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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 6: Out of Control
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Act 51. Spirals,Shots,and...Red Circle

<ロサンゼルス市内・クラブ>


 そうして愛車を走らせること数十分。斎は車から持ち出してきたドイツ製の自動拳銃と短刀型の高周波ブレードをスーツの裾に隠しながら、ミカエラから送られてきた座標と一致しているクラブへとたどり着く。スーツのポケットから取り出した煙草に火を点けながら斎は大勢の男女が並んでいる列を一瞥し、駐車場のある裏口へと足早に消えていく。そうして人気の少ない裏口に到着すると斎は徐に煙を吐き出した。巻きたばこが短くなるにつれて、裏口周辺に屈強な白人の男たちが斎を取り囲み始める。


「ほう……」

「宗像斎だな? ボスが呼んでる」

「お前らのボスが誰かは知らん。名前を言え」

「それはできない。ボスにはお前を痛めつけてから連れてこいと言われてる」


 男がそう吐き捨てると、取り囲んでいた男たちはナイフや警棒など各々の得物を取り出し始め、斎を見るなり凶悪な笑みを浮かべた。やれやれ、と斎は内心呆れながら首を左右に曲げてポキポキと鳴らす。腰に刺さっていた短刀型高周波ブレードを引き抜くと逆手に握りしめ、左手を顔の側面に持ってくる。直後に感じ取る、背後からの殺気。すかさず斎は背を低く屈めて横殴りの斬撃を躱すとすり抜けざまに男の腹部へナイフを突き刺す。そのまま足払いをして体勢を崩させ、止めを刺すように拳を顔面に振り下ろした。


「……そうか。ならリンは……ここにいるんだな」


 まるでそれだけ聞ければいいと言わんばかりに斎は真正面にいた男に走っていき、勢いを伴った飛び膝蹴りを鼻柱に叩き込む。スピードのついた鉄の塊が突如として顔面に飛び込んできたのだ、気絶するのが普通の人間であろう。足元に出来上がった二つの肉塊を一瞥しながら斎は頬に警棒の一撃を受けるが、体勢を崩すことなく飛び込んできた男へ視線を傾けた。血液交じりの唾を吐き捨てながらその男の胸倉をつかみ、そのまま股座を持ち上げて頭からアスファルト舗装の地面に叩きつける。これもすべて、機械の手足が成せる業だ。普段の斎ならそんな野蛮な真似はしないだろうが、今回ばかりは頭に来ているようで深緑の瞳の奥に微かな炎が見える。


「悪いが今の俺は相当頭に来ている。時間がない上にお前らみたいなクソッたれ共に大切な後輩も痛めつけられている」


 深く息を吐き、斎は沸々と湧き上がる怒りの感情を露わにした。


「……今すぐ道を開けろ。でなければ……ここでくたばりやがれ」


 その挑発に乗ったのか、左右の男たちがナイフを手に斎に襲いかかってくる。斎はその二振りの斬撃を身を反ることで回避し、両者の後頭部を掴んでそのまま鼻柱をぶつけさせた。骨の折れる小気味よい音を一瞥しながら斎は目の前の二人の男が倒れるさまを見ていると、後頭部に警棒の一撃を受ける。額を伝って流れる深紅の液体を横目に斎は振り向き、警棒を持った男の手首を掴むとそのまま力任せに圧し折った。一瞬にして出来上がった新たな3人の負傷者を踏み越え、斎はゆっくりとクラブの裏口へ進んでいく。そんな彼を行かせまいと残った4人の警備員たちがナイフを手に斎へ殺到するが、身をかがめて4方向からの攻撃を肉薄した。


「あっ」

「遅い」


 正面に立っていた男の膝目掛けて蹴りを食らわすと、男の膝が逆方向へ曲がる。正面が開けた瞬間に斎はその場で前転し、転がりざまに落ちていた警棒を奪い取った。立ち上がって残り三人となった警備員をその目に見据え、真正面から迫る錆び一つない鈍色の刃を警棒で受け止めると左手に握っていた短刀で男の足の付け根を切り裂く。目の前が開けた瞬間に斎は警棒を呆気に取られていた二人組の方へと投擲し、命中した瞬間に最後に残った男へ強烈な回し蹴りを浴びせた。わずかに乱れたスーツの襟を両手で正し、短い溜息を吐く。


