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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 6: Out of Control
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Act 48. Magnificent Metal

<地元モーテル・サンディエゴ>


 夕暮れ。予め予約しておいたモーテルの部屋に戻ってきた斎は入るなりコートをハンガーラックに掛けながらベッドに腰掛ける。鼻から僅かばかり息を吐くと、徐に壁に設置されていた薄型テレビの電源を点けた。30インチ弱の画面には毎週放映されているコメディショーのオープニングが流れ、斎は冷蔵庫から缶ビールを取り出して再度腰を落ち着ける。彼のいる部屋は本来の部屋よりも広い間取りとなっており、一組のキングベッドのほかにソファベッドも完備されている少しグレードの高い部屋だった。


『斎、聞こえるかしら』

「ソフィアか。もうモーテルに戻ってるぞ」

『そのようね。今アトラスを連れてそっちに戻ってる最中』

「随分声音が疲れているな。何かあったか? 」

『アトラスが無駄に暴れたせいでこっちまでツケを払わされる羽目になったの。お蔭で無駄な体力使っちゃったわ』

『あれは連中が悪い。向こうから吹っ掛けられた喧嘩だぞ』

『買わなきゃいいだけよ馬鹿。まったくもう……とにかく、すぐ戻るわ。情報共有もしておきたいし。ミカエラにも連絡しておいて』

「分かった。ビールでも飲んで待ってるさ」

『私の分も残しておいて頂戴ね? 』

「早く着けば残ってるかもな」


 なんだか彼に似てきたわね、という捨て台詞を耳にしながら斎は缶ビールの縁を傾けて金色の液体を喉に注ぎ込んだ。彼女のいう彼、というのは間違いなくグレイの事だろう。彼が先ほど連絡を取り合っていた女の名はソフィア・エヴァンス。アトラスの片腕としてバディを組んでいる殺し屋だが、暴走するアトラスを止めるストッパー役も兼ねている。そんな中テレビのコメディショーは有名な映画俳優をゲストとして呼んでいる様で、多くの観客が歓声を上げている様子が垣間見えた。


『やっほ、斎』

「リュディ。今日は電脳世界の方にいるんだな。ロスの方はどうだ? 」

『こっちはいつもと変わりないよ。リンの手掛かりは見つかった? 』

「正直あまり手ごたえが無くてな。彼女が何者かに追われているという事だけは判明したが……」

『そっか……。ミカエラに繋ごうか? 今ならボクの回線を介して連絡できるよ』

「いや、まだいい。アトラス達がもうすぐ到着するみたいだからな。だがありがとう、お前たちのお蔭で大分調査が楽になってる」

『そ、そう面と向かってお礼言われると照れちゃうね、えへへ……』


 義手の小さな画面に表示されたリュディの表情が僅かばかり紅潮し、対する斎は僅かに笑みを浮かべる。この半年間で斎は以前のように感情を隠す事は無くなり、より一層表情が豊かになっていた。敵対していたアトラス達ともコミュニケーションを取るようになり、以前の彼とは見違えるほど人間味が増したと言っても過言ではない。缶ビールの二口目を喉に注ぎ込んだところで部屋のオートロックキーが開き、一組の男女が中に入ってくる。


「おかえり。待ちかねたぞ」

「あら、貴方からそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかったわ。ね、アトラス? 」

「俺としては複雑な心境だ。好敵手にそう言われると調子が狂う」

「今は争っている暇は無いと言っただろう、アトラス。それよりも情報共有をしよう。リュディ、ミカエラとマスターに繋いでくれ」

『あいあいさー! 』


 瞬間、コメディショーを映し出していたテレビの大画面が突如としてミカエラとウィーラー・ハンニバルの姿を映し出した。二人はロサンゼルス郊外にある隠れ家のミーティングルームでコーヒーを片手に談笑しており、突然の接続により慌てた表情を浮かべている。


『おや、ジジイのティーブレイクが覗かれてしまいましたか。御内密に、お三方』

『んもー、油断してる時に通信しないでほしいでありますぅ! リュディ、あとでおしりぺんぺん100連発であります』

『えぇ⁉ いやだぁ、助けてよ斎ぃ! 』

「やれやれ、相変わらず騒がしいな。一先ず報告したい事と聞きたいことがある」


 なんでしょうか、とミカエラが一呼吸置いたところで斎は口を開き始めた。


「現在俺たちが行っているのはリンの捜索で、数日前に彼女の目撃情報がこのサンディエゴ周辺で確認された。マスターの情報によれば、このあたりで幅を利かせているのはロシアンマフィアの連中だったな? 」

『左様でございます。いやはや、このような老いぼれの話を憶えててくださるとは光栄ですね』

「からかうなマスター。それでそのことについてなんだが、今日聞き込みをしていたらバーで4人組の男どもに襲われてな。無論返り討ちにしてやったが、連中もリンの事を探していた」

