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自己満足  作者: しまちょ
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序章 ―仄暗い揺籠―

「――――――」

呼び声が聞こえ、振り返った。

あたりは白く少しノイズがかかっているような、

擦り切れたビデオを見ているような気分になっていった。


振り向くとそこには笑顔の少女がいて、


「――――――」

なにか言っているように、見えた。


しかし、なにを言ったのか、聞こえなかった。


……いや、聞いてはならないような気がした。

その後しだいにノイズが酷くなり、周りが見えなくなってきた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…っ」


中性的な顔の人間がその目を開ける。

ベッドに横たわるその人は、辺りを見回した。

自分は見知らぬ部屋のベッドの上に横になっていたようだ。

不自然なくらい薄暗い部屋に自分の横たわっていたベッド以外には小さなテーブル。

それ以外には、ひとつの木の扉と窓しかなくその窓からは月が薄く輝いていて、輝く月は、自分が知っているものよりもとても大きく近く感じた。


ベッドから出ようと体を動かし違和感を覚えた。

自分が知っているもの、それは何だったのだろうか


考えてみても、わからなかった

なんで自分はここにいる。

そもそも、自分は…だれなのか。

そう自分の事が何もわからなかった。基本的なことは覚えていた、それこそ国の名前、地名、物の名前、ドアの開け方、ペンの使い方、公式の使い方……。


ベッドに腰掛けたまま混乱する頭を何とか落ち着けようとしたが、思考は定まらない。宙に浮いたように混乱していてなぜか自分の事だけを思い出せない。


そのとき、視界に何かが映った。

黄緑色の、さらさらとした――髪。


その髪は自分の髪の毛で、何も覚えていない頭でも

こんな色ではない、と衝撃を隠せないでいた。だってこんな色の髪の毛は染めない限りないだろうと思っていたからだ。


薄き緑色をしていて、顔の横に落ちる一房だけが薄橙の色をしていた。呆然としてそのまま固まってしまう。本来ならば、自分が誰かを知ろうとしなければならないはずだが、そんなことは、何も考えられなくて。むしろ考えなくてもいいような気さえした。


それは、見知らぬ場所なのになぜか安心するような感覚に包まれる安心からなのか。包まれているような水の上に揺らいでいるようなでも、このままここにいてはいけないと胸がざわつくような感覚がした。まるで蔦が体の中から這っていってからめとるようなそんな感覚。このままここにいて安定する安心感に包まれていたい、しかしそれは自分の中の何かを壊されるような気がして何をしていたらいいのかわからないでいた。


とてもこのままでは耐え切れないと、

ベッドから出ようとすると、唯一の扉が開いた。


「おや、起きていたのかい?」


扉があるはずなのに音もなく入ってきたのは赤毛の男性だった。自然に入ってきた様子が不自然に思えたが、より不自然だったのはその目に付けたもの。


アイマスクに見えるがよく見ればそれがふちの大きな真っ黒なメガネであることがわかる。あまりにもぶしつけに見ていたのか、彼はその笑顔を崩さないまま言った。


「ああ、すまないね。この部屋はどうも私には明るくてね」


この部屋はとても薄暗い。なにせ月明かりしかないからだろうが照明機器すらないのだ。そんな薄暗く、たとえば本を読む気にはなれないくらいには暗いが、そんなことを気にしないかのように彼は持ってきた椅子に腰掛けこちらの方を向いた。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は、《Leopold レオポルト》ここで酒屋兼名付け屋をしているんだ」


なづけや?

名付け屋、ということだろうか

どういう意味か聞く前に自分のことを言おうと口を開いた。


「自分は、…」


そうだった、自分は自分のことがわからないのだった。

なんと答えてよいかわからずに困っていると想定していたかのように笑い、困る自分に対して手で待つように制すると本をぱらぱらとめくり、ぴたりととめて、当たり前のように言い始めた。


「やっぱり君は、ここの子じゃないんだね。名前も覚えてなさそうだし…、そうだ君の名前はClaire  Aldis 《クレア・オールディス》と名乗るといい」


「…?」


何を言っているのかよくわからなかった。

ここの子ではないとか、勝手に名前を付けてきたこともそうだ。彼は先ほどからずっと前から知り合っているような、そんな風に親しげに話している。


一度不審に思ってしまえば不気味に見えて仕方ないはずなのに不思議なことに、そんな感情はどこにもなかった。何も答えない自分に不審に思ったのか いぶかしげに問いかける。


