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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 6: Out of Control
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Act 50. Think of me

<ロサンゼルス市内>


 そうして、今に至る。リンたちが何者かによって捕縛された動画を見つけた斎たちは今日の深夜0時というタイムリミットを背負いながら夕暮れ時の高速道路をかっ飛ばしている。既に動画はミカエラたち技術班に送信しており、解析を行っていた。このデータがリンを助けることに繋がるのは確実だが、それでもハンドルを握る斎の表情はどことなく焦りを見せている。斎の新しい愛車・アストンマーティン ヴァンキッシュは銀色の車体で風を切りながら高速を駆け抜けており、その後ろを追従するのはソフィアの愛車であるフォードマスタング シェルビーGT500だ。二本線のレーシングストライプが青い車体に走ったこのアメリカ産のマッスルカーは、助手席にアトラスを乗せている。


「アトラス。周囲に怪しい車はいないか? 」

『今のところは。既に連中のシマは抜けている。ここでぶちかますほど奴らも馬鹿ではないだろう』

『だといいわね。アトラス、一応銃は出しておいて。後部座席に隠してるライフルがある』

『人使いの荒い……おい、これは何だ? 』

『何って、ウィンチェスターライフルよ。1895年式の。最後の軍用ライフルね』

『随分な骨董品だ。銃にはこだわらんが、これは博物館に飾るべきだな』

『鉛玉を撃つなら古いも新しいも関係ないわ』


 やれやれ、と斎は片手で頭を抱えた。普段の言動のせいでアトラスがイカれているように見えるが、ソフィアも言ってしまえば十分な変わり者だろう。彼女の西部劇嗜好はそうそう変えられるものではないらしい。二人の会話をインカム越しに聞き流しながらミカエラから着信を受けていることに気づき、ブルートゥースで携帯と車内システムをリンクさせると電話を取った。


『斎さん、運転中のところ失礼するであります』

「どうした? 」

『動画の解析をしたところ、送信元の座標は暗号化されており解除に一日かかります。ですが、映像の中にヒントが幾つか存在しています』

「簡潔に頼む」

『まずはあの動画内の音声に地鳴りのようなノイズが一定周期で入っている事。この地域でそんな音環境を整えられるのはライブ会場かクラブのみであります。次に監視カメラの映像をハックしたところ、一組の女性を連れているバンがロスの市街地近郊で確認できました』

「なるほど。早計かもしれんが、時間は刻一刻を争う。クラブがあるのはダウンタウンだけだったな? 」

『はい、全部で3件です』


 よし、と斎は相槌を打ちながらバックミラーへ目を向ける。シェルビーGT500を駆るソフィアが視界に映り、その後ろを見やった。何も来ていない。


「なら俺たちで手分けして捜索する。俺、アトラスとソフィア、それと警部とランスロットの3組だ。座標をそれぞれに送ってくれ」

『了解であります』

「アトラス、ソフィア、聞いていたな? ミカエラから送られてくる座標に向かってくれ。装備は揃っているはずだ」

『はぁ……随分と重労働ね』

「その分謝礼は弾む」

『……その言葉、忘れないでおいてよ? 』

「まったく……金の話となると目の色が変わるな」


 そんなことを愚痴りながら車を走らせていると、カーナビが斎の電話の着信を知らせる。呼び出し主であるダニエル・マクレーンと書かれた液晶に片手で触れ、彼からの電話に応答した。


『おいイツキ、こりゃあ一体なんだ? クラブにでも行って気晴らしか? 悪いが俺ぁ趣味じゃねえんでな、バーなら付き合うぜ』

「警部、聞いてくれ。その座標はリンが捕らえられていると予測した施設を指し示している。だが3件あってな、一人じゃ回り切れない。そこでランスロットと一緒に侵入して中の様子を探ってきて欲しいんだ」

『またいきなり無理言いやがる……まあいい。すぐにでも向かう。お前の方はどうするんだ? 』

「俺は一人で行く。じゃあまたあとで」


 おいお前な、とマクレーンが何か言い掛けたところで斎は通話を終了し、保留にしていたリュディの着信を受け取る。


『斎、どうしたの? 』

「これからミカエラが送ってきた座標のクラブへ突入する。リュディ、ナビゲートを頼む」

『武器は? 』

「今あるのはHK P30L。それに長刀型と短刀型の高周波ブレードだ」

『なら短刀型にして。長刀型じゃ周囲の人を巻き込む可能性があるよ』


 了解した、と斎は相槌をうちながら助手席のダッシュボードを開けて黒塗りのドイツ製自動拳銃を見やった。銃口にサイレンサーが取り付けられたその銃の傍に4つの弾倉が転がっている。敵の本拠地に乗り込むのだから拳銃一丁だけでは正直心もとないが、そんなことを口にする余裕もない。防弾性の強化素体を身に纏った状態の斎なら多少の銃弾ならもろともしないが、それでも痛みを伴うのは明白だった。そして斎は自分の腰に空いた左手を置く。彼の相棒、グレイ・バレットが愛用していた銀色の回転式拳銃の感触が彼の義手の感覚に走った。


『……斎? 』

「あ、あぁ。分かった。これから向かうぞ。ミカエラとマスター、それに警部たちにも伝えておいてくれ」


 わかった、とリュディの声が聞こえたかと思うと斎はアストンマーティンの速度を上げ、ダウンタウンの喧騒へと身を投じていく。これから散々感じることになる嫌な感覚を斎は感じながら、愛車の速度を高めていった。

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