いいよ、いいよ。それでもいいよ。
沢山の動物達が住んでいる逆さ虹の森には、今にも崩れ落ちそうな、オンボロ橋がありました。
オンボロ橋の下には、川が流れていました。その川には、逆さ虹がかかっていました。
ある日、熊さんがオンボロ橋を渡っていました。熊さんはとても怖がりでした。熊さんは、その今にも壊れそうなオンボロ橋を最後まで渡りきれずに、橋の上で震えていました。少しづつ、少しづつ進んでいたその足は、とうとう途中で止まってしまいました。
その後ろに、リスさんがやって来ました。リスさんはちょっとイラズラ好きでした。リスさんは、オンボロ橋を渡ろうと、熊さんの後ろに追い付きました。
熊さんは申し訳なくなって後ろのリスさんに言いました。
「リスさん、リスさん、僕、もう少しここで休んでいてもいいですか?」
すると、リスさんはにっこり笑って言いました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。私、待ちますよ。」
熊さんはリスさんの言葉に安心しました。でも、なにやらリスさんはイタズラを企んでいる様子です。
その後ろに、アライグマさんがやって来ました。アライグマさんは暴れん坊でした。アライグマさんは何だか怒っていました。アライグマさんがイライラしながら歩くと、橋はとても揺れました。その揺れに、熊さんはとても怖がりました。
リスさんは怒ったアライグマさんに言いました。
「アライグマくん、アライグマくん、熊さんのおしりの毛、ひっこ抜いてびっくりさせてもいいかしら?」
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。それでもいいから早くしてくれ!」
そう言って、アライグマさんは橋を揺らしました。
その後ろに、ヘビさんがやって来ました。ヘビさんは食いしん坊でした。いつもお腹を空かせています。ヘビさんは行列についつい並んでしまいます。ヘビさんは目の前のアライグマさんに、何の行列ですか?と聞こうとしました。
すると、アライグマさんはヘビさんを怒鳴りつけました。
「ヘビ、ヘビ!俺はイライラしているんだ!食べ物の事なんか喋るなよ?」
ヘビさんは少し困ったように慌てて答えました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。それでもいいから怒らないでよ。」
その後ろに、キツネさんがやって来ました。キツネさんはお人好しでした。誰にでも、何でも、いいよ、いいよと言ってしまうのです。
ヘビさんは、キツネさんのしっぽが揚げパンに見えてきました。ヘビさんはキツネさんのしっぽを見ると、言いました。
「キツネさん、キツネさん、そのしっぽ、何だか美味しそうだね。少し噛んでみてもいいかな?」
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。それでもいいから、全部食べてしまわないでね。」
そう言って、自慢のしっぽをフサフサと振りました。
そこへ、コマドリさんがやって来ました。 コマドリさんはとっても歌が上手でした。いつも上機嫌で歌を歌います。
キツネさんはコマドリさんに言いました。
「コマドリさん、コマドリさん、ご機嫌はいかがですか?その美しい声を聞かせてくれませんか?」
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。それでもいいから、静かにしててね?」
そう言うと、コマドリさんはこんな歌を歌いました。
「オンボロ橋には動物が1、2、3、4、5!そんなに動物が乗ったら壊れちゃう!10から0まで数えたら、オンボロ橋が壊れるよ!それ!10、9、8、7、6、」
「え?!待ってよ!」
それを聞いた熊さんは焦りました。焦って進もうとすると、爪が木の板に引っかかって、先に進めません。
「5、4、3、2、1、0!」
「うわっ!!」
急に爪が外れた熊さんがびっくり驚いて、飛び上がりました。熊さんが飛び上がると、今までで一番大きく、それはそれはとても大きく橋が揺れました。
その熊さんにびっくり驚いて、ひっくり返ったリスさんは、間違えてアライグマさんの毛を掴んでしまいました。リスさんは思わず、そのままアライグマさんのおしりの毛をひっこ抜いてしまいました。
「ギャー!!」
アライグマさんは毛を抜かれてびっくり驚いて、ヘビさんに言いました。
「助けてくれ!!」
ヘビさんはアライグマさんの形相を見て、びっくり驚いてアライグマさんから逃げようとしました。
みんなの様子をみて、キツネさんはびっくり驚いて、目の前を通りかかったヘビさんのしっぽを、思わず噛んでしまいました。ヘビさんは叫びました。
「ギャー!!痛い!!」
「あ、ごめんなさい!」
みんなの騒ぎに、びっくり驚いたコマドリさんは、歌うのを止めて、とまっていたオンボロ橋のロープをつつきました。
「痛い!!痛い!!」
つつかれたオンボロ橋はびっくり驚いて、みんなを乗せたまま、ひっくり返りました。
みんなは真っ逆さま。真っ逆さまに、川に落ちてゆきました。
みんなが落ちたのは、川にかかった逆さ虹の中。
じゃっぽーん!
みんなが落っこちてきた!
逆さ虹はびっくり驚いて、ひっくり返って空に飛び上がりました。
熊さんは川に落ちたみんなを、背中に乗せて助けました。みんなは川からあがると、川のほとりで空を見上げました。空には綺麗な虹がありました。
「逆さまだ!」
誰かがそう言うと、みんなは笑いだしました。
笑われた逆さ虹は言いました。
「逆さまは変ですか?」
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。」
みんなは口々に、そう言いました。
「それは良かった。それは嬉しい。」
熊さんが言いました。
「熊なのに、こんな大きな体なのに、怖がりなのは変ですか?」
リスさんが答えました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。怖がりでも、優しい熊さんがいいと思うよ。」
「それは良かった。それは嬉しい。」
リスさんが言いました。
「イタズラばかりしちゃう私は変かしら?」
アライグマさんが答えました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。面白いイタズラなら楽しいよ。俺は何で怒っていたのか忘れちゃったよ。」
「それは良かった。それは嬉しいね。」
アライグマさんが言いました。
「暴れん坊な俺は変だろう?」
ヘビさんが答えました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。この前私を守ってくれたじゃない。それに、時には厳しい意見も必要だと思うよ?」
「それは良かった。それは嬉しいな。」
ヘビさんが言いました。
「じゃあ、食いしん坊な私は変かしら?」
キツネさんが答えました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。美味しい木の実を教えてくれていつも助かるよ。」
「それは良かった。それは嬉しいわ!」
キツネさんが言いました。
「僕は、いいよ、いいよ。ばっかりで変でしょう?」
コマドリさんが答えました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。そう言ってもらえるから、私は歌うのよ。」
「それは良かったです。それは嬉しいですね。」
コマドリさんは言いました。
「でも、喜びや楽しい歌だけじゃない。悲しい歌も辛い歌もある。私はそんな歌も歌いたいわ。そんな歌も歌ってもいいかしら?そんな歌を歌うのは変かしら?」
誰かが言いました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。」
それから、みんなは口々に言いました。
「いいよ、いいよ!それでもいいから歌ってよ!」
コマドリさんは綺麗な歌声で歌を歌いました。それは、悲しい歌でした。みんなはコマドリさんの歌を、体を寄せ合いながら聞きました。
空には逆さまの逆さ虹がありました。逆さ虹は、逆さまでも、逆さまの逆さまでも、とても綺麗でした。
「いいよ、いいよ。それでもいいから、そこにいて。それでもいいから、側にいて。」
誰かが、そう言いました。
誰かに、そう言われたら、誰かは幸せな気持ちになりました。
幸せな気持ちの誰かは、誰かに言いました。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。」