「どうしたんだい?この名前は気に入らないかい?」


「い、いえ… そういうわけじゃ…」


何から問えば良いのかわからない。

名前のこと、ここのこと、彼自身のこと、自分のこと…。

そのほかにもあるけれどさまざまなことが頭の中に浮かんで疑問を言うことができない。何とか会話をしなくては始まらないと、疑問を口にした。


「なんで、クレア…と? あ、別に気に入らないというわけでは…」


自分が話しかけたことを満足したようににこにことしながら答えた。


「ああ、Claire  Aldis 《クレア・オールディス》? それはね君がその名前とまったくの関連がないからだよ。」


「関連…?」


「その話の前にいくつか説明が必要かな。君は私の酒屋の入り口に倒れていてね、それでここで休ませおきるのを待っていたんだ。それが君がこの部屋にいた理由であり、そこで寝ていた理由だよ。そこまではいいかい?」


「あ、はい…。でも倒れていたなんて」


「覚えてない様だし無理もないね、でも普通じゃない違和感くらいはあるだろう?この部屋や、君の髪色でも良いかな。」


「……はい。」


「ここは普通の場所じゃない。ここには決まったヒトしか来ない、いや来られない世界なんだ。少なくとも来たとしても記憶が失われることなんて今までなかったはずだしね。全部の記憶を消してならともかく特定の記憶のみ消すなんて面倒なことを彼女が行なうとは到底思えないしね、彼女とてもめんどくさがりだから」


「それが、関連と何の…」


「ここは世界が違うということさ。みんなね、君のいた世界に戻りたくて仕方ないんだよ。でも戻るには必要なものがある、それはその世界のヒトの名前なんだ。だから君がもし記憶があっても名乗ってはいけないよ。奪われたら最後、君はここに飲み込まれてしまう、飲み込まれたらなにもできないからね。だから関連性のない名前が必要なんだ、でも名前じゃなければ無理にでも奪うからね。だからまったく関係のない偽名を付けることで免れているのさ、僕もね。」


そういって彼はにっこりと笑った。


「そんな危険な分けわかんないところに、どういう人が…?」


「目的は人それぞれかな。僕は自分自身の目的はおぼえてないけど方法としては、儀式…いや君の世界ならおまじないの方が聞こえは良いかな?よくあるだろう?こうすると金運があがるとか誰かと付き合えるとか…… まぁ、そういう類のもので来られるはずだよ。どういうものだったかまでは知らないけどね」


彼は慣れたように答えた。


「彼女って…」


「ここは現実世界から切り離された世界、常に月の見える《ツキシマの館》というんだ。この世界には屋敷以外ない、中庭はあっても外の空間はありえない屋敷にしては大きすぎるから問題ないしね。そしてこの屋敷の管理人であり主が《ツキシマ》という女性なんだ。どういう経緯でここにいるとか、どういう人物なのかとか正式名名称かはわからないけどね、みんなが勝手にそうやって呼んでいただけだし」


「…でも、その主の仕業でないなら誰が自分を?」


彼はニコニコしながらも悩んだような風に考え出した。

考えがまとまったのかこちらを向き直し思いついたかのように言った。


「君がここにいられる時点で、彼女は認識くらいしているはずだけどね。誰がって事まではわからないな。……そうだな、このあたりを見て回ってきたらどうかな? この酒屋は館の入り口に近くにあるから、そこが開けば君は帰れるはずだ。なにせあの玄関は世界をつなぐ唯一の場所だからね。もし開かなくても、しばらく散策してみるといい出られる方法もわかるかもしれない。もしくは君の記憶がみつかるかもしれないからね」


「勝手に回って良いのですか?」


「うん、問題ないよ。さっきも言ったとおり彼女は、認識くらいはしているから。だめな部屋は鍵か掛かっている鍵が見える位置にあればそれは入っていいってことさ。そうだ、見取り図くらいあったはずだから渡しておこうかな、役に立つだろうしね」


「ありがどうございます」


渡された見取り図は真っ黒な紙に白い文字で書かれたものだった。不思議そうにその見取り図を見ていたら彼はクスクスと笑っていた。なんだか気恥ずかしくなり、見るのをやめ散策に向かうことにする。


「あの…」


「私はここの酒屋とこの部屋以外にいることはないからね。迷子になったり、疲れたらまたおいで。くれぐれも記憶が戻っても名乗ってはいけないよ」


「はい、ありがとうございます」


最後に礼をいい自分は、この部屋を後にした。

この先にあるもの、何があるかもわからないけれど

このままではいけないと、何とか自分を奮い立たせて歩いた。


クレアが部屋を出た後に彼はさっきまでの笑顔を消し疲れたように息を吐いた。

そして、暗い部屋でレオポルトは月を見ながら、

先ほどまではしていた真っ黒な眼鏡を外して輝く金の瞳で月を見ていた。

その手には本ではなく、小さな写真が握られていて彼はそのまま祈るように呟く。


「………、ここに残らない選択肢をとってくれて助かったよ。

もし君が残るといえば僕は逆らえない。この部屋に置いておく事しかできない。

そんな可能性にいたらなくて、僕としては安心しているよ、―――。」


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