みあげてごらん。
「ねえねえごしゅじんさま、ごしゅじんさま。ちょっときいてもいい?」
「うーむいいけれど、ほれちゃーんと前を向いてておくれ。道がそれてきておるよ」
「えーみちがあったんだ……。うんわかった! それでそれであのね」
暖冬だ暖冬だといっても、ここはさむーいさむーい、とってもたかーいたかーいお空の上の上。
シャンシャンシャンシャン鳴る鈴の音も、あつーい雲と降りしきる雪に邪魔されて、だあれの耳にも聞こえてくることはありません。
「どうしてごしゅじんさまはまいとしまいとし、こうしてボランティアやってるの?」
「ホォーホッホ、ボランティアとな。難しい言葉をよく知っているのう」
「えっへん! だれかのためにね、むしょうでなんかしてあげるのを、ボランティアっていうんだって」
前を向いているよう言われた先から、頭の中からすっぽり抜け落ちてしまったように、キラキラとつぶらな瞳を輝かせながら聞いてきます。だからごしゅじんさまのしていることもそうなんでしょ? と。
そんな問いかけをほほえましく思いながらも、さて道順をどう修正したものか、すこしだけ頭を悩ませます。
「それはじゃの、今は昔にわしがじかに言づけられた、大事な大事な約束事だからじゃよ」
「それってだれからいわれたの? ごしゅじんさまってこんなにとーってもやさしいのにさ、みんなあんまりありがとうってしてくれないよ? もういやっ! ってなったりしない?」
「そうかそうか、わしのことを心配してくれておるのだな。優しい子じゃ」
首すじを愛おしげに撫でポンポンし、ありがとうと声をかけます。
しわくちゃのお顔に生えた、まっしろなおひげが風にたなびいています。
「いやになどなろうものか。あのいと高きお方からいただいた、大切なお役目はの、見返りなど求める必要などないのじゃから」
「ふーん、そんなもんなのかな。なんだかごしゅじんさまがかわいそう」
「ホォーホッホ、心優しいのう。じゃがの、大丈夫大丈夫。よおく見てごらん、あそこを」
進む先の家々で。小さき子もなく、訪れることもないはずの家々で。
我が家を出てからの軌跡が、今どこを飛び、どこに向かうのかを皆が皆。
毎年毎年追いかけ眺めては、在りし日を思い、心待ちにし、応援してくれているではないですか。
こんなに嬉しいことはないでしょう。だから心配など不要です。
さあ、もう少しであなたのいる町の、あなたのお家の真上を、シャンシャンシャン鈴の音を鳴らしながら、幸せという名の贈り物を届けに来ることでしょう。