「喧嘩を売る相手はよく見て選んだ方がいいぞ。ウォッカまみれのロシア野郎」


 それだけ吐き捨てると斎は裏口の扉を静かに開け、うす暗い廊下へと入った。進んだ先の黒いカーテンをめくるとクラブの広いダンスホールが一望でき、一階のスペースで無数の男女が狂ったように踊っている。重低音の効いたEDMのサウンドが彼らの欲を掻き立てるのだろう、斎には理解できない文化であったが。二階に視線を向けるとガラス張りの個室が用意されており、いわゆるVIP専用の部屋から数人の男が一階の様子を見ながらグラスを呷っていた。あの部屋は外の景色も楽しめる設計のようで、内側からしか見えないマジックミラー仕様の窓となっている。斎はスキャナー内蔵のモノクル型バイザーを取り出し、耳に掛けるとスイッチを押した。


「解析は……今は頼めないな。ミカエラとリュディを警部たちとアトラス達に回している」


 斎は義手に仕込まれた通信デバイスとバイザーをリンクさせ、リンの生体反応と一致するものがあの部屋の中に居るか見始める。バイザーの画面が両手を縛られた状態のサーモグラフィ画像を映し出し、一致という文字を表示した。同時にこのクラブの地図を表示し、二階までの最短ルートを計算させる。どうやらこの廊下を進んでいけばVIPルームに着くようだ。よし、と斎は短くうなずくとダンスホールには足を運ばずに、暗がりの廊下を歩き始める。消音機が銃口に取り付けられたドイツ製の自動拳銃 HK P30Lを腰のホルスターから引き抜き、左手に短刀を握りながら足音を立てずに進んでいく。曲がり角に差し掛かった瞬間、この辺りを巡回していたスーツ姿の警備兵と鉢合わせた。


「貴様――――」


 瞬間斎は構えていたP30Lの引き金を引き、男の膝を打ち抜く。だが警備員の引き抜いていた自動拳銃からも鉛玉が床へ放たれ、けたたましい騒音を周囲にかき鳴らした。これで何があったのか他の警備員たちも一斉に気づくことだろう、地に伏した男の息の根を止めると溜息を吐いた。


「やれやれ。結局正面突破になるわけか」


 何故だかとても嬉し気な声音なのは気のせいだろうが、斎はP30Lの銃口を斜めに構えながらまっすぐに伸びた暗い廊下を一気に駆け、二階の踊り場に繋がっているであろう木製のドアめがけて飛び蹴りをかます。複合型特殊柔合金(レアニウム)製の義足にかかればドアなど紙同然に等しく、扉の向こう側で今にも突入しようとしていた数名の警備員ごと吹っ飛ばした。その勢いと共に斎は飛び出し、同時にまず目に入った男の脳天を炸裂させる。すぐに振り向いて反対側で彼の様子を見ていた警備員へ引き金を引き、2体の死体を瞬く間に作り上げた。一瞬だけ周囲の客は何が起こっているのかが理解できなかったのであろう、斎と一組の肉塊を交互に見ている。邪魔だ、と言わんばかりに斎はその場に落ちていた自動拳銃を拾い上げ天井目掛けて引き金を数回引くと、辺りは瞬く間に騒然とした。


「な、なにが起こって――――」


 間抜けにもVIPルームから騒ぎを聞きつけた男の一人が顔を出し、混乱の原因となっている斎を見るなり目が飛び出す勢いで驚愕した様子を見せている。斎はそんな阿呆を見るなり不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。


「そちらから居場所を知らせてくれるとはな。馬鹿な奴だ」


 瞬間、斎は銃口を斜めに構えた――CARシステムといういつもの構え方だ――状態で真正面に向かってくる客の群れを掻き分ける。そんな客にもお構いなしといった警備員たちは引き金を引いているようで、無駄に死者を出したくない斎は短く毒を吐きながらP30Lの引き金を引いて脳漿を周囲に撒き散らせた。一瞬のスキを突いた警備員が斎の銃を持つ右腕に組み付いてくるが左手のナイフで肩口を切り裂くとそのまま足を払って大外刈りの領域で地面に叩きつけ、胸と頭部に鉛玉を叩き込む。仲間の死を無駄にしないように正面にいたもう一人のガードが斎へ向けて引き金を数回引くが、その場で斎が前転した蹴りで地面に倒れた。足でガードの身体を固定したまま続々と現れる警備員へ向けてトリガーを引き絞り、無数の肉塊を作り上げる。足元の男は抵抗しようとナイフを引き抜くも、斎の向けた銃口が最期に見た景色となった。14発撃ち切ったところで斎はマガジンリリースボタンを押して弾倉を交換し、VIPルームへと駆ける。


