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第81話 密談

 夜、王都の離れにある一室。密談に最適な場所だ。アーロンがジョゼフとマリウスのふたりを内密な話があると言ってここに呼び出した。


 ふたりがやって来ると、アーロンは尾行者がいないことを確認して部屋の扉を閉めた。部屋の灯りは一本の蠟燭だけだ。暗闇の中に三人の顔が浮かび上がっている。ジョゼフが聞く。


「こんな時刻にこんな場所で内密な話とは、一体なんです?」


「誰に話すべきが悩みました。王に近い人物は避けなければなりませんでした」


 アーロンはふたりを見て続ける。


「お二人は王から遠いお方だ。……失礼。悪い意味で言ったのではないのです」


 アーロンが咳払いをして続ける。


「今日ここで話すことはくれぐれもご内密に願いたい」


 アーロンは二人に調べたことを説明した。タロスが殺されたこと。タロスが調べていたことを探るため、厩舎長と話したこと。ウェンリィが偽者だということ。ふたりは信じられない様子で聞いていた。ふたりが十分に話に内容をアーロンは話を続ける。ロデリックと会って話したこと。オミールと話したこと。そしてサルアンに愛人と娘がいたということ。


「私はその娘を知っているのです。あの夜に王宮に出仕してきた母子。他ならない私が逃がした娘です」


「その娘は成人して、ティアナ様の護衛として王宮に戻ってきたのです。サキ様こそが女王だ。おそらく」


 アーロンはふたりの反応を待った。この秘密を打ち明ける相手としてこの二人を選んだのにはそれぞれ理由があった。ふたりともシオンからは冷遇されており、新しい君主をかつぐことに積極的になってくるのではないかとう共通項だ。


 そしてジョゼフはアーロンにとって話しやすい人物であった。マリウスは直接話をしたことは少ないが、信頼できる公正な人物として有名だったし、オルセイがシオンに取り込まれた今となっては不満分子たちが頼りにするのは彼だったからだ。マリウスを味方に引き入れれば、現政権に不満を持つ諸侯を一挙に味方に引き入れることができるはずだ。


 アーロンの期待どおりジョゼフは協力的だった。


「にわかには信じがたい話です。余人の話であれば信じなかったでしょう、ですが、他ならぬアーロン殿がおっしゃるのであれば作り話とは思えない。信じます。私でよければご協力いたします」


 ジョゼフが協力を約束してくれた。


「かたじけない」


「これからどうなさるのです?次の一手は」


「何よりまずサキ様ご本人にこのことをお知らせせねば」


 アーロンが答える。


「しかし行方不明なのでしょう。修道院にいたのではないかという報告以後、消息が知れません」


 アーロンもそれが最大の懸念点だった。


「明日、サキ様を探しに出立します」


「王宮での仕事はどうされるのです?」


「老衰を理由に暇を申し出、受理されました。役目を解かれ、今は自由に動き回れる身です」


 アーロンはマリウスのほうに向きなおって聞いた。


「マリウス殿もご協力いただけないでしょうか」


 しかし、サキに隠し子を殺されたと思っているマリウスは結論に否定的だった。


「その女は王妃殺害の下手人だ」


 マリウスが席を立つ。アーロンはマリウスの想定外の反応に慌てて言った。


「どうかこの話は内密に」


「私は妄想に取りつかれた貴殿から愚にもつかぬ与太話を聞かされただけだ。このような世迷いごと、進んで誰かに話したりはしません」


 そう言い残してマリウスは退室してしまった。それを見送ったジョゼフがつぶやく。


「何か個人的にあの女性に恨みを持っているのでしょうか?」


 前途は多難だ。だがアーロンはこれが自分の進むべき道だと自分に言い聞かせる。


 翌朝、アーロンが馬にまとめた荷物を載せて出立する。出立するアーロンの背中を隠れて見送る者がいた。マリウスだ。アーロンの背中を見るその目は憎悪で濁っていた。


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