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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 3. Finding your Revenger
28/64

Act 28. 狼の遠吠えは、小さく

<ロサンゼルス市内・病院>


 その後。リカルドに全く手も足も出ずに伸された斎、グレイ、ランスロットの三人は緊急の患者としてロサンゼルス市内の病院に運び込まれた。ランスロットだけは機械人間(アンドロイド)専用の治療室へと預けられ、斎とグレイの両名は通常の病室へと押し込まれる。気を失ったグレイがベッドに寝かされ、まだ意識のある斎がその隣で横になった。斎の義手がリカルドの手によって完全に破壊されてしまったお蔭で彼は今両腕が無く、酷く奇特な視線を向けられている。


「俺の事よりも奴を先に治療してやってくれ。おそらく俺より重傷だ」

「で、ですけど貴方の腕は……」

「気にするな。元より人間の医療では話にならん。機械の力にでも頼るんだな」


 皮肉交じりに二の腕の関節から先がない腕を広げつつ、斎は寝転がった。隣で傷の治療をされているグレイの様子を一瞥しながら器用に足でカーテンを閉め、白い天井を仰ぐ。


「あの男……」


 彼が呟いたのは無論リカルドの事だ。赤く血走った双眸を思い出すだけでも得も言われぬ不快感が斎を襲う。しかもランスロットやグレイという手練れを一瞬で戦闘不能にさせる戦闘能力。自分たちはもしかしたら、とてつもない相手に反撃の狼煙を上げているのではないか。珍しくそんな不安が斎を襲った。ネガティブな感情に包まれている斎の横で、直ぐに治療が完了した医師がカーテンを開ける。


「今しがた完了しましたよ。幸い打撲と捻挫程度で済んでます。お知り合いの警察の方が大騒ぎされていたそうなので、何事かと慌てたものですが」

「それは失礼した。そいつが起きたらすぐにでも出ていくさ。治療費は? 」

「あとで記入して頂く書類が幾つかありますからその時にお知らせしますよ。安心してください、そこまで高くはありませんから」

「……医者の言葉は信じよう」


 にこやかな表情を浮かべつつ医師は部屋を後にし、静かな病室には斎と寝ているグレイだけが取り残された。彼の首には先ほどリカルドに掴まれた手の跡を隠すように白い包帯が巻かれており、開けたシャツの中にも治療の跡が見え隠れしている。


「斎さんグレイさん、いるでありますか? 」

「お見舞いに来たッスよ」

「リンにミカエラか、入って来てくれ」


 間もなくしてリュディを映すタブレットを手にしたミカエラとリンが病室に入ってきた。普段通りの冷静さを保っているようだがその表情はどこか不安げで、斎の顔を見るなり気難しそうな笑みを浮かべる。どうにかして慰めようものにも生憎今の彼は両腕が無い。内心溜息を吐きつつ、彼女を迎え入れた。


「無事でよかったでありますよ……。正直、心配したであります」

『どうなるかと思ったよ……、ほんと、無茶は止めてね』

「腕はこの通りオシャカだがな。また高い修理費が掛かる。マクレーン警部は? 」

「ランスロット警部補の所へ行きました。文句言いつつも彼の事気に掛けてるんでありましょう」

「あの人らしい。グレイ、ミカエラたちが来たぞ。起きろ」


 足で寝かせられているグレイの身体を小突き、いびきを掻いて寝ていた彼を起こす。打撲の跡が痛むのかグレイは引き攣った声を上げながら目を覚ました。寝ぼけ眼を擦りながら欠伸をするグレイの姿は呑気そのもので先ほどの怒りを露わにしていた様子とは程遠い。


「ったく……人が気持ちよく寝てんのに足蹴にして起こす奴があるか? 」

「日頃の行いだ。それにみんなお前の話を聞きたくてここにいるんだからな」

「そうっスよ。正直言って、あの時のセンパイの声……無線で聞いてても怖かったッス」

「おいおい、男の過去話なんて聞いても腹の足しにもならねえぜ? さっさとマクレーン警部に挨拶してロニんとこにでも飯食いに行こうや」

「……グレイさん。話しておいた方が良いでありますよ、今後の為にも」

『隠し事は駄目だよグレイ。ボクも何があったのか聞きたいな』


 ばつが悪そうな表情を浮かべながらグレイは後頭部を掻きむしり、一度だけ深い溜息を吐いた。直後彼は真剣な顔つきへと変わり、口を開く。依頼の時でも見せない表情に思わず斎は眉を顰め、グレイの言葉を待った。


「わーったよ、話しゃいいんだろ。えーと……どこから話したもんか……」

「あのリカルドという男との関係は? 」

「……元上官だ。過去に俺は海兵隊にいたって言ってたっけ? その時の特殊作戦部隊の一人だった。俺はまだ配属されたばかりの新人でな、色んな連中に世話になったもんさ」

「んじゃあその時に仲良くなったってのがルイスさんって事っスね? 」

「そうだ。……実はな、あいつが殺された時に何となく目星は付けてたんだ。海兵隊基地に忍び込める奴なんてそうそういないしな」

『その、話を端折るようで悪いんだけど……過去にそのリカルドって奴と何があったの? 』

「……率直に言えば、俺以外の隊員を全員殺された。あいつは作戦の内容を何処かのゲリラ組織に横流しして機甲兵に襲わせて俺達を罠に嵌めたんだ」


 全員が沈黙に包まれる。奥歯を嚙み締めながら視線を俯かせるグレイが、拳を握る力を強めた。初めて見るグレイの表情だった。実に悔しそうに、そして悲し気な双眸は誰一人の目を見ていない。虚空を彼は見つめていた。