『リンちゃんをでありますか? 妙な話ですねぇ……』

「その話を聞くに、推測だけれどあの子がそのロシアンマフィアに喧嘩を吹っ掛けたからじゃないかしら」

「憶測だけでものを言うのは良くないぞ、ソフィア」

「うるさいわね、わかってるわよアトラス。それに考えるよりも先に体を動かすアナタに言われたくないわ」


 それぞれが缶ビールを手にしながら大画面の液晶を対面し、金色の液体を口に含む。確かに今回の件で不可解なことが一点だけある。なぜ斎を襲った男たちがリンを同じように探しているかという事だ。彼らがロシアンマフィアの手先である確証もない上、また一から情報を探し出さなければならない。若干途方に暮れながらビールを飲みほしたその直後だった。斎の腕の内蔵型スマートフォンが誰かからの着信を告げ、斎はそのコールに応答する。


「誰だ? 」

『アンタが居た店のバーテンさ。さっきはありがとうな』

「あぁ、アンタか。律儀に電話を掛けてくれるとは殊勝なことだ」

『そりゃどうも。アンタが欲しがってた情報の事だが、伝えたい事があるんだ』

「ちょうどそのことに関して話していたところだ」


 斎がスマートフォンの画面を操作し、スピーカー出力にするとバーテンの声が部屋内に響き渡った。アトラスとソフィアが腕組みをしながらその様子を眺めていると、男は口を開き始める。


『あの連中が属してる組織はこの一帯を占めているロシアンマフィアだ。俺も自分の身が危ないからな、組織の名前までは言えない』

「それだけで十分だ、それに――――」


 斎は右太もものホルスターに差さっていた回転式拳銃 S&W M686を窓へ向け引き金を数回引いた。ガラス製の窓などいとも簡単に貫いた.357マグナム弾が、部屋の向こう側にいた襲撃者の身体中を貫きドサリという音が窓の外から聞こえる。


「――あとはこの連中に聞く。耳を塞いでいろ」


 それだけ告げると斎は電話を切り、そばにいたソフィアの頭を下げさせた。間もなくしてタイプライターを叩くような軽い炸裂音が何度も響き渡り、部屋中の壁を打ち破る。アトラスがベッドを蹴り上げてそれを盾にするように身を伏せるとコートの懐からコルトガバメントを引き抜くと、スライドを引いて45口径の鉛玉を薬室(チャンバー)へ叩き込んだ。


「例の奴らか」

「だろうな! 俺の後でも尾けていたのだろう! 」

「ああもう、どうしていつもこうなるのかしら……! 」


 ソフィアの愚痴を横目に斎は部屋の奥へと走り出し、立てかけてあった高周波ブレード・日秀天桜の鞘をつかみ取る。スイッチを起動して青い閃光が刀身に走ったかと思うと彼は腰部分にその刀をマウントさせた。すぐにしゃがみ込んで再度迫ってきた銃弾の嵐から身を隠すと、息を吸い込んで前方へと駆ける。そんな彼に誘発されたのかアトラスが満面の笑みを浮かべながら同じように中華剣の一種である柳葉刀型の高周波ブレード片手に斎の横を走り始めた。


「ちょっと何やってるの⁉ 」

「ソフィア、カバーを! 」

「頼んだぞ、エヴァンス」

「ああもう、あのバカ二人! 」


 窓と扉を突き破って飛び出した二人が目にしたのは、ロシア製の自動小銃を手にした大勢の男たちの姿だ。臆することなく斎とアトラスは背中合わせになりながら彼らを見据えた後、銃口が向けられる寸前に一歩前へ踏み込む。互いの得物を振り抜くとそれだけで誰かの手足が血飛沫と共に宙を舞った。そんな二人に気を取られている隙をソフィアが逃すはずもない。彼女の両手に握られた二挺のスタームルガー・ブラックホークが火を噴き、彼らを取り囲んでいたマフィアの一員を2人屠った。その後ソフィアは地面に落ちたAK‐12を拾い上げると、無我夢中で周囲に7.62mmの弾丸をまき散らす。


「走って‼ 」


 囲まれた男たちの僅かな間へ斎とアトラスは駆け、包囲網を抜けると同時に二振りの剣が新たな死体を作り上げた。3人程度など少人数で殺せると思ったのだろう暗殺者の数は斎たちと同じ数だけになり、刺客たちに焦りの表情が見える。暗殺者のうちの一人だった女が偶然別の部屋から出てきた老人のこめかみに銃を突きつけており、階段を下りながらゆっくりと三人に近づいてきた。人質を手にした彼らは水を得た魚のように無粋な笑みを斎たちに向け、手にしていた銃器を向ける。


