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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 3. Finding your Revenger
25/64

Act 25. The game will be continued.

<廃品倉庫・西側>


 一方その頃。迫り来る敵を蹂躙していた斎とは打って変わり、潜入していたリンとグレイは苦戦を強いられていた。圧倒的な力を持つ斎から逃れようと数十人の敵が倉庫の奥へと駆け込み、二人の想像していた以上の数に膨れ上がる。既に二人の姿も連中に見つかり、飛び交う鉛玉の嵐を錆びついた鉄屑の山の陰に隠れて凌ぐ。

 

「ったく……どうして俺ぁこうなるんだか。上手くいった試しがねぇな」

「ボヤいてても仕方ねぇっスよセンパイ。とにかく今は連中ぶっ殺す事考えましょうや」

「とは言え、作戦変更しなきゃリーダーに逃げられる。今頃逃げる準備でもされちゃあひとたまりもねえ。そう言う事だイツキ、聞いてたか? 」

『人の会話を盗み聞きする趣味は無いが、了解した。敵はそっちに任せる。俺は地下に行くぞ』

 

 上出来、と煙草を咥えながらグレイは不敵な笑みを浮かべた。手にしていたレミントン社製自動小銃 R5 RGPのバナナ型マガジンを取り外し、全弾装填されている事を確認すると弾倉を元の位置に戻す。次にチェストリグのポーチから丸型の破片手榴弾(フラググレネード)を取り出すと、リンへ向けて凶悪な笑みを向けた。

 

「派手に行こうぜ、新人(ルーキー)。お前の歓迎代わりに一つデカい花火を打ち上げてやるよ」

「あたしとしちゃあプレゼントの一つくらい欲しいっスけどねぇ? 」

「その銃やっただろ? それで我慢しな」

 

 そんな小言を交わしながらグレイは手榴弾のピンを引き抜き、瓦礫の向こう側へと投擲する。敵側から慌てたような声が聞こえた直後、内部の火薬が破裂し轟音と鉄片を周囲に撒き散らした。倉庫内の砂埃が舞い、二人の姿をひた隠すとグレイは真っ先に陰から飛び出る。手榴弾の餌食になった支援者のメンバーの屍を踏み越え、物陰から顔を出した男の脳天へRGPの引き金を引いた。5.56mmの鋭い鉛玉が血肉を貫通し、灰色の地面を赤く染め上げる。

 

「今だリン! 行け! 」

「やってるっスよぉっ! 」

 

 シグ・ザウエル社製の自動小銃(アサルトライフル) SIG552のスリングを肩に掛けながらグレイの横を駆け抜け、リンはスライディングと共にコンテナの陰へと辿り着いた。手榴弾から逃げ果せた数人の男達と接敵し、グレイと同じような不敵な笑みを浮かべてSIG552のトリガーを引く。無数の銃弾が男達の身体中に風穴を創り上げ、深紅の芸術をコンテナに描いた。弾倉の30発全てを撃ち切った所でリロードしようとしたその瞬間、彼女の隙を突こうと別の場所から二人のメンバーが自動拳銃(オートマチック)の銃口を向けて近づいてくる。

 

「やっべぇっ! 」

 

 口ではそう言いながらも、リンの表情は何処か狂喜に満ちていた。自動小銃から手を離し、右腿にあったレッグホルスターからIMI ジェリコ941を引き抜くと身を屈めて.45ACP弾を肉薄する。しゃがみ込んだ状態から目の前の敵の足元へ接近し、右膝へ9mm弾を叩き込んだ。耳に響く絶叫と共に相手が地面に膝を着いた瞬間、リンは立ち上がった拍子に男の顎へ膝蹴りを見舞うと二人目のメンバーへジェリコの銃口を向ける。

 

Go to Hell(あの世へ行きな)!! 」

 

 胸に二発、頭に一発。いつもグレイが教えていた言葉を脳裏に浮かべながらリンは引き金を三回引いた。9mm弾は間もなく一人の男の命を奪い去り、足元へ転がっていた敵にも止めの一発を食らわせる。向かって来た敵を始末したリンはすかさず目的のコンテナの陰へと隠れ、背後を振り向いた。グレイの顔がすぐ近くにまで迫っており、思わず彼女は頬を紅潮させる。鉄火場なのにも関わらず思春期のような反応を見せるのは、些か皮肉なものだが。

 

「上出来だ、リン。今のうちに弾入れとけ」

「分かってるっス! 」

 

 ジェリコ941とSIG552の弾倉を入れ替えるリンの姿を一瞥しつつグレイはコンテナの陰から目線だけをゆっくりと出す。銃弾が掠る甲高い音が響いたかと思うと顔を引っ込め、短い溜息を吐いた。前進しなければやられる。そう感じた彼はもう一個の破片手榴弾を手に取り、ピンを抜いて向こう側へと投げ捨てた。火薬の破裂音と共に鉄片が周囲に散乱し、倉庫内にいる敵の肉を抉り取っていく。その瞬間にグレイはコンテナから飛び出し、その後にリンも続いた。