「ッ⁉ 」


 そこで目にしたのは、一人の中年男性がリンを腕の中に抱え彼女のこめかみに銃口を突きつけている光景だった。リンは猿轡をされながらすぐそばにいた男を睨み付けており、斎を見るなり一度だけ驚いたような表情を見せた後ゆっくりと頷く。斎はその光景を見逃さず、手にしていたP30Lと短刀を地面に置いた。


「話が分かるやつのようだな、宗像斎……」

「イゴール・サンデルス……。お前が一枚噛んでいるとはな」


 イゴール・サンデルス。かつて斎とアトラスが初めて接敵した際に潜入した屋敷の持ち主の名だ。ロシアンマフィアの幹部とも呼べる彼が、なぜリンを捕らえるような真似をしたのかは定かではない。そんなことを考える余地すら与えないと言わんばかりにイゴールは斎に銃口を向ける。


「なぜ貴様がこんな真似を? 俺たちとは何の関係もない筈だ」

「お前たちに関係がなくとも、俺達にはあるのさ。お前はまんまとこの女を助けに来て、そして罠に嵌った」

「俺を誘い出すための算段、という事か」

「どうかな。答えは闇の中、だ」


 イゴールの引き金に掛けた指に力がこもっていく。瞬間、イゴールの腕の中にいたリンが彼の足を踏みつけ、いつの間にか拘束具を外した両手で彼の身体を投げ飛ばした。イゴールの丸々太った体は音を立てて部屋のテーブルやソファをなぎ倒し、騒々しい音を立てる。リンは猿轡を外しながらばつの悪そうな表情を浮かべるも、何かを思い出したかのように斎に視線を向けた。


「リン、どうした」

「すいませんイツキさん、今は四の五の言ってる暇はねぇ! あたしの他にもう一人こいつらに連れ去られた奴がいるんだ! 」

「何……? どういうことだ? 奴は俺を罠に……? 」

「違うんだ! こいつらの本当の目的は……マクレーン警部なんだ! あの子は、シエルは……マクレーン警部の一人娘なんだよ! 」


 一瞬リンが何を言っているのか理解できていない斎は、先ほど投げ飛ばされたイゴールが起き上がり、二人に銃を向けていることに気づいていない。銃口の鳴る音が聞こえた瞬間には、イゴールは既に引き金を指に掛けている。リンを守ろうととっさに斎は前に飛び出すが、それでも間に合わない。舌打ちをしながら、痛みに耐えようと目を瞑った。窓にひびが入る音と銃声が聞こえ、斎はゆっくりと目を開ける。


「あ、う、腕がぁぁぁっ⁉ 」

「何……! どこからだ! 」

「窓からみたいです! でもここは外からは見えなくなってる筈じゃ……! 」

「任務に失敗したこいつを消そうと雇われた狙撃手かもしれん。移動するぞ」


 客がいなくなったクラブ内を駆け、斎とリンは一旦裏口を経由してクラブから出ると、駐車していたアストンマーティン・ヴァンキッシュの助手席にリンを乗せた。荒れた呼吸が落ち着いたところで斎はリンに視線を向ける。


「リン、さっき言ったことが本当ならまずいぞ。お前を探すためにアトラス達二人と警部たち二人を他のクラブに向かわせたんだ」

「急いで社長に繋いでください! 早くしねえと取り返しが……! 」

『会話の一部始終、聞いてたであります。リンちゃん、再会を喜びたいところでありますけどそうもいきません。先ほど警部たちが何者かに襲われどこかに連れ去られる様子を確認しました』

「ちっくしょう……! あたしのせいで……! 」


 自身の無力さを嘆くようにリンは自身の腿を殴り、悔しさを露わにした。斎はそんな彼女を一瞥しながらヴァンキッシュのエンジンを掛け、すでに日が沈んだロサンゼルス市内を脱出しようと道路を駆ける。


「失敗を嘆くのは後にしろ、リン。お前ひとりの手には余る問題だった、そうだろう」

「……はい…………」

「だからお前の尻拭いをしてやる。俺たち全員でな」

「で、でも……! 」

「あいつならそうしたさ。……感傷に浸っている暇はない。ミカエラ、警部たちの座標は? 」

『依然としてロサンゼルス市内でありますが……これはビジネス街の方へ向かってるでありますな』

「奴ら何を……まあいい。急ぐぞ」


 その言葉と共に斎はヴァンキッシュのアクセルを踏み、加速させていくと二人を乗せた銀の鋼鉄馬が市街の奥へと姿を消していった。

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