「武器を下ろせ! でなきゃこの爺さんが死ぬことになるぞ⁉ 」


 絵に描いたような三下だな、と斎は吐き捨てると愛銃と刀を地面に落としながら3人の刺客を睨み付けた。隣のアトラスも同じようにして剣を投げ捨て、おどけたように肩を竦める。彼の視線は背後にいたソフィアへと向き、彼女も溜息を吐きながら銃を地面に投げた。得意げになった刺客たちは斎たちの武器を拾い上げながら銃口を下ろさず、さらに凶悪な笑みを浮かべる。


「へ、へへ……俺たちに楯突くから悪いんだ……誰だか知らずに……」

「この辺りを仕切ってるロシアンマフィアか? だとしたら戦う相手を間違えていることをお前らのボスに伝えろ」

「黙れ! 誰がしゃべって良いなんて言った! 」

「さあ? 生憎口は武器ではないんでな」


 顔を真っ赤にして怒り散らす男は斎の頬を銃床で殴りつけ、斎は地面に倒れた。彼に集中しているその瞬間、ソフィアが瞬時に腰の後ろへ手を回し隠されていたもう一丁の回転式拳銃ピースメーカーを抜くと左手でハンマーを倒しながら引き金を引き――所謂早撃ち(ファニングショット)というやつだ――まずは人質を取っていた女の額を打ち抜く。一瞬のことで戸惑いを見せたもう一人の男が胸を撃ち抜かれ、そして先ほど斎を殴り飛ばした男の肩に45口径の弾丸が命中した。ソフィアは3人が同時に地面へ伏す光景を一瞥しながらゲートを開いてエジェクターロッドを押し、シリンダーを回転させて3発の弾丸の排莢を行う。その後銀色の拳銃を回転させながら腰のホルスターに仕舞うと、まだ息がある男へ歩み寄った。


「武器を下ろしたらアナタたちが死ぬ羽目になったわね。さ、大人しく白状なさい。あなた達はどこの所属で、誰に言われてここまで来たのかをね」

「ま、待ってくれ、話すから――」


 瞬間、ソフィアのブーツの靴底が男の銃創めがけて振り下ろされる。絶叫が周囲に響くが、構わずソフィアは力を込めた。隣でその光景を目の当たりにしていた斎やアトラスも顔を顰めるほどだったが、ソフィアはその様子を気にも留めない。


「わ、わかったって、言うよ‼ お、俺たちのボスはイゴール・サンデルス! それさえ言えば組織名は分かるだろ⁉ 」

「そうね。ご協力どうも」


 そう言い放ちソフィアは再度ピースメーカーを引き抜き男の眉間を撃ち抜く。まるで死んだ瞬間さえも認知できないような速さで絶命していった男を一瞥し、ソフィアは彼らのポケットをまさぐり始めた。


「何を……」

「彼らの携帯よ。何か情報があるかもしれないでしょう? 」

「……時折彼女が怖くなってくるよ」

「安心しろ。すぐに慣れるぞ」

「何か言った? 」

「いや何も。それよりも収穫はあったか? 」


 既に収集を終えていたソフィアは手にしたスマートフォンを2人に見せ、画面のスイッチを入れる。案の定ロックが掛かっているが、こういった簡易的な防護壁などミカエラやリュディにとっては紙同然だ。二人に支援を促すと数秒で携帯のロックが解け、スマートフォンのアプリやメールが露わになる。テキストに新たな着信があることに気づいたソフィアがテキストアプリに触れて起動すると、最新のやり取りが表示された。ちょうどのタイミングで"Unknown"という連絡先から動画だけが送られており、彼女はおそるおそるその動画を再生する。


『やぁ、諸君。君たちの一部始終はドローンのカメラで見させてもらった。だが惜しいな、あと一歩のところで私たちが先に行かせてもらったよ』

『クソッ、おいテメェら‼ 汚ねぇ手で触んじゃねえ! 』

「リン……! 」


 その動画には椅子に縛り付けられたリンの姿が映されていた。いたぶられたようなあざや傷がいくつも見え、自然と斎の怒りを湧き上がらせる。


『安心しろ。彼女はまだ殺さない。だが時間の問題だ、今日の夜中までに我々を見つけ出せなかったら彼女を殺す。せいぜい足掻いて見せろよ』


 それだけ告げると動画は停止し、3人の間に沈黙が生まれた。額に手を当てながら斎は先ほどの部屋まで戻り、3人分の荷物をまとめると足早に駐車場へと向かい始める。


「ソフィア、アトラス。急いでどこか別の場所でミカエラたちと連絡を取ってこの動画を解析しよう。時間がない」

「異論はない」

「ええ、そうしましょう」


 3人は各々の荷物を手にすると大型のSUVに乗り込み、騒ぎが大きくなる前に再度街中の方へと消えていく。新たな手がかりを得た斎たちは、焦りながらも車を走らせるのだった。

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