 

「あの木材まで行くぞ! 」

「了解! 」

 

 レミントン R5 RGPを手にしながら立ち込める砂埃の中を駆けるグレイに続き、リンも装填済みの得物を手に突き進んでいく。破片手榴弾によって体の一部を損傷した血塗れの敵へ確実に鉛玉を叩き込みながら二人は煙の中を抜け、3人の生き残りと接敵した。

 

「居たぞーっ!! 」

「そりゃそうさ、テメェらぶっ殺しに来たんだからなァッ!! 」

 

 そんな言葉を吐き捨てながら一人目の敵へRGPの引き金を2回引く。5.56mmの鋭い銃弾が相手の両膝を撃ち抜き体勢を崩すと、グレイはS&W M686に持ち替えて男の首を腕で固定しながら一歩前へと進んだ。残された二人の敵から無数の弾丸が飛んでくるも、味方を殺す事しか出来ずグレイの身体には傷一つ付けることができない。そのまま腕の中の死体を蹴飛ばして視界に映っている相手へと一気に詰め寄った。

 

「惚けてんなよ、お馬鹿さん達? 」

 

 最早トレードマークとなった不敵な笑みを浮かべつつM686の.357マグナム弾を胸に叩き込み、体勢を崩さんとしていた相手の髪を掴み取ると銃口を突き付けて再度引き金を引く。血飛沫と同時に出来上がった死体をすぐさま投げ捨て、グレイは最後の一人へ視線を向けながら踏み込んだ。

 

「は、早っ――――」

「お前さんが遅いだけだ」

 

 腹部に一発鉛玉を撃ち込み、体勢を崩した所で脳天にもう一発叩き込む。返り血を浴びながらグレイはすぐに周囲へ注意を向け、まだ数個の銃口が自分とリンに向いているのを悟ったのか身を屈めながら直ぐ近くにあった柱へと身を隠した。直後タイプライターを打つような軽い炸裂音と共に違う種類の銃弾がコンクリートの一部を抉る。左方へ視線を向けるとリンも同じようにして鉄塊の嵐を凌いでいた。彼女と視線を交わし、自分が先に出るという合図を送るとグレイは腕時計型の通信端末を開く。

 

「ミカエラ、敵の残存戦力は? 」

『およそ10人程度。柱の向こうにいるので全部でありますよ』

「よし来た。楽しいパーティーの始まりだ、リン。聞いたな? 」

 

 リンの首が縦に振られた。呑気にチェストリグへ手を突っ込み愛煙している煙草ラッキーストライクを取り出すと、フィルター部分を口に咥えて火を点ける。一回だけ煙を吸い込んだ後に愛銃を手にすると蓮型のシリンダーをスイングアウトさせ、履いていたジーンズのポケットに手を突っ込んだ。4発のマグナム弾を取り出し、一つずつシリンダーの穴へ入れ込むと手首のスナップを効かせて再装填(リロード)する。グレイは柱の外へと飛び出し、再び持ち替えたRGPのトリガーを引き絞った。物陰から顔を出していた敵の額を撃ち抜き、周囲に血の海を創り出す。

 

Let’s Rock(始めようぜ)!! 」

 

 弾切れを起こしたRGPから手を離し、愛銃の回転式拳銃(リボルバー)M686のグリップを握り締めるとまた一人の脳天に血の花を咲かせた。トップスピードで駆け抜ける彼はやがてフォークリフトへと辿り着く。身を隠しながら銃弾を凌ぐ彼は首から提げていたRGPへと視線を落とし、マガジンキャッチを押すと30発装填のマガジンをチェストリグのポーチに入れた。新たな弾倉を取り出すと滑り込ませるように弾倉を交換した後、セレクターレバーをフルオートから3点射の方向に変え、チャージングハンドルを手前に引くとマガジンの底を叩いてからフォークリフトの運転席から外の様子を覗き込む。

 

「おわっ!? 」

「センパイ、頭下げててくださいよッ! 」

 

 彼の進行を援護するかのように背後のリンがSIG552のトリガーを引き続け、陰に隠れている生き残りの足を止めている。そんな光景を一瞥したグレイは先ほど殺した相手から奪ったチェコスロバキア製の自動拳銃(オートマチック) Cz75空いていた左腿のレッグホルスターに差し込むとRGPの銃口だけを露わにして一気に引き金を引いた。レシーバー内の撃針が5.56mm弾の雷管を叩き、尖った銃弾が銃身を通して射出されると同時に排莢口から幾つもの薬莢が吐き出される。弾が相手に当たる事はない。だが、それでいい。

 

「リン! 」

「あいよォ! 」

 

 すかさずグレイはフォークリフトの陰から飛び出し、物陰に隠れていた生き残りたちの前へと姿を現す。M686とCz75を手にしながら真正面の相手の鼻柱目掛けて踵を振り下ろし、体勢を崩させた。MM686の銃口からマグナム弾を射出させ、先ずは一人目を屠ると右方から殺気を感じ取り左手の自動拳銃を相手の股間に向ける。だが、Cz75は不協和音を奏でるのみで銃弾を吐き出す事は無かった。

