歴史のまさかを求めて
東北地方某県。
僕が大学の研究チームとしてこの地に発掘に赴くことが決まったのは先週のことだった。
今回の目的は土砂崩れで偶然露出した16世紀の地層から出土した石の鏃や呪術的な儀式の跡に大きな時代のずれ、新しい歴史の可能性を感じ僕は発掘チームに志願した。
現地の登山家の案内で現場に到着すると思わず声が漏れた。
「これは、すごい。」
巨大な岩に巨木の幹が複雑に絡みついていた。
「すごいでしょう!この森は土蜘蛛伝説の森。この御神木はその土蜘蛛の巣だと言われるこの森の最も神聖な場所でさぁ。」登山家が教えてくれた。
土蜘蛛とはかつて朝廷に敗れ東北に逃れて行った蝦夷の民のことだ。ここでは妖怪の様に伝承されているようだが。彼らは一般に平安時代後期から鎌倉時代には平定されその後は文化の流入によりその歴史を閉じたとされている。
新しい歴史の可能性に胸を踊らせ発掘場所に足早に向かおうとしたその時だった。一匹の鹿が我々の前を横切った。「エゾシカだ。。。」登山家は本州いるはずのない蝦夷鹿に驚きの混じった声を漏らした。
次の瞬間ゴォッと言う音と共に「山が滑るぞー!!!!」と怒号が響いた。登山家に従い避難を開始するチームの研究員をよそに僕はビー玉の様に光る蝦夷鹿の瞳に誘われ、いや吸い込まれるように御神木の元に走り出していた。
その巨大な岩と御神木の元へ着くと蝦夷鹿は僕に一瞥しその大きな角を森の奥へと向けたと思うとすぅっと消えてしまった。
直後に大きな音と衝撃が背中の巨石から伝わる。石のつぶてや木片が次々と御神木に跳ね返り飛んでくる。気が遠くなるのを感じながら再びあの瞳の光が見えたと思った所で意識が途切れた。