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第76話 謎

 大切な友人を失った。しかし、アーロンの中に湧き上がるのは悲しみよりも理不尽さだ。こうした時の彼の習性で考えるよりも先に体が動く。


 そのあたりにいた役人をつかまえて話を聞く。


「奴は一体なぜ殺された?」


「物取りの犯行でしょう。部屋の中が荒らされ、目につくところにあった金目のものが全てなくなっています。部屋中探しまわって金目のものを持ち出したんでしょう」


「ご夫人は下手人を見ていないのか?」


「夫人は小間使いとともに出かけていて屋敷にはタロス様お一人だったそうです。賊は夫人たちが出かけていくのを見て、留守になったと思って押し入ったのかもしれませんね。それでタロス様と鉢合わせして殺したと考えれば筋は通ります」


 しかしアーロンは納得しなかった。


(状況から言えばそうかもしれぬ。しかし、タロスを一刀のもとに絶命させている。ただの盗賊にしては手際が良すぎる)


「部屋を見せていただけないか?」


「いくらご親友とはいえ、取り調べ中でして」


「頼む」


 アーロンは役人に銀貨を握らせる。手のひらに乗った銀貨の予想以上の重さに、役人は渋々という表情を装いながらも喜びを隠しきれていない。


「仕方ないですね。少しの間だけですよ」


***


「物には触らないでください」


 部屋の中には血が飛び散り、この部屋で起こった生々しい惨劇を物語っている。役人が言ったように部屋中が荒らされており、金目の物は片っ端から持ち出されてしまったようだ。アーロンがふと気づく。机の上で一定の場所だけ血の跡が途切れている。途切れの端は、直線状に途切れている。


「机の上で遺体の血の跡が途切れている。犯人は書きかけの手紙も持ち出したのでは? もしかしたら金品を持ち出したのは物取りに見せかけるための工作で、本当の狙いは手紙だったのではないか」


「わかりません」


 話が面倒な方向へいくのを恐れ、役人は話を打ち切ってしまった。このまま彼らに任せていては物取りの犯行ということで終わってしまいそうだ。アーロンは自分で調べることにした。


 アーロンはタロスの屋敷の小間使いをつかまえて、最近のタロスの様子を聞く。


「旦那さまは何か調べごとをされていたようです。あちこちに人に会いに行って話を聞き、書き物にまとめてらっしゃいました」


「何を調べていたのだ?」


「それがわからないのです。一度お手伝いを申し出しましたが、これは機密に調査を進めなければならないことだから、自分一人でやるとおっしゃって。私には何をお調べになっているのか教えていただけませんでした」


 タロスの未亡人にも話を聞く。


「生活の見通しは立っているか?」


「財産を盗まれましたが、それほどたいした物は持っていなかったのです。今回の件で陛下から多額の見舞金を頂戴いたしました。娘も二人とも他家へ嫁いでいますから、生活に困ることはないでしょう」


「そうか」


 やはり陛下はタロスに気をかけてらっしゃる。


「陛下は政務にお忙しいが、本当はタロスをそなたに言葉をかけてやりたいと思ってらっしゃるだろう」


 自然とウェンリィを弁護するようなことを口にした。


「ところでタロスは最近何かを調べていたようだが?」


「何か……陛下に関することを調べていたようです。私にも幼少の頃に陛下と、今の陛下を比べて何か感じることはないかと聞いてきました。しかし私は幼少の頃の陛下をよく存知あげないでしょう。だから、わからないと答えたら、何か考え込む様子になって……」


 タロスは陛下に関する何かを調べていた……?。


「タロスはそのことで誰かに話を聞きに行ったりしただろうか?」


「そのことに関連するかはわかりませんが、二週間前、主人は厩舎長に会いにいきました。他にも何人か王宮の方々に会っていたようです。それから……」


「それから?」


「その数日後、短い旅に出られました。行先は隠者の住処のロデリック様のところです」


 隠者の住処は神学を研究する者たちの僧院だ。ロデリックは若い頃のサルアン様の友人で、今は隠者の住処で研究をしている学究の徒だ。アーロンは直接会ったことがなかったが、その名前は知っていた。


 タロスは厩舎長やロデリックの話を聞いて調べていたことの結論を得たということだろうか。そして殺された晩、私にその話をしようとしていたのではないか。真相に迫るには友人の足取りを追っていくしかないだろう。まずは厩舎長だ。


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