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第56話 黄昏

 夕暮れどきの王宮でサキがひとりで夕陽を眺めていると、エリクがやってくる。


「兄が先の戦で王太子側について戦ったそうだ。そして死んだ」


 サキが驚いてエリクの顔をみる。エリクは表情を変えずに続ける。


「兄が亡くなったことは素直に悲しい。嫡男の立場を羨ましく思ったこともあったけど、よい兄貴だったからね」


 サキがかけるべき言葉を決めあぐねていると、エリクはそれを察して言った。


「気を使わなくていい。ひと通り悲しんでもう気持ちの整理はついている」


 サキはうなずく。


「昨日、兄の臣下がやってきて、俺に告げたよ。俺に兄の領地と地位を相続してほしいとね。兄と臣下たちは王太子について戦った罪を咎められている。だが王宮を守るために戦った俺が継げばお咎めなしで済むそうだ。それで臣下たちはこぞって俺を祀り上げようとしている」


 サキがかけるべき言葉をみつけられずにいると、エリクはさらに続けた。


「もし兄を継いで領主になれば近衛騎士団を離れることになる。君たちともお別れだ。でも領地や地位が欲しくないかというと嘘になる。兄の臣下たちの願いも聞き届けてやりたい」


「受けるのか?」


「ああ」


「じゃあお別れだな」


「ああ。心残りはもうティアナ様をお守りできないことだ。だけどそれは信頼して任せられる者がいる。……ティアナ様を頼む」


 サキとエリクは固く握手をかわした。エリクは踵をかえし、去っていった。


***


 人々が噂する。


「シオン様とレナード様の評議会入りは確実だろう。今回の反乱鎮圧の最大の功労者だ」


「シオン様は王女様を救出されるため、勇敢にもわずかな兵で敵に立ち向かったそうよ」


「これからの時代はかのお二人が権勢をほこられるだろう。我らも今のうちに取り入っておかねば」


「ハンス様が亡くなった今、次の王位に最も近いのは誰だ?」


「王女様と結婚した者が王位を継ぐだろう」


「誰が本命か?」


「シオン様が王女様と結婚するのではないか」


「シオン様なら民も諸侯も文句あるまい」


***


 評議会ではライオネルから想定どおりの人事が発表された。


「シオンに爵位を与え、大法官に任命する」


「レナードを近衛騎士団長に任命する」


 密偵頭はモーゼフが、大蔵卿はディミトリィが据え置かれた。ふたりは王都でのツン族の鎮圧が評価されたのだ。ディミトリィは(全財産を投げうった甲斐があった)とほっと胸を撫でおろした。元帥の地位は一時的に空席とされた。レナードが会の仕切り役を務める。


「このたびの内戦では、多くの尊い命が失われた。王族の方々にも犠牲がありました」


 一同は祈りを捧げた。ライオネルは目を瞑り聞いている。


「陛下のご嫡子が亡くなられた今、喫緊の課題は後継者です。王女殿下の結婚相手を決めることが優先事項です」


 ライオネルが口を開いた。


「それについては余も考えておる。しばし待て」


***


 ライオネルの使いの者がやってきて王の間に来るように言われたのは、夜更けだった。使いに先導されて王の間の前までやってきた。


「シオン様、ここで少しお待ちを」


 小間使いが国王に俺がやってきたこと伝えに王の私室に入った。すぐに小間使いが戻る。


「お入りください」


「失礼いたします、陛下」


 はじめて入る王の間だ。椅子に腰かけたライオネルがシオンを迎えた。


「夜更けに呼び出してすまなかった」


「わが喜びです。陛下」


 シオンが恭しく答える。


「楽にしろ」


 ライオネルにすすめられてシオンも椅子に座る。


「レナードが今回の策を立案したのはお前だと言っていた。王女の都からの脱出劇、デュランへの援軍要請、戦場での戦術。お前がすべての画を描いたのだと。ずいぶん可愛がられているな。自分の手柄までもお前に譲ろうとするような言いぶりだったぞ」


 そして、ライオネルがシオンを真っ直ぐ見て言った。


「お前が誰か知っている」


 シオンは突然の言葉に動きが止まる。そして次の言葉を待った。


「我が兄の嫡男、ウェンリィであろう」


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