小世界の無法地帯
クレアは酒屋から出た後に言われたとおり散策することにした。確かに大きな洋館のような屋敷で近くには玄関らしい大きな扉。しかし、その扉は硬く閉ざされびくともしなかった。
「だめ、なんだ」
記憶も戻っているわけではないが、ここから出て行けるならばこのまま出て行きたかった。しかしそれは叶わないことらしい。
しかたなく他の部屋を散策することにした。
見取り図を見る限りでは、かなりの部屋数があるようだ。彼の言っていた広すぎるという言葉には嘘はないのだろう。この近くの部屋から確認しても良いかもしれないと思った。
酒屋の反対側にある扉、もとより少しだけ空いている扉があった。屋敷には付けないような扉、質素な引き戸でまるで学校を思い出させるようなつくりになっていた。
近づいて見ると声が聞こえる、どうやら誰かいるようだ。もしかしたらなにか聞けるかもしれない。
どうやったらここから出ることができるのかをきこう。
どうやったら自分が何者かわかるのかをきこう。
そんな考えを巡らせながらその扉を引いた。
扉の先にはまさに学校の、教室の風景が広がっていた。並べられた机といす、教科書、黒板、窓からの風景までもがそこには存在していた。ここは学校なのだろうか? しかし、先ほど彼は言っていた常に月が見えると。ここにはつきは見えていない。あるのは青空だけだが、そんな事よりも自分は聞く事があると世間話に夢中になっている生徒らしき少女に声をかけた。
「あの、ちょっといいかな?」
「でさー、ありえないよねー」
声が聞こえなかったのか、無視されてしまった。
そんな事でめげるわけにはいかないと聞きなおそうとしたとき扉から少女が入ってきた。入ってきたとたんに空気が静まりひそひそとした話し声に変わっていた。何がわからずに戸惑っていると他の生徒が声を荒げた。
「おい、また学校にきたのかよ!」
「かえれよ!」
どうやらこの少女はきてほしくない存在のようだ、だが彼女には申し訳ないが自分も聞きたい事がある。今度は少女と生徒の間に立ちもう一度聞きなおした。
「あの、聞きたい事があるのですが」
「おまえさー、」
やはり無視されてしまう。
自分が見えていないのだろうか、どうしたらいいかわからずに再び困ってしまう。何人かの生徒の前に立ち話しかけるも結果は変わらなかったからだ。
「むーだっ あいつら繰り返しいてるだけだもん」
突然の声に驚き振り返るそこにはニヤニヤとした笑みを浮かべて笑う、軍服のような服を着た人物がいた。
「あー?もしかして、ここにはじめてきましたー的な?」
「あ、はい」
「だよねーじゃなきゃ繰り返しの連中に声かけないし、あいつらねーここでずーっとおんなじことやってるの、それを願ったから主がかなえてくれたんだよ。だからずーっとこのまま!あはは!きっとしあわせだよね」
何を言っているのかわからなかったがそう離している間にも少女に対する罵倒はエスカレートしていて、次第に暴力に変わっていた。
「とめないと、あのままじゃ!」
そういい、暴力を振るう腕をつかもうとするもののすり抜けてしまった。
「あー? いいんだよ、それにここは《繰り返しの部屋》繰り返す部屋での出来事をここにいる考察員で考察し、選択をする事で第三者への道をしめす。そんな部屋なんだからさ。君はここに入れたつまりはここで選択して別の部屋に行かなくてはならない。さぁ、君はどんな選択をするかな?」
「選択?」
選択といわれても何のことかわからない。大体こんなもの選択とは何を指すのだろう。罵倒される少女、野次馬、見て見ぬフリをするもの……。そのどのポジションにいるかとかのことなのだろうか。
「ああ、選択というのはね考察員の……この場合は僕が二択を出すからどっちか選んでね。ちなみにどちらでもないって場合もあるから君の意思で選んでいいよ。でも、自分の意思さえなければ、扉は開かない。ここで永久に考察し続ける事になる。俺みたいにね」
そういって彼はウインクして見せた。
「さあ、この状況に対する俺の二択だ。僕はね、この状況で一番の悪いものを決めたいんだ。でもこれがなかなか決まらない。被害者も加害者も」
「殴られているあの子は、被害者なんじゃ……?」
この状況では殴る側は加害者だ。
「ちがう、ちがう。実はそんな単純でもないんだ。」
彼は指をくるりとまわすとチョークが浮かび書き始めた。
「あの殴られてる子、あの子はAちゃん。そしてあそこのぽつーんとしてるボロボロの机あるでしょ?そこにはBちゃんって子がいたんだ。Bちゃんは今、意識ないまま入院中ってやつなんだよ。原因はAちゃんのでっち上げたいじめ、一時期あったでしょ被害者ぶって同情集めていじめたい人を無実の罪でぼこぼこって、かなりひどかったよ。嫌がらせしていたのは先生含めたクラス全員だったから。でもBちゃんが入院することで嘘がばれて現在に至るってこと」
「彼女は加害者であり、・・・・・・ってことですよね」
「僕の二択はこうさ、一番悪いのはAちゃん?それともクラスの人?」
「その前に、Bさんは何で入院を?」
誰かに危害を加えられて?もしくは自殺未遂?