 

「ああクソッ、だから自動拳銃(オートマチック)は嫌いなんだ! 」

 

 そんな台詞を吐きながらCz75を背後の相手に投げつけた後に目の前の相手へ掌底を叩き込み、肺の中の酸素を吐き出させる。そのままグレイは敵の身体を足掛かりにして空中に飛び上がり、背後の生き残りへM686を向けた。引き金が引かれる度に一人、また一人の命を刈り取っていく。銀色の銃身を持つそれは、まるで死神の鎌のように相手の急所を正確に撃ち抜いていった。グレイが地面に着地する頃には既に辺りは死屍累々と化しており、灰色の床や壁に深紅のコントラストが作り上げられている。リンの方も既に片付いたようで、返り血を浴びながら彼の下へと駆け寄ってきた。

 

「よし、これで片付いた。斎、そっちはどうだ? 」

『俺の方も完了した。ブライス・ヘイブンを捕縛したが……少しこっちに来て欲しい。共有したい情報がある』

 

 インカム越しに響く斎の声音は何処か疲れ切ったもので、グレイの不審感をより一層煽る。

 

「分かった。リュディ、斎の居場所まで行く方法は? 」

『そのまま倉庫の事務室まで向かって、その部屋の中に地下に降りる階段があるよ。その……二人に気をつけて欲しい事があるんだけど……』

「あぁ? んだよ、宝の山でも見つけたか? 」

『そんな良いものじゃないよ……。ごめん、ボクの口からはとてもじゃないけど言い出せない』

 

 珍しくしおらしいリュディに眉を顰めながらグレイはリンを連れて倉庫の奥へと歩みを進め、扉が開かれたままの事務室へと辿り着いた。乱雑に置かれた書類の束やファイルの奥に、薄暗い地下へと続いている階段を見つける。その暗闇から放たれる異質な雰囲気に、思わずグレイでさえも足を止めた。

 

「…………」

「センパイ? どうかしたんスか? 」

「……リン、気分が悪くなったら俺に言えよ」

「ど、どうしたんスか急に? 優しいセンパイなんて柄じゃないっスよ」

「冗談でもなんでもねえよ。俺の直感がヤバいって言ってんだ、素直に聞いとけ」

 

 この悪寒さえ走るような空気を感じ取れないのはある意味幸せだろう。そんな事を思いながらグレイは、まるで錘を付けられたかのように重い足取りで、地下室へと下りていく。暗く、湿った鉄の廊下を二人は歩き続けた。リンの方もようやくその雰囲気を悟ったのであろう、怯えた表情を見せながらグレイの隣に近づく。

 

「……来たか」

 

 長い廊下の先に辿り着いた所で、グレイとリンは明かりが点いている部屋へと到着した。見覚えのある長い銀髪を携えた男と、その足元に転がっている拘束されたもう一人の男の姿がそこにはある。だが、斎とブライスの事よりも真っ先に視界に入ったのは――――。

 

「おいおい……マジかよ」

 

 ――――ホルマリン漬けになっている、人間だった。それも一人だけではない。十数人にも及ぶ人数が各水槽ごとに分けられており、眠ったように目を閉じている。人間を造っている、とでも言うのだろうか。映画でしか見なかったマッドサイエンティックな光景に、グレイとリンは言葉を失った。

 

「い、イツキさん……こ、これって……」

「……詳しい事は俺にも分からん。ただ、俺達は人類の禁忌を見つけてしまったようだな」

 

 人間の禁忌。それは、人が自らの意思で理想の人間を作り上げる事。人間の技術は、己の種までもその範囲を広げていた。人造人間(バイオヒューマノイド)、とでも言った所だろうか。斎は涼しげな表情を浮かべながら気を失っているブライスの身体を担ぎ上げ、この部屋――研究室のデスクに座らせる。

 

「すまん、イツキ。今すぐにでもマクレーン刑事に連絡してくれ。俺ぁここにいると気が狂いそうだ」

「もうしてある。じきに来るだろうから、俺達も離れよう」

「そ、そうしてもらえると助かるっス……うっぷ」

 

 青ざめた表情で口を覆うリンは顔を俯かせながら研究室の外へと出ていった。同じようにして顔色を悪くするグレイは斎に肩を借りながら部屋を出ると、来た廊下を戻り始める。

 

「……とんでもねえモン、見つけちまったな……」

「あぁ。リュディ、ミカエラ、そっちは平気か? 」

『う、うん。ボク、あんなの見た事ないよ……』

『気分が良いものではないのは確かでありますね。研究器具から察するにあれはクローン人間。実験の隠れ蓑として、支援者(イネイブラー)が使われたんでありましょう』

 

 淡々としたミカエラの声を一瞥し、グレイと斎は地下室から脱出する。出来るだけ速い足取りでグレイ、リン、斎の3人は倉庫を後にし、任務を遂行したのだった。

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