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第03話:まな板  作者: 吉野貴博
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上中下の中

 ターミナル駅から普通電車で数十分。

 駅を降りて商店街を抜けてまた数十分。バスは解らないから乗らない。

 商店街を抜けたら住宅街だ。

 川を渡って、家はあっても人がいないエリアに入る。もっともこの時間帯はそういうものなんだろう、路上駐車している車があっても迷惑を被る人がいない。迷わず言われたアパートに着いた。私が大学生の時に住んでいたような、外廊下の二階建て木造アパートだ。その前にも車が停まっている。

 階段を上り、部屋番号と表札を確認する。…表札は無いか。

 とりあえずチャイムを鳴らす。

 いるなかー、静かだなーと思っていたら、部屋の中からどたどた音がして、勢いよくドアが開いた。

「…あの…」名前を確認する間もなく

「いま何時だ!」

「…だいたいお昼ですね…」

 目の前の老婆は目を輝かせながら

「メシだな!メシ食ってけ!」

 どたどたと奥に走って行く。

 名前の確認は出来なかったが、写真で見た顔と同じである。

 メシねぃ…そりゃまだ昼飯は食べてないけどさ、こういうアパートでは玄関の脇に台所が作られているのではないのか?といっても私も言うほどアパートを渡り歩いたわけではない、私が借りたアパートがたまたま玄関脇に台所がある間取りだったのかもしれない、ドアをくぐりながら考える。

 ドアをくぐり、まず三和土があって靴を脱ぎ、すぐ左手がトイレと風呂場になっているが六畳間で右手にタンスがあり、その先に四畳間があってテレビと卓袱台がある。押し入れに布団が入っているんだろう、その先に台所があるようだ。

 そういう造作なのかなぁと不思議だとは思うのだが、実際にそうなんだろう、老婆はガラス戸を閉めて、炊事の準備を始めている。

 あぁ録音しなきゃと録音機材の準備をするのだが、許可を得ようとしてもガラス戸が開かない。「あのう」と声をかけても鍋やら皿やら準備しているのだろう、ガチャガチャ音がして声が聞こえないようだ。

 まぁ炊事の音を録るくらい、許可を得なくても大丈夫だろうとスイッチを入れるのだが、なんだかやたらに音が大きい。

 セッティングの音、水が出る音、包丁で材料を切る音、ガラス戸越しなのにかなりの大きさだ。

 なんなんだ、と思いつつ座布団を見つけたので卓袱台の前に二枚置いて、台所向きに座る。

 向こう側にベランダなり窓ガラスなりあるんだろうな、非常に明るい。って、私が住んでいたアパートにはベランダはなかったか。このアパートには道なりに素直にやってきたから、こっち側の造作は全然知らないや。

 私が住んでいたアパートは雨戸があって、引き戸の中に鳥が巣を作っていた。

 毎朝親鳥が雛に餌を運んでいて見ていたのだが、あるとき窓の木枠に虫がびっしり湧いているのに気がついて、さすがに不動産屋に言わないといけなかった。

 不動産屋はすぐに来てくれて、雛を追い出し巣を壊してとやってくれたのだが、下の階に住んでいた人が謝りに来たのは驚いた。どうもその人は鳥寄せを楽しんでいたようで、その影響で二階の雨戸に鳥が巣を作ったんだ!と怒られたのだ。

 本当にそうなのか解らないし、本当にそうなのかも知れないしで「えぇ、まぁ、どうも」としか言えなかったな、と昔を思い出すのだが、あの雛の声もそれなりに大きかったよな。

 にしても料理の音が大きい。料理ってここまで音するか?あと老婆元気ね。ずーっと音がしている。ということは休むとか煮る焼くだけってのがなく、ずーっと体を動かしているわけか。何やってんだ?ガラス戸越しの後ろ姿しか見えん。

 そういう意味では退屈しないですむが…。

 等々考え事をして数十分、ガラス戸がこれまた大きな音を立てて開けられ、

「まったか!」。そういえば老婆の声も大きいね。

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