「今でも夢に出てくる。罠に嵌って逃げ惑う俺達の進路を読んでいたのか、その先にトラップが仕掛けられていたんだ。地雷で一番世話になった仲間の両手が吹っ飛んで、血塗れになって。"もう狙撃が出来ない、お前に教えられない。すまない、すまない"って必死に俺に謝るんだ。死ぬ時までそいつは、俺の命を優先してくれた」

「……その、仲間とやらは? 」

「俺が殺した。楽にしてくれ、って言ってたから。指揮をする隊長が裏切り者だと判明したから俺達は自分の意思で逃げ切るしかなかった。回収ポイントに辿り着くまで3日は掛かったが、その間に俺以外の味方は全員殺された」

「そんな……」


 ミカエラは全てを知っていたようで、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。過去の辛い記憶を思い出して疲労感を感じたのか、グレイは再びベッドに横たわった。


「それ以降、俺は通常の部隊に戻される事になったが……勿論ロクに引き金を引く事なんざ出来なくなった。それがだいたい7年前……俺とミカエラが出会う前だな」

「初めて出会った時の事はよく覚えてますよ。グレイさんをヘッドハンティングしようとしたら酒に酔いつぶれてホームレスみたくなってるんでありますからね」

「……ま、これが俺の過去ってやつさ。ロクなもんじゃないだろ? 」

「いんや、そうでもねえぞ」


 グレイが話を終えた所で病室の扉が開きくたびれたスーツ姿のマクレーンがランスロットを連れて入ってくる。既にランスロットの修理は完了したようで依然と変わりなく生気の感じられない綺麗な顔を向けながら斎の隣に座った。


「聞き耳なんてらしくない事すんじゃねえか警部? 録音でもして流すのか? 」

「んな事するかよアホ。そのリカルドって奴を追う手がかりがお前の話の中で掴めそうなんでな。お前、他に海兵隊の知り合いは? 」

「もう居ねえよ。全員死んだって言ったろ? 」

「……すまん、忘れてくれ」


 隣のランスロットがとにかく、と口を開き始める。


「虱潰しに探し回るしかありませんね……。警部、私達の方でも何か手掛かりを探ってみるべきでは」

「たりめーだシリコン頭。こりゃれっきとした事件だよ。容疑者が殺害されちまったからな、クソッタレ」

「つまりはブライス・ヘイブン殺害事件として正式に立件すると? 」

「そうだ。……という事で、お前たちにはこの事件の捜査協力を依頼したい。仕事の中で何か証拠を掴んだら必ず俺達に連絡しろよ」

「……むしろ、直ぐに重要な手がかりが掴めそうな気はするがな」

「理由を聞いても? 」


 最早トレードマークとなった仏頂面をランスロットに向けながら斎は言葉を続けた。


「現時点で俺達は犯人の目星はついている。指名手配になるのも時間の問題だ。そうなる前に……」

『連中が目撃者であるボク達を殺しに来る。そういう事だよね、イツキクン』


 ミカエラの腕の中にあるタブレットに映ったリュディの言葉に斎は静かに頷く。彼らの会話を聞いたと同時にリンが一瞬だけ怯えた表情を見せるが、隣のベッドに座っていたグレイが乱暴にリンの頭を撫でた。


「わひゃっ!? な、何すんスかセンパイ!? 」

「んなシケたツラすんなよ、リン。向こうから来るなら大歓迎じゃねえか、なぁ? 」

「そうは言いたいが、生憎腕がこれではな。修理費を請求しなければ話にならん」


 斎の視線が途端に妖しく光り、マクレーンの禿げ上がった頭を見つめる。彼は深くため息を吐いた後くたびれたスーツの胸ポケットに手を突っ込み、愛煙している赤いパッケージのマールボロの箱を取り出した。すかさず隣のランスロットが彼の手を掴み、口を塞ぎながら首を横に振る。


「警部、ここは病院です。禁煙ですよ」

「少しくらい寛いだってバチなんか当たりゃしねえよ」

「駄目です。吸うなら屋上に無理やり連れて行きます」


 そんな言葉を吐きながら既にランスロットの腕はマクレーンの身体を持ち上げており、斎たちに別れを告げながら病室を後にした。そんな一瞬の出来事を垣間見た斎たちは気圧されながらもベッドから立ち上がり、同じように病室を出る。


「離せこのシリコン野郎! ガキみたく扱うんじゃねぇェェェっ!! 」


 男性の罵声が病院内に聞こえた気がした斎たちは、密かに笑みを浮かべながら病院を後にした。

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