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借金メイドはいらないですか?  作者: 海老の尻尾
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その1 一億の借金ですか?

 私は努力してきた。これだけは自信を持って言える。部活に友達作りに勉強に――まあ勉強は今も苦手だけど――必死に頑張ってきた。辛いけどいつか幸せになると信じてきた。……それがこんな結末を辿るとはね…… 雨雪でぐんぐん体温が下がっていくのと同時に意識も段々と薄れていった……



「ああ…… 緊張するね、友美(ともみ)」

「大丈夫だよ。あんなにたくさん勉強したじゃん」

「まあそうね。一番アホだった友美が自身満々なんだし」

「ちょっとそれひどくない?」

「アハハ…… まあまあ」


 私たちは今掲示板の前に立っている。今日は高校入試の合格発表であり仲のいい友達たちと一緒に志望校までやってきた。数か月後にはここでセーラー服を纏ってこの仲間たちと濃密な三年間を過ごすのかーと呑気に考えている私をよそに、皆は不安で一杯のようだ。軽口を叩いている者もいるがそれでも不安を隠せてはいない。皆私よりも数倍賢いのに。


「あ、もうすぐ開くよ」


 入試の係の人たちが合格発表者の載られている掲示板に掛けられている青いカバーを剥がそうとしている。今時ネットで結果を見られるものであるがこの学校はこういう伝統的な校風が残っている。そして完全にカバーが落ち切ったと同時に受験生たちが一斉に体を前のめりにした。


「えーっと…… 1564は……」


 自分の受験番号をじーっと探す。1558、1560、1562……


「あ、あった!!」


 思わず普段の二倍の声が出たもののそこら中で歓喜や悲哀の声が流れていたのでかき消された。一緒に来た皆は…… うん、表情から見て大丈夫のようだ。まあ私が受かったから心配はしてなかったけどね。


「皆おめでとう~! これで春から華の高校生だね!」

「本当に皆受かって良かったよ。特に友美」

「また私~? ひどくない?」

「でも友美が一番全力で取り組んでたしそのおかげで頑張れたんだけどね」

「きゅ、急に褒めないでよ。照れるじゃん……」

「アハハ、顔赤いよ~」


 こんなイジリもこの先続くんだろうなーと思いを馳せながらそのまま合格おめでとう会を開いた。お昼にファミレスに行ってその後カラオケで三時間ほど遊んだ後皆と別れた。そして楽しいのはここまでだった。



「そろそろ帰ろっかな…… はぁ」


 この家に帰る時間が一日で一番嫌な時間だ。というのも家は貧乏であり、家族仲も悪く、両親揃ってギャンブル狂という三重苦。このせいで小さいころから随分と苦労してきた。事情を知っている今日の親友たちが唯一の癒しだ。でも高校からは一人暮らしをすることを許してもらえ、自由を手にすることができる。最近はそのことばかり考えて帰宅していた。


「でも今日はおめでたい日だしこの幸せを伝えたいな……」


 最近碌に話していなかったけどこれをきっかけに少しでもこの冷え切った関係が改善されると良いな…… そんな淡い期待を胸に抱き、立てつけの悪い引き戸に手をかけた。


「た、ただいま……」


 いるかどうか分からないが一応ただいまと言い、靴を脱ぐ。どうせパチンコとかに行っているので期待はしていないがそれでも返事がないと物悲しい。当然電気も止められているので薄暗い部屋の中畳の上を歩いているとなぜか分からないがコートが置かれていた。


「えっ、なにこのコート。しかも結構上等な」


 我が家に似つかわしくない上等なコートとともに一枚の書き置きがあった。


『おかえり友美。悪いけど父さんたち闇金に手を出して1億の借金背負ってしまった。おそらく三時ごろに借金取りが来るからなけなしの残りの金で買った()()()()()()()()()逃げろ』


 目の前が真っ白になったというのは今の状況を言うのだろう。体と心が硬直してしまい何が何だか分からない。……え? 1億? 何が?

 分かっているけど分かりたくない。現実から目を背けたい。そんな私の目に映ったのは左腕に装着した百均で購入した安物の腕時計であった。その短針が指すのは3の文字。


「……え?」


 私が今後の展開を察知した瞬間立てつけの悪い扉がいつも以上にうるさく鳴った。


「オラァーー!! 浜際ぁ!! 出てこんかいやワレェ!!」

「き、来た! ややや、ヤバイどうしよう!」


 なんというバッドタイミング。このままだとひどい目に……


「1億耳揃えて返さんかい! こんの嘘つき野郎がぁ!」


 家に侵入されるのも時間の問題だ。と、とりあえず裏口から……いや、そこにも待ち伏せされてるかもしれない。何かないのか…… そ、そうだ! 2階の窓から屋根に飛び移って逃げよう。昔はよく怒られたけど今はそんなこと言っている場合ではない。


 置かれたコートを身に纏い、着の身着のまま家から脱出した。できる限り音を出さずに抜け出せたようで、まだ怒声が轟いている。どうやら気付かれてはいないようだ。屋根づたいにピョンピョン走り続けて怖い人たちと十分距離を取ってから地上に降りた。


「と、とにかく逃げなきゃ」


 鞄の中に入れっぱなしにしていた体育館シューズを履いて走って走って走り去った。立ち止まったら殺される。そんな思いで後ろは振り返らなかった。日も暮れて気づけば6時。体力に自信のある私でもそろそろ限界であり、ここがどこかであるかすら分からなくなっていた。


「ハァ、ハァ。あ…… 嘘でしょ……?」


 肩を強く叩く滴。雪解け間近なのに再び降るみぞれ雪。今度は物理的に目の前が真っ白になり、歩くことすらままならなくなってしまった。ひとまず雪を凌げる屋内に入ってやり過ごした。


「さ、寒い……」


 さっきまで全力疾走して火照っている体を急速に冷やしているのでいつも以上に寒く感じる。しかも追われている立場なので焦りから体も思うように動かない。


「……どうしてこんな目に逢わなくちゃいけないの? 悪いこと私したの? 何で、何でなのよ……」


 八つ当たりすることがてきる体力すら今はもう残っていない。私は死期を悟った。親がロクデナシだから家に安心できる場所はなかった。友達の前では暗くならないように明るく振る舞うよう努力してきた。そんな行いがいつか報われると信じて。でも現実はこんなもので無力な自分が恨めしい。


「あ、もう…… ダメ……」


 震えが止まり、瞼が上がらない。もう何も考えられなくなってしまった。





「……大丈夫、だから。僕が、助ける、から」

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