


「では私も戦います」


「貴女は剣を握ったことはないでしょう。貴女に剣を振らせるわけにはいきません。……ですが、討ち取るのなら貴女の協力が必要です」


「敵は貴女を戦力とみなしていません。それを利用すれば敵の不意を突けます。一人は私が不意打ちで倒します。残り二人を相手にしますから、どちらかを背後からこのクロスボウで狙ってください」


 セフィーゼは手元のクロスボウをみた。撃ち方はさっき教わったが、撃ったことはない。


――頭を狙うのは難しい。背中のような的の大きなところを狙ってください。


 セフィーゼは言われた通り追手の背中に狙いをつける。震える指に無理矢理いうことをきかせる。


 放つ。矢は足にあたった。相手は叫び声をあげてよろける。もう一人もクロスボウの射手の出現に気を取られている。


 その隙をついてアーロンが射られた敵に襲い掛かる。アーロンの攻撃を剣で受けるが、アーロンにけり倒される。倒れたところに剣を突き刺される。


(後ろよ!)


 もう一人の敵がアーロンの背後から襲いかかってきていた。セフィーゼは咄嗟に石を拾って投げつける。石はアーロンの頭をかすめ、敵の顔にあたる。敵の動きが止まる。態勢を立て直したアーロンが攻撃を仕掛け、数合切り結んだ後に倒した。


 手練れ三人を相手にするのは老体には流石にこたえる戦いだった。剣を地面についてしばらく息を整える。セフィーゼも緊張から言葉が出ないようだ。


「石が、私にあたらなくてよかった」


 セフィーゼはそれでもどう反応してよかわからない様子だったが、しばらくすると緊張が解けたようで笑い出した。つられてアーロンも笑った。


***


 その日の旅は快調に進んだ。夕方には空き小屋をみつけ、久しぶりに野宿から解放された。アーロンはずっと取っておいた酒を開けた。


「貴女の初陣記念です」


 セフィーゼは酒を受け取りあおった。


「待って! かなり強い酒ですよ」


 アーロンが慌てて止めたが、半分を飲み干していた。


「あなたも飲んで」


 酒を返され、飲まないわけにもいかず、アーロンもあおった。


 酒が回っていささか上機嫌になったアーロンは自分の身の上話をした。


「十一年も!? 十一年もウェンリィ王子が生きていると信じて牢獄で体を鍛え続けたの?」


「はい。そして偽者に騙されました。私はこれ以上ない愚かな男です」


「あなたは何故女王の擁立にこだわるの? その偽者の下でも厚遇を受けていたのでしょう。そのまま口をつぐんでいれば、よい立場を維持できたはず」


「私はサルアン様に誓ったのです。サルアン様の子女を命を賭けてお守りすると。ウェンリィ様はお守りできなかった。サキ様は必ずお守りし、王位をサルアン様の子女のもとに取り戻さなければ」


「私の周りにあなたのような騎士はいなかったわ」


 アーロンが灯りを消し、セフィーゼに背を向けて横になる。セフィーゼが背中に身を寄せてくる。私の騎士。夢見ていたより年を取っているけれど。


 その夜、二人は結ばれた。


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