それによっても話は変わってくる。
「ある日突然、家で倒れてそのまま目が覚めないんだって」
彼は、にこにこと楽しそうに答える。
でもどこか含みのあるような笑い方だった。
「・・・・・・そうですか」
「で、どうするの?Aちゃんなら赤い扉。クラスの人なら青い扉。どっちでもないなら紫の扉だよ」
自分にはどちらが悪いとも、悪くないともいえない。
Aさんは嘘をついて他人を貶めた。
クラスの人は嘘に便乗して嫌がらせをした。
先生も、大多数の意見に賛同した。
Bさんは謎だけど、こうなる前に助けを求めなかった。
「あたしわるくないわ!あんたたちが悪いのよ!」
殴られていたAさんが叫ぶ、その顔に反省の色はない。
「俺たちをだましたおまえが悪いんだ!」
殴っているクラスの人が叫ぶ、その顔に反省の色はない。
「あの」
自分が思案していた間ニコニコとその現場を見ていた彼に問う
「私が選択して、私がここを出る以外に何か変わりますか?」
「変わらないよ。だって繰り返すだけだもん」
「・・・・・・。」
確認の取れた私は、無言のまま扉の前へ行き、自分の選んだ色の扉を開けた。
「へえ、その扉を選ぶんだね? いいよ、縁があればまた会おうね。―――ちゃん」
すでに、足を進めていた私は名前を呼ばれたような気がして振り返るももう扉は完全に閉まっていた。開けようとノブを回すも開かない。
しかたなく、現在地の確認をするためにあたりを見回す。
どうやらさっきまでいた場所のようだ。
まったく知らない場所ではないため安心をした、瞬間
―――ぐしゃ
背後から肉の潰れるような鈍い音がした。
振り返ると入ったときのドアが内側から真っ赤に染まっていた。
鼻につく、鉄錆のにおい。
「ひぃ……!」
声にならない悲鳴を上げながら、開いている別の扉を探して走った。
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「あーあ、行っちゃった。せっかく会えたのになぁ」
教室のような部屋で考察員の彼は嗤う。
真っ赤になった教室はみるみるきれいになり、クレアが来る前の平和で賑やかな状態になっていた。
「Bちゃんが何もしないなんていってないよ。まぁ加害者でないことは確かだけどね」
Bと呼ばれた彼女はクラスに馴染めなかったために貶められた。
でもBは自ら馴染まなかった。仲良くしようとしてくれた人までかかわりを持たなかった。
むしろ冷たく対応した。どこまでもつめたい対応で。
「選択肢に入れなかったけど、僕はBの両親を入れたいな選択肢に。」
愛しているようでBの逃げ道を奪った原因。
Bが目を覚まさない本当の理由。
「うーん、これを言っちゃだめなんて主はひどいなぁ。……さぁ、考察し直しだ。クラスの人がAちゃんに同情している時とこの暴力の時、本質は変わらないどっちもAちゃんにべったりだ。愛情と憎しみは表裏一体とはよく言ったものだね。このループから逃げるには関係を無くさないといけないのに」
彼はまた、この部屋で考察をはじめた。
きっと次に違う人物が来るとしたら、二択は変わっているだろう。
愛しているのはどっち? と
クレアが何色を選んだかという答えは出しません。
皆様の想像にお任せします。